やっぱりファーストインプレッション

Q.苗字さんのどこが好き?


「「顔」」


いや顔て。苗字さんは可愛らしい顔をしてるから、分からないこともないけれど。

雄英高校1年A組では現在、1人の女子生徒を巡ってクラスのツートップがそれは大人気ない戦いを繰り広げている。それに振り回されているほかクラスメイトは巻き込まれた時はゲッソリしながら、時に傍観しながらその戦いの行方を見守っていた。主に巻き込まれるのは僕なんですけれど。


「緑谷くん、ノート持っていこう」
「あっ、うん苗字さん」


数学の授業が終わって、ノートを日直が集めて提出するようにと教師からお達しがあり日直に該当する苗字さんが集めたノートを持って僕に声をかけた。そう、今日の日直は僕と苗字さんで一日運命共同体という訳だ。言い方が少し大袈裟かもしれない。
仕事の早い苗字さんは授業が終わってすぐに僕の出る幕もないほどぱぱっとノートを集めてしまう。持っていくのは1人だと僕がサボっていると思われるかもしれないからと声をかけてくれたようだ。苗字さんに集めさせてしまい気も使わせて申し訳ない。行こうとにっこり笑った苗字さんに顔に熱が集まるのを自覚しつつ、ドギマギしながらノートを半分以上貰おうとした。


苗字名前さん。1年A組の生徒でヒーロー志望。性格は明るく優しく、何でもテキパキとやって個性も柔軟性に富んだもので彼女にピッタリだった。そしてそんな苗字さんは、体育祭で全国放送に映ってから爆発的な人気を掴み取る。性格もそうだが、何より顔が可愛いのだ。そこら辺のアイドルとか比じゃない。美人と言うには愛らしさが強めで、守ってあげたくなるような可愛らしさ。いや守るのは彼女の方だと思うけどね、ヒーローだし。身長は小さめで、動物に例えるならリスみたいな感じ。とにかく小さくて可愛いということだ。そして愛嬌に富んでいるのですぐににこにこするから落ちる輩が後を絶たない。


「名前、俺も職員室に用があるから俺と行こう。」


そう、こんな輩とか。
僕がノートを貰おうとした瞬間に横からスっと手が出てきてほとんどのノートを奪い取り苗字さんに微笑むのは、クラス1、いや学校一のイケメンと噂される轟焦凍くんだ。


「え?焦凍くんいいの?」
「もちろんだ。そのまま昼飯行かねぇか」


轟くんは苗字さんに王子様スマイルで微笑みながら一瞬僕にチラッと視線をよこした。多分「空気読め」だ。もちろん空気読めるので僕はすぐに伸ばした手をサッと後ろに隠した。轟くんはいい人なんだけど苗字さんが絡むと少し、少し難がある。
今でこそみんなと仲のいい轟くんだけど、入学時は少し怖い雰囲気で誰も寄せつけない感じだった。それをものともせずに挨拶したり話に行ったりしてたのが苗字さんで、そんな苗字さんに轟くんは心を打たれて彼女の虜になった・・・といういい話だといいんだけど、そうじゃなくてただ単に顔から入ったらしい。感動もくそもない。でもわかるよ苗字さんはかわいいもんね。


「ごめんね焦凍くん、お昼は勝己くんと約束してるんだ」
「えっ」


もう一緒にお昼に行く気満々の轟くんは「名前は何食うんだ?」と聞いていたが、苗字さんは困ったように笑ってから轟くんのお誘いを断った。僕の幼なじみと約束していると言って。その瞬間轟くんなぴしりと固まり、ギギギと僕の前の席、かっちゃんの方を向く。僕も一緒にそっちの方を向くと、話を聞いていたであろうかっちゃんが前を向いたまま轟くんに見せるように中指を立てた。

かっちゃんも例に漏れず、苗字さんを好きな輩の1人だ。入学当時からガルガルしてクソを下水で煮込んだような性格と言われていたが、そんなかっちゃんをもろともせず近づいてにこにこ話していた苗字さんにかっちゃんも心を開いた・・・訳ではなくこちらも単に顔がタイプだったらしい。どうしてさっきからいい話にならないのか。動機が不純だからか。
そんな2人が早々に相手も苗字さんを好きだと気づいてからは、最初にも述べたように大人気ない戦いを繰り返して苗字さんを奪い合っていた。他にも苗字さんを好きな人はかなりいるみたいだけど、この2人に顔面偏差値も戦闘力もかなうはずもなく、好きになった瞬間に場外へ押し出されている。

そしていちばん厄介なのは、当の本人苗字さんがこの2人の好意に気づいていないということだ。仲のいい友達と思っているらしい。仲のいい友達が君をめぐって喧嘩したり泥臭いバトルしたりしないだろ。「あの二人よく訓練してて仲良いよね」ってそれ君しか思ってないから。
というか、苗字さんて好きな人いるんだろうか。いたらこの2人の好意ひたすら迷惑でしかない。もしどっちでもなかったら、彼らのせいで苗字さんの好きな人が苗字さんを好きになれないからだ。


「じゃあ職員室一緒にいこっか」
「あ、ああ・・・」


お昼は一緒にできないショックと悔しさを抱えながら、苗字さんに促された轟くんはそれでも開き直って苗字さんの肩と自分をがくっつくくらい隣を歩いていった。いや邪魔だろ。歩きづらいだろどう考えても。
苗字さんも「歩きづらい」くらい言えばいいのに・・・。






「お昼はノート持って行ってくれたから、日誌は僕が書くよ。だから苗字さんは先に帰ってて大丈夫だよ!」
「え、ありがとう!でも一緒に待ってるよ。黒板でも綺麗にしてるね」


何度かのツートップの小バトルを挟みなんとか放課後になった。日直は日誌を書かなければいけないのでお昼にノートを持って行ってもらった苗字さんに僕が書くと進言すると、じゃあ黒板綺麗にするねと早速作業に取り掛かった。苗字さんは優しくてしっかりしてるなあ・・・。とその背中を見ながら日誌にペンを走らせる。こんな2人の空間なんてあのツートップが見たら発狂しそうだが生憎あの2人は戦闘訓練で不純な理由でバッチバチにぶつかり体育館の設備を壊したので反省文を先生の前で書かされている。これで多分5枚目だ。いい加減学んだ方がいい。


「苗字さん」
「なに?」
「苗字さんて、その、す、好きな人とかいるの?」


昼にも思ったが苗字さんに好きな人がいる可能性だ。もしいるならそれは応援してあげたいし、あの2人以外なら余計に助けてあげなければならない。僕はヒーロー志望だから・・・!2人の好意に気づいてないとしても、苗字さんに迷惑になってたらそこも何とかしてあげたいと思うのは、僕自身何度も苗字さんに助けられているからだ。主に2人に挟まれてる時に。・・・あれ、挟まれてるのって苗字さんのせいか・・・。


「いるよ」
「えっ、い、いるの?!」
「うん!内緒にしてくれるなら教えてあげるよ!」
「いいの?!な、内緒にするし協力するよ!!」


悶々としてたら苗字さんは好きな人がいると放ったので、一瞬固まってから勢いよく顔を上げた。日誌の記入欄に変な線も加わったがそれどころじゃない。しかも苗字さんは教えてくれるという。これは僥倖・・・!苗字さんを苗字さんの好きな人とかくっつければ、あの2人も諦めてバトルをやめて僕はもう少し穏やかな生活を送れる・・・!
えへへ、と照れながら黒板から僕の方へ歩いてきて、内緒だよ?と耳元に顔を近づけてきた。ウッ苗字さんの顔が近い・・・いい匂い・・・!!


「轟くん」
「えっ」
「内緒ね!」


放たれたその言葉にまたピシリと固まってから、離れた苗字さんを勢いよく振り向くと内緒ね!とにっこり笑った。うわかわいい・・・じゃなくて!轟くん聞いたか・・・!!いや聞いてないか。今この瞬間、君に軍配が上がったんだ・・・!よかったね轟くん!日々のアタックも無駄じゃな・・・いやでも轟くんの好意には気づいてないんだよね?じゃあ轟くんを好きになったのは轟くんのアタックの成果ではなく別の要因が?


「そ、そうなんだね・・・!協力するよ!」
「ありがとう緑谷くん。轟くん好きな人いるのかなあ」

君だよ!!!

「よく話しかけてくれるから、嬉しいんだ」
「よかったね・・・!!と、ところでさ」
「うん?」
「轟くんの、どこが好きなの?」


話しかけてくれて嬉しいと話す苗字さんは恋する乙女の顔をしていて控えめに言っても可愛かった。学校一のイケメンとアイドル急の美少女のカップル爆誕か・・・。あ、まだくっついてなかった。これは有名なカップルになりそうだ。かっちゃん、諦めつくかな・・・。もしくっついてもアタック続けるのかな。
轟くんはかっこいいし優しいし強いし、好きになる要素はそこかしこにあるんだけど、どこが好きなんだろうと野次馬根性が働いた。ツートップにも聞いてしまっているあたり、僕は恋バナが好きなのかもしれない。いや巻き込まれてるからそれくらい知る権利あるよね?
どこが好き?と聞くと苗字さんはにっこり笑って口を開いた


「顔」



顔かぁ・・・。


Request by RED様
RED様、リクエストありがとうございました!
お待たせしました。
顔がタイプのお話ということで、こんな感じに書いてみました。私のサイトではどの世界線でも緑谷くんはこういう役割です。ごめんね緑谷くん
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
リクエストありがとうございました!

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