やさしい体温 | ナノ


 お母さんのお見舞いに行ってから最初の月曜日。授業を終えた俺と名前は夕日に照らされながら帰路についた。
お見舞いに行った話をしながら、時々名前を盗み見る。名前の柔らかな髪が夕日に照らされてきらきらと光って綺麗だった。


「名前、ずっとお見舞いに行ってくれてたんだってな」
「え?あ、うん。焦凍くんを何度か誘った時以外にも行ってたかなあ。わたし焦凍くんのお母さん好きだから」
「そうか。・・・お母さんが俺のことよく知ってて、何でだろうって思ったら、名前がお見舞いに来てくれてたってお母さんが」

 
 目の前の横断歩道の信号が赤に変わったから、足を止めて並んだ。名前は下を向いたからか、肩にかかっていた髪がさらさらと流れていく。リュックのショルダーベルトを握る手は、俺よりずっと小さい。いつからこんなに差ができたのかは覚えていない。ただ、俺とは何もかもが違う名前がたとえ俺と全て同じだったとしても。名前が名前である限りそこにある感情が変わることはなかっただろう。


 名前は先程当たり前のように答えた。俺のことも結構な頻度でお見舞いに誘ってくれていたのに、それ以上に会ってくれていた。そうして俺の話をして、写真を渡して。俺の知らないところで、俺の話をする。俺とお母さんの隙間を少なくするために。


「俺のためか?」
「え?」
「俺のために、俺の代わりに、お見舞いに行ってくれてたのか?」


 俺の言葉に名前は顔をあげて、その大きな瞳と視線がぶつかった。聞かなくたって、俺のためにやってくれていたことはわかっているのに。それでも俺は名前の口からそう聞きたくて。

 お母さんのお見舞いに行ったあの時から、もう俺は決めていた。しがらみも、迷いも、憎しみも。それらに囚われていた俺をずっと支えて、手を繋いで。いつだってそばにいてくれた。だから幼馴染という関係に甘えていた。幼馴染であれば、ずっとこうしてそばにいてもらえる。
 でも、もうただの幼馴染はやめだ。俺の想いを受け入れてもらえなかったらと思って怖気付くのも、もうやめだ。寝ている時に想いを伝えるだけじゃ満足できない。

 俺はもう、ただの幼馴染でいたくない。


「・・・うん。わたしが会いたいっていうのも、あったけど・・・」
 そう、真っ白な頬を色付けながら名前はまた下を向いた。


名前。好きだ。どうしようもないほどに。

 名前に触れたくて、ショルダーベルトを固く握っている手をそっと解いた。俺より低いそのやさしい温度を感じていたい。


「・・・ありがとな」
「・・・うん」
「名前はいつも、俺のために何かしてくれてるな」
「そんなこと、ないよ」
「そんなことある」


 名前は頬を染めたまま、下を向き続けている。握っていた手を解いて、絡めるように繋ぎ直す。名前の指先が少し震えて、そっと握り返してくれた。振り解かれなかった。それがどうしようもないほどに嬉しい。心臓が速く脈を打つ。胸がくるしいのが、こんなにも幸せだなんて。

 
 少しは、伝わってるだろうか。見つめるこの目から。繋いでいるこの手から。お前を思う俺の温度が。



▼ ガラスの靴はわざと置いたの

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