突然だが、俺はスタークさんのことが苦手だ。
アイアンマンはかっこいいと思う。むしろ大好きだ、見てるだけでテンション上がる。スタークさんのこともかっこいいと思う。金持ちだし天才肌でなんでもできて、実業家でプレイボーイだし、女子にはたまらないだろう。でもそれはテレビで見る限りである。いや見た目も中身もテレビで見たイメージのままなのだけど、見るだけと実際に話してみるとでは全く違うのだ。少なくとも俺にとっては。
そして今日はそのスタークさんの仕事場を見せてくれるというので(しかも本人の案内付き)、俺はスタークタワーに遊びにきたわけだが。アイアンマンを間近に見せてくれるというのでウキウキ半分不安半分である。

「やあナマエ。よく来てくれたね嬉しいよ」
「…あ…こんにちはスタークさん、今日は招いてくださってありがとうございます」
「そんなに固くならないでくれ、あとスタークさんなんて呼ぶのやめてくれないか、なんだか…むず痒い」
「ええと…」

不安な理由その1、この人は話すスピードがとても速い。頭が良い人は頭の回転が速いから早口だと言うけれど本当みたいだ。だから全然聞き取れない。要するにせっかくスタークさんから話しかけてくれても俺が返せないので会話が続かないのだ。申し訳なさすぎる。


「あー……僕のことはトニーって、呼んでくれるかな?」
「え」

俺がまごついているのを見かねたのか、スタークさんは気を使ってゆっくりと話してくれた。それに更に戸惑う俺。
スタークさんの期待するような目にいたたまれなくて若干目を逸らした。この人の目ぱっちりしてるし下まつげがなんか、セクシーだし…。

「ナマエ」
「ぅ、わっ」

不安な理由その2、なんか色々近い。スタークさんに悪気はないのかもしれないが、色々近いのだ。気がついたら肩を抱かれていたり、腰に手を当てられていたり、話すときの顔が近かったり、諸々。今さっきも耳元で囁かれてすげえぞわっとして思わず後ずさってしまった。この人俺がこういう押しに弱いって分かってるからこんなことするんだな!現に今ニヤニヤ笑ってるし!ていうかこういうのは普通女の人にすることなのになんで俺にしてくるんだ!

「ッ分かった、分かったから!…と、トニー、」
「うん、良いね。ありがとうナマエ」

俺が必死にそう言うと満足したのか、スタ、…トニーはにっこりと笑って、「他の奴は名前で呼んでるのに僕だけスタークさんなんてとても他人行儀だろう?」みたいなことを言いながらスタスタと歩いていく。それに俺も慌てて続いた。大丈夫かな俺……



「おおおおおお!!!」

見事にその不安は吹っ飛んで行きました。感動しすぎて感嘆詞しか出てこない。だって部屋にアイアンマンが何体も並んでる光景が目の前にあるんだぞ、これが興奮せずにはいられないだろ!まじでやべえ!!!!なにこれ!!!すごい!!!!すごい感動してるのに語彙がやばいしか出てこない!!!やばい!!!


「わあああすげえ!!本物のアイアンマンだ!!これが空飛んで敵倒してるんだな…うわあやべえ………」
「日本語になってるぞナマエ」

「僕の作ったアイアンマンが素晴らしくて感動してるのは分かるが」とトニーは続けた。なんだか満足げな顔をしてるのは気のせいだろうか。
そのまましばらくアイアンマンやトニーの作業場を案内してもらっていると、突然部屋から声が聞こえてきた。

「嬉しそうですね、トニー様」
「うるさいぞジャーヴィス」
「?え、あれ」

突如部屋から聞こえてきた声に俺は辺りを見回すが、誰もいない。

「ナマエ、紹介するのが遅れたがジャーヴィスだ」
「ジャーヴィス?」
「ああ、僕が作ったんだ。元々はただの言語UIだったんだが、今じゃ優秀な助手だよ」
「助手…」

言語なんちゃらの下りは分からないけど、とりあえず助手というのは分かった。この人ほんとになんでも作れるんだな。

「初めましてナマエ様。ジャーヴィスと申します。トニー様の身の回りのお世話をさせていただいております」
「??!」


すげえ!!!!じょしゅが!!!にほんごでしゃべった!!!!おれはいまどうようしている!!!

「え、あ、……日本語話せるんですか…?」
「ええ勿論」
「………」
「ナマエ様?どうかなされましたか?」
「え、いや…」

久しぶりに他の人の(といってもコンピューターだけど)日本語を聞いたせいか、なんだか妙に感動している。なんだろうこの安心感。なんか涙出そう。

「ナマエ様?」
「なんか、久しぶりに日本語で話せて、嬉しくてさ。ありがとう、ジャーヴィス、さん?」

とりあえず「さん」を付けてみたけど、「お気軽にジャーヴィスとお呼びください」と言われたのでジャーヴィスと呼ぶことにした。

「ジャーヴィスは俺のこと知ってたの?」
「ええ。トニー様がナマエ様のことをよく話しておられますので、貴方とお話してみたいと思っておりました」
「あ、そうなの?」
「はい」

ちら、とトニーの方を見れば、彼は言ってることが分からないとでも言うように肩を竦めた。

「そろそろ英語で喋ってくれないかジャーヴィス?」
「申し訳ありませんトニー様。ナマエ様とは以前から日本語でお話したいと思っておりましたので」
「それは日本語が喋れない僕へのあてつけか?」

「言うようになったな、」とトニーは不満げにそう言った。


「トニー、今日はありがとう!」
「どういたしまして」

スタークさんの仕事場を出たところで、俺はぺこりとお辞儀をした。スタークさんやジャーヴィスとずいぶん長い時間喋ってたらしく、昼に来たのに気づけば夕方になっている。
スタークさんとずっと2人きりで大丈夫かなと正直だいぶ不安だったけど、結論から言うと、とっっっっても楽しかった。スタークさんがしてくれた色々な説明をジャーヴィスが日本語にして訳してくれたおかげで難しい内容も理解できたし、なによりスタークさんと会話ができたことが嬉しい。苦手意識が大分なくなったような気がする。


「あの、またスタークタワーに遊びに来て良い?」
「勿論。…あー、それは僕じゃなくてジャーヴィスに会うためかな?」
「えっ」
「君は僕よりもジャーヴィスのほうが好きなんだろ?ナマエはジャーヴィスを作った僕のことなんか眼中にないと」
「え、ぁ」

「ジャーヴィスを作った僕」っていうところを強調して言われた。どうしよう、なんて返せばいいんだこういう場合、俺があわあわとしているとスタークさんは意地悪く「Just kidding.」と笑った。………この人絶対俺で遊んでる。

「まあでも君がジャーヴィスのことを気に入ったのは分かったよ。またいつでもおいで」

「あ、でもできれば僕のいるときがいいかな」とスタークさんは続けた。

「ありがとう、あの…スタークさ、」

何か言わなければと名前を呼んだところで素早く「トニー」と言葉を被せられる。しまったうっかりしてた。ずっとスタークさんと呼んでいたから、いきなりトニーと呼ぶのに全然慣れない。

「ええと、…トニー、今日俺、あなたともたくさん話せて楽しかった、俺、今までずっと何か話してみたくて…。だからできれば、もっと話したい。もしかしたら、いや、絶対俺との話なんて退屈だろうけど…」

語気が段々と弱まってしまう。視線を合わせられなくて、思わず下を向いた。ら、

「……ナマエ」
「わ」

する、と頬を撫でられた。その手はそのままゆっくり顎まで行って、そして顔を上げられる。

「な、なに、」

目の前には至極真面目な顔をしたスタークさんが。なんだこれ、なんだこの状況、なんだか心臓がバクバクしてきた。スタークさんの目力が強すぎて目を逸らそうにも逸らせない。数秒そのままで見つめ合って、そしてスタークさんが口を開く。


「ナマエ、君は本当に面白いな。
弄りがいがあって」
「…う、うん……?」


………やっぱりこの人俺で遊んでる。



20150822



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