やさしい体温 | ナノ

 苗字名前、たった一人の幼馴染で、俺の想い人。


 出会いは物心ついたあたりまで遡る。俺のお母さんの姉の子供。それが名前。
天真爛漫という言葉は名前のためにあるような子供時代だった。いつも俺の前を走っていて、俺はちっとも追いつけやしない。小さい頃はよくそれで泣いていた。でも名前は泣いている俺が待ってくれというと必ず足を止めて、俺のところまで来て手を握ってくれる。顔いっぱいに笑顔を浮かべて、俺の手を引いてくれる。名前は俺の憧れだった。

 俺のために、俺のヒーロになる。ヒーローになって痛みや苦しみから守る。そう言ってくれた名前の言葉も表情も、一度だって忘れたことなんてない。それら全てに、その瞬間に俺は救われた。もうその時から名前は俺のヒーローだった。だから俺も、名前のヒーローになると決めた。ヒーローになって、名前を脅かす全てから守りたい。そう、幼いながらに誓ったのを今も鮮明に覚えている。





「・・・名前、もう寝たのか」

 夕方独特の暖かさに、名前は畳の上で横になり眠りに誘われていった。アイスを持ってきても、こうやって寝てしまうことも少なくない。その度にテーブルの上でアイスを凍らせて、ブランケットをかける。夕日に当てられて煌めく髪を、そっとその形のいい耳にかけた。白く柔らかな頬を撫でると、その温度は普通の人間のそれよりも低い。指先も常に冷えていて、小さい頃は寒い時期になると、名前の友人ですらあまり近寄ってこないと本人は笑っていた。でも俺は名前の心が誰よりも暖かいことを知っていたし、「名前には焦凍くんがいるからそれでいいの!」と言われて、名前の個性に感謝すらしていた。冬は俺だけの名前だった。


 形のいい頭を撫でると、身動ぎをして手に頭を擦り寄せてくる。無意識のその動きに心臓のあたりが温かくなった。胡座をかいていた上半身をかがませて、寝ているのをいいことにそのまろい頬にそっと唇を寄せる。伝わる温度すら愛おしい。


 名前への想いが憧れから好意に変わるのには、そうそう時間はかからなかった。小さい頃は追いかけるだけだった背中が、歳を重ねるにつれて隣を歩けるようになって。もう気がついたら好きだった。名前といると心臓のあたりが温かくて、ずっとそばにいたくて、俺だけに笑ってほしいと思った。
 

「名前、」
 呼ぶ声は熱っぽく、湿り気を帯びている。こうやって想いを乗せて呼べば少しは伝わるかもしれない。起きている時にその手に、頬に唇を寄せればわかってくれるかもしれない。抱きしめてこの心臓の音を聴かせたら、気づいてくれるかもしれない。でも、受け入れて貰えなかったらと思うと怖くて、胸が張り裂けそうになるから。この想いはそっと抱えて、幼馴染の関係に甘えていよう。
今はまだ、想いを伝えるその時じゃないから。だから


眠っている時に愛するのを許してほしい



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