見た目は後からついてくる

分厚いメガネに三つ編み。それが苗字のトレードマーク。というか、それしか見たことがない。実技演習の時ヒーロースーツに着替えてもそのまま。いやメガネはゴーグルに変わってるか。
流行とかお洒落とかに疎い自覚はあるけど、多分あれは世間一般でいう地味に分類されるのだろう。気にしたことは無いけど。


「苗字」
「あ、轟くん」
「それ手伝う」
「え?大丈夫だよ。このくらい持てるよ」
「無理すんな。女子が1人で持つ量じゃねぇだろ」
「うーん、大丈夫なんだけど・・・。じゃあお願いしようかな」


廊下で次の授業で使う教材を持つ苗字を見つけて少し早足で駆け寄る。苗字にギリギリ持てる量ではあるけれど、無理言って半分以上奪い取った。ありがとうと微笑む苗字の三つ編みがすこし揺れる。度の強い眼鏡で目元はちゃんと見えないけど、笑った時の柔らかい雰囲気が好きだった。


「・・・俺がやりたくてやった事だから」
「やさしいね」
「そんなことねぇよ。・・・誰にでもやるわけじゃねぇし」
「そうなの?じゃあ轟くんの優しさを貰えてラッキーだね。クラスメイトの特権だ」

そう言いながらクラスに向かって歩き出す苗字の横を並んで歩く。そういう意味で言ったわけじゃなかったのに、なかなか伝わらないものだ。
苗字のことが好きだった。どこが好きかと言われたら難しいけど、多分雰囲気だと思う。苗字はふわふわしてて、やさしくて、あったかい。こんなこと言ったら頭おかしいと思われるかもしれないけどそう思うから仕方ない。
強かなクラスの中でも控えめで自己主張がない。メガネに三つ編みがほかの女子よりも大人しげな印象を与えていた。花がないという奴もいる。というか花ってなんだ。あるだろ。苗字はこんなにも花が咲くみたいに笑うじゃないか。


「苗字、あのさ」
「うん?」
「今日・・・、放課後空いてるか」
「放課後?うん、何も無いよ」
「よかったら、明後日の英語の小テストの勉強、一緒にしねぇか」
「え?いいの?轟くん英語得意だもんね?一緒にやってくれると助かるなあ」
「ほんとか、じゃ、今日放課後勉強会な。」
「うん、約束ね」


下心ありありで誘った勉強会は思ったよりも前のめりで承諾してくれて内心天使がラッパを吹きながらおめでとうと飛び回っいていた。これで、苗字と2人きり・・・!勉強に集中できるかはわからないが勉強してる苗字を合法的に眺めることができる。こうやって2人で過ごす時間を増やしていけば、そのうち意識してもらえるかもしれない。英語得意でよかった・・・。
軽くスキップしそうになりそうなのをなんとか抑えて、教室までの短い道のりデートを満喫した。








「上鳴ィ・・・今日こそは、やるぞ・・・!」
「峰田・・・!やるんだな!今日!ここで!!」

屈折何十日。ついに実行する時が来た!!!着替えが終わった俺と峰田はみんなの集まる少し後ろでコソコソと作戦会議を開いていた。なんの作戦かって?それはもちろん

「今日こそ苗字のゴーグルをとってその素顔を拝んでやるぜ・・・!!」

クラス1地味系女子苗字の素顔を拝むことだった。俺と峰田の女子センサーは言っている。あのメガネの下は、絶対にかわいいと・・・!!

「やっぱりオーラが違うもんな・・・」
「俺くらいになるとわかるんすよ・・・メガネやゴーグルなんて無いに等しい・・・でもやっぱり素顔を見たいだろ!!それなのに、それなのに・・・!」

血涙を流しながら地面を叩く峰田を横目にみんなが集まっている方をみた。ヒーロースーツの時も三つ編みで、メガネより防御力の高いゴーグルを付ける苗字の横、絶対的なセコム。
そこに我がクラスのツートップの片割れ、轟がかなり近い距離で陣取っていた。ときおり苗字に話しかけて楽しそうにしている。

轟は絶対絶対苗字が好きだ。多分大体みんな気づいてる。気づいてないのは苗字くらいだろう。轟も可哀想に・・・。あんなにわかりやすいのに・・・。
そう、轟が苗字を好きだから、苗字にちょっかいをかけるのは至難の業になってしまっていた。
苗字に下心を持って近づこうものなら氷点下の視線をよこしてくるから身も心も物理的にも固まってしまう。いや怖ぇよ。

「チッ・・・今日も轟近いな」
「でも今日はあらかじめペアを組んでの対戦方式だろ・・・?」
「そんなん轟が苗字にペアを・・・・・・まさか、峰田お前」
「フッフッフ・・・俺を舐めない方がいいんすよ・・・俺は数日前から、苗字になんとかアピールしてペアをもぎとったんすよ・・・!!!」
「マジか・・・!!!轟をくぐりぬけたのか・・・?!」

マジかよ峰田・・・!!すげぇ執念じゃん!!!峰田が言うにはこの授業のペア決めを前もって先生から聞き出して苗字に打診していたらしい・・・!!それは轟も出し抜けるわ!!轟がペアのことを知って苗字に頼みに行った時にはもうペアが決まっていたということだ・・・!!

「すげぇじゃん峰田・・・!!・・・あれ、俺ペア決めてないけど」
「まあだいたい当日に決めるやつもいるから大丈夫だろ・・・!まあ対戦で当たらなくてもモニターを見てろよ・・・!俺は絶対やるから・・・!」
「おう!!!心強いぜ!!」

こんなにやる気の峰田が居れば大丈夫だろ!!俺はモニターの前で堂々と鑑賞を・・・!


「よろしく頼む上鳴」
「はい・・・」

と思っていた時期が俺にもありました。
決まってないペアを作るために引かされたクジがまさかの運命的に轟と一緒になったんだ・・・。そこまでならよかった。よかったんだけども。

「じゃあ最初の対戦はBチーム対Eチームね」

対戦チームが峰田&苗字だなんて・・・!!!
ガクッと膝から崩れ落ちて近くにたっている峰田にアイコンタクトを送ると、峰田もすごい顔をしてこっちを見ていた。これは難易度跳ね上がったか・・・?!いや、いやまて。轟は俺のチームだし苗字は峰田のチームだから、轟が苗字を庇うことは出来ないし、なんなら峰田に早々にやってもらえばいいし!!
轟が居ないとこで!!轟がいると少しでもちょっかいかけようもんなら赫灼熱拳食らう可能性もある・・・。
ちらりと横にたってる轟を見ると峰田をとんでもな
い目で見ていた。そりゃ見るよね。だって轟がペアになろうと思ってたのに峰田に先越されてたんだもんね。ズルで。・・・峰田もちょっとチビりそうになってんじゃん・・・。

今日ほんとにこれ見れるのかな・・・?それとも命日なのかな・・・





演習が始まってとりあえず轟と2人で警戒しながらフィールドを歩き始めたんだけどなんか相手が峰田のせいもあるのか轟の雰囲気が怖いんですけど・・・。とりあえず話題、話題・・・

「とっ、轟はさ!苗字の素顔って見たことあんの?」
「ないな」
「そっか・・・」

終わった・・・。会話終わった・・・。轟なら見たことあるんじゃないかって思ってたけど、やっぱり轟も片想いだし苗字もわかってないからそんなに親密にならないか・・・。

「苗字とな、仲良いから見た事あんのかなって思ってた」
「仲良い・・・。仲良く見えるか?」
「み、見える見える!!仲良く見える!」
「そうか・・・」

仲良いじゃん!って感じで話したらちょっと嬉しそうにしだした!!いい傾向じゃないか?!これはいい連携取れるんでね?!普段から苗字の素顔を狙ってちょっかいかけようとしてるの忘れてくれるんじゃ!?

「轟はさ、」
「上鳴ィィィィイイ!!」

轟にまた話しかけた瞬間に俺を呼ぶ峰田の声が近づいてきて轟の視線が二重の意味で鋭くなった。多分峰田への個人的な思念と対敵したことでだ!

「峰田ァ!」

轟と振り返ると峰田がグレープラッシュを仕掛けてきて間一髪で避ける。轟も避けてから氷結を峰田に向かって打ち込んだのを確認してからハッとした。

「っ、苗字は?!」
「ここだよ上鳴くん!」

後ろから苗字の声が聞こえて振り返った瞬間に攻撃が飛んできてこれもまた間一髪で避けた・・・!きっと峰田と作戦会議をしてきて挟み撃ちにしようと言うことだったんだろう、でも峰田がそれだけで終わる男じゃない・・・!!アイツは何も考えずに作戦を練るやつじゃない!!と謎の信頼を寄せたところに案の定峰田の追撃が俺を狙ったかと思ったが一緒にいる苗字の方に集中して飛んでいっている・・・気がする!!やっぱりやる気だ!!ゴーグルを、外す気だ!!

「峰田くんやりすぎ、こっちまできてるー!」
「上鳴の動きを止めなきゃなんねーんだよおお!」
「うわぁっ」

俺の動きを止めなきゃと叫びながらアイコンタクトをバチコンと打ってきて、そうか、やるなら今・・・!!と拳を強く握った。峰田、お前の後ろの鬼のような顔をした轟は見なかったことにする・・・!!そして生きろよ!!!

「苗字悪ぃな!!」

峰田のグレープラッシュを避けてる苗字の足元と付近の建物にポインターを瞬時に設置して指を構え一気に電気を流し込む!!
狙うはゴーグル!!いやほんとにゴーグルで!!苗字自身に当たってもこれは演習だからいいんだけど後ろの轟が怖すぎるから無理・・・!!!味方なのに瞬時に敵に回るから無理・・・!!だからお願い俺!!ゴーグルだけかすってくれ・・・!!!


「きゃあっ!」

電流の流れる眩しさと共に苗字の悲鳴が聞こえ、その瞬間後ろの殺気が倍以上に膨れ上がって涙がちょちょ切れそうだったけど、苗字の前に何かが音を立てて転がった。

「苗字!!」

轟が急いで駆け寄るのにいやお前は敵だろうが!!と思いながらも蹲る苗字の足元に落ちているものから目が離せない。これは、苗字の、ゴーグル・・・!!!後ろを振り返ると氷結でガッチガチに凍らされた峰田がサムズアップしていて、急いでまた前を向き直る。

「いたた・・・」

目元を抑えた苗字の髪がふんわり広がって、って髪?!あれ三つ編みも解けたのか?!と思った直後に苗字の顔から腕が避けられた。

「びっくりした・・・。」
「「「・・・・・・・・・」」」
「眩しくて目がチカチカする・・・。」


そこには、想像を絶する美少女がいた・・・。まん丸の大きな瞳にぱっちり二重。メガネとゴーグルが無くなったことによりスッとした鼻筋とその下にある小ぶりの唇が黄金比を生み出していた。
控えめに言って美少女・・・。やっぱり、地味メガネは美少女説間違ってなかった・・・!!というか可愛すぎねぇ?!?!

「苗字、ゴーグル、」
「ん・・・?轟くん?」
「あ、ああ」
「ごめんね、わたしめちゃくちゃ目が悪くてメガネとかないと全然見えなくて。ゴーグルその辺にある?」
「あ、ああ、ある。ちょっと待っててくれ」


轟がぎこちない動きで俺の目の前に転がるゴーグルを拾って、またロボットのように苗字の方に戻っていく。顔も赤い。いや分かるよ、わかる・・・。好きな女の子がメガネとったらめちゃくちゃかわいいとそうなる。俺だって別に苗字好きではなかったけどめちゃくちゃ緊張してるしなんか知らんけど恥ずかしいし、というか素顔の苗字から全く目が離せないし!!

「これ、ゴーグル」
「ありがとう轟くん」
「・・・」


轟が苗字にゴーグルを渡すと、轟の方を見てふんわり微笑んだ。その瞬間轟の動きがピシッと固まって。そしてその笑顔をみた俺もピシッと固まった。



「よし、これで見える。じゃあ覚悟して・・・あれ?みんなどうしたの?」



あまりの可愛さに全員が固まって、復帰するのに時間がかかったのは言うまでもない。
ちなみにモニターで映っていたのでクラスみんなが苗字の素顔を見て、そっちでもみんな固まっていたのはさらに言うまでもない。



Request by さわ様
さわ様、リクエストありがとうございました!
ギャグ甘になりきらなかった感が否めません・・・!
どうやってメガネとか取るかを考えてたんですけど、多分このヒロインちゃんはメガネとってって言ったら簡単にとってくれたと思います。隠してるわけじゃないので。この後コンタクトを勧める人と刺激が強すぎるからメガネのままでと言う人で揉み合うと思いました!
この小説を少しでも楽しんで頂けたら幸いです!
リクエストありがとうございました!


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