「聞いてくれよジャーヴィス。みんな俺のこと心配しすぎなんだと思うんだ、この前俺地下鉄に乗って買い物に行くって言ったら大丈夫?ちゃんと行ける?ってみんな言うんだぜ」

はあー、とため息を吐きながら俺はそう愚痴る。今日はスタークタワーに遊びに来たのだが、遊びに招いた本人が作業をキリの良いとこまで終わらせたいとかなんとかでこうしてだだっ広いリビング?応接間?のどでかいふかふかのソファに座ってジャーヴィスと雑談しながら待ってるのだ。ご丁寧にお茶まで出してくれた。ありがたい。

「それは貴方が危なっかしくて無防備だからですよ、ナマエ様」
「え〜そうかなあ…」

「そうですよ、」とジャーヴィスは落ち着いた声色で答えた。最初こそジャーヴィスの存在にびっくりしたものの、彼?は日本語を話せるので今では彼とはとても打ち解けている。なによりジャーヴィスと話すのは結構楽しいのだ。母国語で会話できるから、会話も弾むし。すげえ楽。
だけどジャーヴィス、危なっかしくて無防備ってそれ俺は納得できないからな。

「危なっかしくて無防備か………そういうつもりはないんだけどなあ…色々気をつけてるし」

と、言ってみたは良いが、よく考えると同じようなことを言われたことはある。特にスティーブにはよく心配されるし、ナターシャにはこの前「貴方そのうち襲われるわよ、しっかりしなさい」的なことを言われたばかりだ。物騒な。
でも、もしナターシャの言う通り何かあったら、ただでさえ何もできなくて迷惑をかけている俺が更にみんなに迷惑をかけてしまうのも事実だ。そんなに俺は危なっかしいのだろうか。

「………………」
「…ジャーヴィス?」

不意にジャーヴィスが黙ってしまった。どうしたのだろう。

「…ナマエ様は、トニー様や他の皆様のことをどのように思われてるのですか?」
「え?それはアベンジャーズのみんなについてってこと?」
「はい。」
「うーん………」

アベンジャーズのみんなについてか…いきなりそう言われるとなかなか考えがまとまらない。

「例えば、トニー様は?」
「スタークさん?……スタークさんねえ」

スタークさんについて少し考えてみて、思わず腕を組んで唸ってしまった。スタークさんの直属の部下であるジャーヴィスにはなかなか言いづらい内容しか浮かばない。

「…ほら、スタークさんってジャーヴィスの生みの親だろ?だから、俺にその気がなくても悪く言っちゃったらジャーヴィスに申し訳ないし…」
「構いませんよ。ナマエ様の正直な気持ちが聞きたいので」

俺の正直な気持ちか…。そういえば、今までちゃんと考えたことなかったなあ。

「………じゃあ、スタークさんには言わないでくれよ?」
「承知しました」

うーん、スタークさんのこと…かあ。

「なんだろうな…スタークさんは今までテレビ越しの存在だったから、すごく遠い存在の人って感じがしたんだ。俺にとっては良くも悪くもテレビの印象まんまの人で。それになんか難しいことよく言っててよく分かんないし、俺に話しかけてくれることもあったけど、それに上手く反応できないから結局会話長続きしないし。俺コミュ障だし英語力ないしさ、だから、スタークさんみたいなタイプの人が正直少し苦手だったんだ。」
「それは存じ上げておりました」
「ええ、そうなの?」

思い切ってスタークさんについて正直に思ってることを口に出したら、さらりとジャーヴィスがそう言うのでびっくりしてしまった。思わずでかい変な声が出た。

「はい。ナマエ様がトニー様と話しているときとトニー様以外の方と話しているときとでは様子が全く違うので」
「お、おお…」

俺ってそんなに分かりやすいのだろうか。

「ナマエ様はとても分かりやすいですよ。それはもう面白いくらいに」
「…………」

どうやら分かりやすいらしい。

「…ですが、今は違うように見受けられます」

少し間を置いてそう俺に言ったジャーヴィスの声は、なんだか柔らかく感じた。

「………うん、今は大分苦手意識が薄れたと思う。ジャーヴィスのおかげだよ、初めて遊びに来た時、スタークさんの話を分かりやすく説明してくれて、それで俺的に打ち解けられた気がして」

今こうしてスタークタワーに遊びに来れているのも、ジャーヴィスのおかげなのだ。俺とスタークさんの仲を取り持ってくれたジャーヴィスには、とても感謝している。

「だからありがとう、ジャーヴィス」
「いえ、トニー様も喜んでおられました、貴方と話す機会があれから増えたと」
「え、スタークさんが?」
「はい、やや歪んだ表現をしていらっしゃいましたが」
「歪んだ表現て…でも、……」
「…嬉しいですか?」
「…うん」

思わず顔が緩んでしまう。だって、あのスタークさんがそんなことを思ってくれているなんて。

「…ありがとう、ジャーヴィス」
「いきなりどうされたのですか?」
「…なんか、ありがとうって言いたくなった。普段ジャーヴィスは英語で話してるのに、俺のために日本語で話してくれてるだろ」
「ええ。その方がナマエ様とコミュニケーションが取れますので」
「なんかジャーヴィスらしいね」
「そうでしょうか」
「うん」

ジャーヴィスの声の調子は常に一定だ。早口になることも、声を荒げたり弾んだりすることもない。けどその平静な話し方と声のトーンは、話しているとなんだか落ち着くのだ。

「俺、ジャーヴィスと話すの楽しいよ」
「それは光栄です」
「周りがみんな英語だからさ、毎日英語に囲まれた生活をしてると、たまに日本語忘れそうになるんだ。かといって英語が喋れるようになるわけじゃないんだけど」
「最初にお会いした時よりも英語力は上がっていると思いますよ」
「えっまじか」
「はい」

「以前より文法の間違いが減り、言葉の表現の幅が広がっているように思います」と真面目なトーンで俺の英会話スキルについて返された。なんだかテストの詳しい分析結果を聞かされてるみたいだ。けど嬉しい。

「普段考えている日本語の文を平易な日本語にして、英語に言い換えようと努めれば、より上達するでしょう」
「あー………」

と、ジャーヴィスはとても的確なアドバイスをしてくれたけど、正直なところ、それが一番難しい問題だ。
日本語は微妙なニュアンスが多いし、言葉の言い回しとかもたくさんあるから、英語に変換しようとすると中々上手くいかない。それで言葉が出てこなくて会話が止まってしまうことは日常茶飯事だ。うーん日本語って難しい。正直ロシア語と同じくらい難しい言語なんじゃないだろうかと最近思う。

「……俺、みんなともっと話したいんだけど、英語が上手く話せないからさ。伝えたいことがあるのに、それをちゃんと伝えられないからやきもきするんだ」
「例えばなんですか?」

俺がみんなに伝えたいこと…

「例えば……感謝の気持ちとか。Thank youの一言じゃ足りないくらい、みんなには助けてもらってるから」
「…………」

「もっと気持ちを込められたらいいんだけど、」と続けた。サンキューだとなんだか軽い感じに聞こえてしまうのは、俺が日本人だからだろうか。そんなことを思いながら、程良く冷めたコーヒーを一口啜った。美味い。

「ナマエ様の感謝の気持ちは、伝わっていると思いますよ」

ぽつりとそう言ったジャーヴィスの声は、どこか優しく聞こえた。



次の任務の確認の為にアベンジャーズタワー、もといスタークタワーを訪れていたら、ラボでモニターを腕を組みながら何やら真剣に見つめているスタークを見かけた。

「スターク、何してるんだ?」
「スティーブか」

声をかけると此方には見向きもせずにただ一言「観察だ」と返すスターク。観察に夢中らしい。何を見ているのかとスタークが見つめているモニターを覗いたら、そこに映っているのは僕のよく見知った姿だった。

「……ってナマエじゃないか」

なんでナマエを観察なんか…、というか、なぜナマエがここに来ているんだ?

「ああ。遊びに来てるんだ。私の作業場を見せる約束をしててね」
「?なら、なぜ君はここにいるんだ?早くナマエのところに行ってやれよ」

もっともなことを言ったつもりだったのだが、それは華麗にスルーされた。彼は目線をナマエに合わせたままだ。

「スティーブ」
「なんだ」
「ジャーヴィスと話している時のナマエの表情、見たことあるか?」
「は?」

突然何を言い出すのかと思ったが、スタークに促されナマエが映っているモニターに視線を向ける。
日本語で話しているのだろう、だから聞こえてくるナマエとジャーヴィスが話している内容はよく分からないが、それでもナマエの表情から、スタークの言わんとしていることを察した。

「…ナマエ、あんな顔して笑うんだな」
「ジャーヴィスはナマエと日本語で話しているからな。やはり母国語で話をした方が会話が弾むんだろう。」
「…そうだな」

楽しそうにからからと笑うナマエは、素の彼なのだろう。いつも僕たちがよく見るナマエとは、どこか違う彼だ。
少しだけ、日本語を話すことのできるジャーヴィスが羨ましいなと思った。

そのまましばらくナマエの表情をぼんやりと見ていたら、不意にスタークが僕を見てニヤニヤし始めた。

「…なんだよスターク」
「そうか分かったぞ、…スティーブ、ジャーヴィスにヤキモチか?」
「なっなんでそうなる!早くナマエのところに行け!」
「痛い!」



思わずスタークを思い切り叩いてしまったが、僕は悪くないと思う。



20151122


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