やさしい体温 | ナノ


 ただただ、焦りばかりが積もっていく。
狙われているという爆豪を中心におき緑谷たちと宿舎へ向かうが、内心穏やかでいられない。気を失っているB組の生徒を肩越しに見て、再び前を見つめた。



 肝試しが開始されてからしばらく経った後、あたりにおおよそ自然発生ではないと思われるガスが立ち込め始めた。爆豪と周りを見ながら進んでいくとガスの効果範囲と思われるところに倒れていたB組の生徒を見つけ駆け寄ったが、意識はなく。呼吸と脈を確認し気絶と思われたが、声かけやタッチングでの応答は見られない。置いていくわけにもいかず背負って先を急いだ。
 今までの道で名前に会うことはなかった。それを踏まえると名前はこのガスの中にいてもおかしくはなくて。このB組の生徒のように倒れていたらと思うと気が気じゃない。一刻も早く見つけて、安心したかった。ガスを吸って倒れていませんように、敵と遭って怪我をしていませんように。そればかりが頭の中を占めていく。
 その焦りが見抜かれているかのように敵は目の前に出てきて相性の問題で苦戦も強いられて。こんなところで時間を取られている場合じゃないのにと苛立ちさえ感じた。常闇のおかげで敵は倒すことができたが、爆豪が狙われてるとわかった今爆豪を除く4人で守りながら移動することになって。その間も周りを見渡しては名前がいないことに安心したり落胆したり。いても倒れていたら、いなくてもどこかで戦っていたら。名前も十分強いとわかっているのに、後から後から心配も不安も湧いて出てくる。
 信じていないわけじゃない。ただ自分が、好きな人を守りたいと思うだけ。

 




「哀しいなあ 轟 焦凍」

 後少し届かない。指先が触れそうな距離だったのに。爆豪を閉じ込めた玉は敵の手の中に隠されてしまった。もう少し早く動いていれば、もう少し手を伸ばしていれば。この一瞬で数多の後悔が頭の中をよぎる。もう少しだけー

「お前に、土産を持たせてやるよ」

 そう思っていた瞬間、爆豪を掴んでいる手とは反対の手を前に伸ばしてくる。爆豪を掴もうとして飛び込んだ体制のままなのでその動きに対し何の反応もできない。目の前の手に青白い炎が灯され始めた。

ーやられる。目を瞑る時間すらない


 刹那、遠くの方から身に覚えのある冷気が瞬く間に草木を凍らせ、敵の手元の炎どころかその腕にも霜を降ろしていく。体勢を立て直すことができない体は霜や氷が張った地面に投げ出されるがその接触面から体が凍ることはない。見覚えのある、身に覚えるのあるその温度に目を見張った。

 爆豪が圧縮から解除され緑谷が走るが、一歩及ばず、爆豪は敵と共に黒い霧の中へ吸い込まれてく。打ちひしがれる緑谷を背に冷気がきた方を見やるが、期待したその姿は一向に現れることがない。むしろ、胸騒ぎがした。
 振り返り緑谷たちの後ろの森を見ても、まだ凍っていっている気配がする。こんなに、大規模に?足元を見ても、クラスメイトを見ても凍っていく気配はない。大規模で繊細な個性の使用、一体どこから、


「名前、」

 放つ声の震えは、この冷気から来ているわけじゃない。


「!轟、どこへ」
「この冷気の先だ」
「待て、俺もいく」

 障子に返事をしながら冷気の放たれている先へ足を動かす。「青山は緑谷と共にいてくれ」と障子が声をかけ、速度を上げ始めた自分についてくる気配がした。

 夏だというのに、吐く息は白い。その割に寒さはあまり感じなかった。草木はどこもかしこも霜や氷で覆われており、走る足元からは霜を砕く音が響いている。

ーもっと速く

 燃えていたと思われている地面も草も鎮火されそのなりを潜めている。走っても走っても焦げ臭さが消えない。

ーもっと速く動け

 途中に倒れている生徒も誰一人凍っていない。むしろ体のそばまであった凍った焦げ跡が、その炎から仲間を守ったことがありありと伝わる。


「この氷や霜は一体」
「俺の、幼馴染の個性だ」

 少し後ろをついて走っている障子は周りを見ながらその個性の規模に目を見張っている。それを尻目に走る。冷気は徐々に強く感じる、確実に近づいている。もう少しだ。もう行くから。



「・・・っ名前!」

 木々を抜けた先に倒れている真っ白な誰かが、君であってほしくて、できれば君じゃなきゃいいと願わずにはいられない


▼ 海よりも温かくて冷たい

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