伝えきれぬ愛しさは
「焦凍くん、おまたせ」
休日午前10時30分。サポート科の寮の前でぼうっと立ち尽くしているとドアが空いて1人の女子が出てくる。いつもは下ろしている髪が少しくるくるとしてて、顔もなんだかいつもよりキラキラしている。白を基調とした水色のアクセントが入ったふんわりしたワンピースが歩く度にふわふわと揺れ、すらっとした胸元には大きめのリボンがひとつ。
「ああ」
「えへへ、どうかな?お洒落しちゃった」
その場でくるっとターンし、照れながらにっこり笑う。その仕草に心臓発作を起こして倒れそうだった。
「・・・すげぇ、かわいい」
「ほんとう?うれしい」
今日は名前とのデートの日だ。
俺と名前の出会いは合同授業だった。サポート科とヒーロー科の合同授業で初めて出会い、俺が一目惚れして猛アタックをしかけ、つい先日告白が成功しめでたく恋人という枠組みに収まることが出来た。
名前はかわいい。めちゃくちゃ見た目がタイプだ。顔だけではない。
「このね、胸元のリボンが可愛くて買ったんだ」
「ああ、よく似合ってる」
そのリボンが揺れる胸元には、女性の女性らしさをあらわすもの。胸の膨らみが、一切なかった。
いわゆる、ちっぱいというやつである。
俺は元来のちっぱい好きで、あまりにそのちっぱいへのこだわりが故、好ましい女性と出会うことがなかった。見た目がタイプでも胸があったらガン萎えだった。勃つものも立たない。
そんなこの世の終わりのような日々に降り立ったのが名前だった。
顔も可愛らしく性格も良い。そしてなにより、胸がない。
胸が無いことに俺の胸が踊ってさながらダンスフロアのようになっていた。実際に寮の自室で何度か踊っていた。
「今日のお買い物、欲しいものあるといいなあ」
「でけぇショッピングモールだから、あるんじゃねぇか」
「ね!楽しみだなあ。」
隣を歩きながらにこにことしている名前に心臓を蜂の巣にされながらなんとか踏みとどまる。笑っている顔と胸を交互にチラ見するのをやめられない。こんな邪な視線に気づかないでいてくれることを祈るばかりだ。
「あ!ここわたしの好きなお洋服のお店!入っていい?」
「ああ」
「焦凍くん待ってる?入りづらいかな・・・」
「いや、一緒に行く」
「大丈夫?」
「ああ、服を選んで楽しそうにしてる名前を見ていたい」
「えっ!も、もう!!すぐそういうこと言う!!」
顔を赤くしながらぷりぷりして店に入っていく名前を追いかけて店に入る。女の服はよく分からないがこの店の服がどれも名前に似合うことだけはよくわかる。欲を言えば隣の下着を売っている店に一緒に入って下着を選びたい。出来れば試着してるところを見たい。そして自分好みの下着をつけてもらってそれから・・・・・・、危ねぇ。妄想で股間が大暴れするところだった。恋人になってから、まだそういうことをしてはいないのだがそのうちそういうこともあるかもなと思っては、部屋でたまに妄想してしまい耽ってしまうのでよくない。でも健康な男子高校生だから致し方ない。
「それ、ほしいのか」
「え?あ、うーん。どうしようかなって」
「試着してみたらどうだ」
妄想を振り切って服を選んでいる名前の所までいくと、ひとつのワンピースを持って思案顔をしていた。紺のノースリーブで襟付きのワンピース。胸の下あたりで結ぶリボンが着いている。
これも絶対かわいい。全然似合うのに何を悩んでいるんだ。金か、金ならいくらでも出す。伊達にNo.1ヒーローの息子やってないからな。
試着を勧めると少し悩みながらも頷いて試着室に入っていった。
ソワソワと試着室の前で待っていると中から「着れたけど・・・」と迷いが混じった声があがる。
これは見ていいということだろうか?見ていいんだな?かわいい服をきたかわいい名前を!
「開けるな」
「あっ待って!大きく開けないで・・・」
「?ああ」
満を持してカーテンを開けようとしたら中から小さな声が上がったので、返事をしながら少しだけカーテンを開けた。あまり周りに見られたくないということだろう・・・・・・か・・・・・・・・・
「あ、あの・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「や、やっぱり似合わないよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「焦凍くん?」
試着のワンピースを着た名前は、控えめに言って神だった。ノースリーブから覗く細い腕もそうだが、なにより、胸が・・・ない・・・。本来なら胸の下で結ぶリボンのおかげで少しは胸が強調される服なのであろうが、それがまっっったく意味を成してない。ストーンとした胸元の少し下にただの飾りと化したリボン。逆に胸がないことが強調されている。たぶん名前はそれを気にしている。胸が無いのがわかり易すぎてしまう。
でも、それが、いいだろ・・・!!!
「・・・すげぇ、すげぇ似合ってる」
「ほ、ほんと?でも・・・」
「絶対買った方がいい。むしろ買わせてくれ」
「や、それは悪いよ!」
「せっかくのデートだから。プレゼントさせてくれ。本当に似合ってるから」
「うっ・・・」
やはり胸が気になるのかちらちらと鏡を見ながら迷う名前に似合ってるから買わせて欲しいと迫れば顔を赤くしながら困った顔をした。
可愛すぎる・・・。これがかわいすぎてしんどいという感情か。たしかにしんどい。
とりあえず脱ぐからという名前に名残惜しくカーテンをしめ財布を出して待った。俺は絶対に買うからな。
「あ、ありがとう焦凍くん」
「いいんだ。今度デートで着てくれ。」
「う、うん。・・・へへ」
「?どうした」
試着室から出てきた名前に抱えられているワンピースを一瞬で奪い会計をして渡すと、名前は照れながら受け取ってくれた。そしてもじもじしながら笑う。
「か、彼氏って初めてだから・・・。焦凍くんがこうやって似合うよって言ってくれて、買ってくれたの、すごく、嬉しくて・・・」
「・・・」
女の子扱いもされてこなかったから、なんか余計嬉しいような恥ずかしいような。
そう言いながらはにかむ名前を見ていたいけど見ていられなくて目元を覆う。全俺が涙し心臓は発作を起こして止まり犬だったら嬉ションしてた。犬じゃなくて良かった。
深呼吸してから名前に振り返って口を開いた。
「名前」
「なあに?」
「名前は、本当にかわいい女の子だ。」
「えっ・・・」
「服だって似合うし、今日の髪も化粧もかわいい。でも普段の名前だって、俺には女子にしか見えねぇし、俺の、好きな女だ」
言ってて少し恥ずかしくなったがこれ今ここで伝えないと絶対後悔するって頭の片隅でちっぱいの神が言ってる。個性を使ってないのに顔が熱くなる感じがした。暴発ではない。
でも俺の比ではないくらいに顔を真っ赤にして目を見開いた名前がいたから。
「え、あ、あの、焦凍く」
「ほら、クレープ食べるんだろ。行くぞ」
ぽかんとした名前の手を取って足を動かす。わたわたとついてきていた名前がそっと手を握り返してくれてたのに、頬が緩んだ。
「あ、あのね」
わたしも、焦凍くん好きだよ
店内音楽じゃない某5人組男性グループの恋の曲がどこからともなく流れる音がした。
Request by ぽぽ様
ぽぽ様、リクエストありがとうございました!
最高のLadyの続編甘々ということで、恋人になってからのデートを書かせていただきました・・・!
この轟くんはかなり男子高校生してる設定だったので結構俗っぽいですね。でもそんな轟くんも最高。
ヒロインちゃんも恋人になるまでの轟くんのアタックで女子という自己肯定感が少し上がったので、前回より少し可愛らしい仕様にしています。
この小説を少しでも楽しんで頂けたら幸いです!
リクエストありがとうございました!