やさしい体温 | ナノ


 急にハッとして、二回瞬きをする。そうして次に目に入ったのは緑色の茂みで、どうやらわたしはその茂みの中にいるらしい。どうしてだっけ?首を傾げると髪がサラサラと肩から落ちた。

「名前ちゃん、どこー?」

 不意に自分を呼ぶ声がした。あ、この声は聞き覚えがある。焦凍くんだ!茂みから目の上だけ出してあたりを見渡すと、池の近くで焦凍くんはきょろきょろと周りを見渡している。思い出した。今焦凍くんとかくれんぼしてたんだ!
 確か今日は焦凍くんのお父さんがお仕事でいないから、二人で焦凍くんのおうちで遊ぼうって約束したんだった。なんで忘れてたんだろう?まぁいっか。
焦凍くんとかくれんぼするときはいつも交互に鬼になるんだけど、わたしは焦凍くんを見つけるのが得意だった。焦凍くんが隠れるのがへたっぴなのかもしれないっていうけど、わたしは焦凍くんがどこに隠れていても見つける自信があった。なんかわかっちゃうんだ!なんでだろう?
 でも焦凍くんはわたしを見つけるのがいつもできなかった。あれ?こうやって聞くと焦凍くん隠れるのも見つけるのもできない。違うの!わたしが隠れるのも上手なの!

「名前ちゃーん・・・どこ・・・?帰っちゃったの?」

 わたしを呼ぶ焦凍くんの声がどんどん小さくなって、もう一度茂みから少し顔を出すと焦凍くんは下を向いて服の裾を握っていた。あ、泣いちゃう!すぐに茂みから飛び出して焦凍くんのところへ向かう。その時に焦っちゃうと池に落ちちゃうから、足元はしっかり見た。


「焦凍くん!」
「ぁ、名前ちゃん!どこにいたの・・・?」
「しげみにかくれてたんだよ。もう、また泣いちゃったの?」
「帰っちゃったかと思った・・・。泣いてないもん」

 うそつけ!目元がうさぎさんみたいに真っ赤になって、おめめもうるうるしてる。袖を少し引っ張って目元をやさしく拭いてあげた。

「わたしが焦凍くんをおいていなくなっちゃうわけないよ」
「ほんと?おいていかない?」
「ほんと!ずっとずーっと一緒にいようね」

 そういうと焦凍くんは目尻を下げてにっこり笑った。ちっちゃくて泣き虫なかわいいわたしの焦凍くん。わたしがずっと守ってあげなくちゃ。

「かくれんぼ終わり!アイス食べよう」
「うん!」








「ねぇ聞いてるの?」
 その声にまたハッとして、二回瞬きをする。目の前には・・・あ、上級生か。6年生の女の子が3人立っていた。そういえば校舎裏にきてって言われてきたんだっけ。

「あ、なんでしたっけ」
「だから!轟くんの周りをうろちょろするのやめてくれない?轟くんだって嫌に決まってるよ!」
「え」

 目の前の3人は焦凍くんのことについて語り出した。エンデヴァーの息子がどうとかかっこいいとかなんとかこんとか。まだ小学生なのに、もうお付き合いとかのこと考えるんだ。わたしもそうなるのかなあ。というか焦凍くんお父さんのこと言われるのすごく嫌なのに、何もわかってないんだなあ。

「うろちょろした覚えないです」
「はあ?いつも一緒にいてベタベタしてるじゃん!」
「幼馴染だし」
「幼馴染だからって調子に乗らないでよね!」
「はあ」
「生意気なのよこの」
「名前」

 あ、焦凍くん。気がついたら6年生の後ろにいた。もう委員会終わったのかな?焦凍くんは6年生をちらっと見てまたこっちを見る。ちょっと怖い顔してるから焦凍くんを好きな6年生怖がっちゃってるよ。

「もう委員会終わったの?」
「あぁ。待たせて悪かった。帰ろう」
「うん」

 焦凍くんが差し伸べてくれた手を握って歩き出す。教室においておいたカバンはいつの間にか焦凍くんが持ってた。教室に戻らなくていいからラッキーだなあ。

「名前、何かされたのか」
「え?何もされてないよ!」
「そうか」

 そういいながらこっちを見ていた顔を前に向けた。横からだと焦凍くんの白い髪の方しか見えない。同じ目の高さだから真横に顔があってお話がしやすい。あれ、そういえば焦凍くんっていつからわたしのこと呼び捨てにしたんだったかな?

「わたし、一緒にいたら迷惑?」
「名前を迷惑だなんて思ったこともない。それに」
「それに?」
「ずっと一緒にいるんだろ」
「・・・うん!」

 そう言った焦凍くんの横顔はほんのり赤かった。照れ屋でかわいいわたしの焦凍くん。でもちょっとかっこいい。言うと照れちゃうから内緒ね。
 わたしは焦凍くんを守るんだから、いつも一緒にいなきゃね。









 誰かが髪を撫でてくれている感覚に、またハッとした。瞬きを二回。うーん、なんか既視感。なんで また ハッとしたって思うんだろう?
 寝ていたみたいで、瞬きが少しゆっくりになった。目の前には誰かの足と、畳の部屋。いつもの匂いがする。あ、焦凍くんの部屋か。じゃあ撫でてくれてるのも焦凍くん?

「しょうとくん・・・?」
「起こしちまったか、悪りぃ」
「んーん。・・・おかえり」
「あぁ、ただいま」

 そうだそうだ、中学校が終わったから焦凍くんちにきたんだ。でもお部屋にいなくて、まだ帰ってきてないのかなあって畳に寝転んだところまで覚えてる。寝ちゃったんだ。焦凍くんのお部屋は焦凍くんの匂いでいっぱいだから安心してすぐ寝ちゃう。

「名前、他の人の家でもこうなのか」
「こう?お昼寝のこと?」
「ああ」
「友達の家ではしないよ?焦凍くんのお部屋だけ。なんか安心しちゃうの。焦凍くんの匂いでいっぱいだからかなあ」
「・・・そうか」

 撫でてくれる手がひんやりしてて気持ちいい。焦凍くんはいつも優しい。小さい頃に比べたら笑わないし泣かない。でもわたしにだけわかる顔でいつも笑うの。
 撫で続けてくれるせいで、またうとうとしてきた。少し瞼が重くて、ぼんやりする。

「また寝るのか」
「うーん、起きて、今日あったこととか、お話したい」
「後で話そう。眠いなら、寝たほうがいい。」
「・・・そばにいてくれる?」
「あぁ。いるよ。ずっと」
「・・・へへ」


 学校が違くても、会いにきたり会いにきてくれたりするから、何にも寂しくない。会えばいつも通りだもんね。
 ずっとこうやって一緒にいようね。わたしが守るからね。









 頭が痛い。すごく寒い。体はちっとも動かない。瞼さえピクリとも動かない。でも、やらなきゃいけないの。何をしなきゃいけないのかはわかんないんだけど、やめちゃだめなの。・・・そうそう、大事なものを守らなきゃいけないから。みんなと、あと、1番大切な人。
 みんなって誰だったかな。大切な人って誰だったかな。頭が痛くて寒くて考えられない。なんだかすごく眠くなってきた。でもやめちゃだめ。守らなきゃ。
 痛いこととかつらいことから、守らなきゃ。

 ・・・あれ、なんだか急にあったかい。このやさしい温度を、知ってる気がする。安心する匂いもする。やさしい声も聞こえる。

ーもう大丈夫。大丈夫だから。・・・守ってくれてありがとな

 大丈夫?・・・そっか、もう大丈夫なんだ。わたし、ちゃんと守れたんだ。じゃあ、もうやめてもいいね。
 怪我してないかな、痛くないかな。つらいことからちゃんと、守れたんだよね
よかった。安心したら気が抜けちゃった。悪い癖だよね。最後までちゃんと注意してないと。でも、今はいいんだよね。もう大丈夫なんだもんね。

 あったかい。あったかくてつめたくて、やさしい。わたしの1番大切な、焦凍くん。
そう、焦凍くんだ。あったら言わなきゃいけないことあったんだっけ。


 焦凍くん、わたしね、焦凍くんのこと



▼ そうして二回瞬きをする

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