長年の付き合いのある親友に、思いもよらない秘密を打ち明けられたらどうする?例えば、「実はずっと君が好きだった」とか、「実は僕はスーパーヒーローをやってるんだ」とか、「実は殺人犯なんだ」とか、なんでもいい。親友にとって、一番大きな秘密を打ち明けられたら、親友のことを受け入れる?それとも、拒絶する?
以前親友にそう聞かれたことがある。それを俺は軽く受け流した。「秘密の程度にもよるけど、俺は受け入れると思うよ。お前は親友だし」と、まあ当たり障りのないことを言って。まさかそんな、俺の可もなく不可もない平凡な人生においてそんな親友にとんでもない秘密を打ち明けられるなんてことないだろう、そもそもそんな友達あんまりいないしと、その時はそう思っていた。

今は言える。
軽い気持ちでテキトーに答えるんじゃなかった。


「うっわ、びしょ濡れだ、いきなり降ってくるなんてずるいよな」
「天気予報は雨なんて言ってなかったのにね」
「……っはは、濡れ鼠だな俺たち」
「…ふ、そうだね。待ってて、そのままだと風邪引くだろ、僕の服貸すよ」
「悪いなスティーブ。ありがと」

お互いの休日が重なったので、久しぶりに遊ぼうとスティーブと飯を食って、次は家で映画でも観ようかと話しながら道を歩いていたらいきなりバケツをひっくり返したような雨が降って来て、とりあえず避難先で一番近かったスティーブの家にお邪魔して、笑いながらなんとも平和な会話を数分前までしていたはずなのだけど。

「……スティーブ?」

まさか、腕を掴まれてスティーブに押し倒されるなんて思ってもみなかった。
俺の腕を掴んだままのスティーブは、どこか思い詰めたような表情で、黙って俺を見ている。その表情を見て俺は悟った。

「スティーブ、どうした、」

これは、何かあったのだろうか。スティーブとは彼が現代に蘇って(正確には目が覚めたか?)まだ右も左も分からないような頃に出会ってからの付き合いだが、こんな思い詰めたような表情はほとんど見たことない。中々深刻度が高そうだ。

「……さわらせて、くれないか」
「え?」

しばらく黙っていたと思ったら、不意にスティーブが口を開いた。何をだ。目的語を言ってくれないかスティーブ。

「脚、を」
「へ……あし?」

足?俺の足のことか?そうだよな?こいつさっきyour legsって言ったよな?

「急にすまない、けど、君がそんな格好で歩き回ってるのを見てたら、我慢、できなくて…」

そんな格好とは…?と思って今の自分の格好を確認してみる。なるほど、ずぶ濡れだった自分の服を脱いで今はスティーブのシャツを着て、下はめんどくさかったのでズボンを履かずにパンツだけの格好だ。もしこれが恋人ならいわゆる俺は彼シャツ姿でかなり美味しい格好だろうが、あいにく俺とスティーブはそういう関係じゃない。けど、じゃあなんで俺は押し倒されているんだろうか。もんもんと考えていたら徐にスティーブが口を開いた。

「ずっと隠してたんだけど、」

あ、なんかカミングアウトされるぞ、

「僕、脚とお尻に異常な執着があるみたいで」
「………お、おお」

何かと思ったら自分の性癖についてだった。
スティーブはどこか恥ずかしそうに目を伏せる。まあ、そりゃそうか…。自分の性癖だもんな、恥ずかしいよな…。よし、スティーブの性癖のことは分かった。で、

「それで?」
「え」
「なんで俺をベッドに押し倒してる」

スティーブを見つめると、彼はそれは、と歯切れを悪くして答えてくれない。なんだ、察しろということなのか?そう勝手に解釈をして、スティーブが俺をベッドに押し倒してる理由を考え始めた。

「…まさか俺のに興奮したってことはないよな?俺の脚とケツがお粗末すぎて見てられないってなら直ぐにズボン履くけど…。あ、もしかして溜まりすぎて欲求不満になってるのか?お前ここのところ忙しそうだったしな、…今度そういう店に連れてってやろうか?俺良い店知ってるから、」
「っナマエ」
「ん?」
「違う、違うんだ」

違うと、スティーブは俺の言葉を途中で遮った。なにが違うんだ。

「欲求不満なんかじゃ、…いやまあそうなんだけど、なんていうか、」
「なんだよ」
「あの、僕は」
「うん」
「君のお尻と脚が、」
「え、」
「どうしようもなく好きなんだ………」
「…………」

思わず真顔になってしまった。
まさかのまさかだった。俺の尻と脚がどうしようもなく好き、とは?スティーブのその言葉をゆっくりと噛み砕いて考えてみるが、やっぱり言葉通りだ。まじか。好きなのは女のじゃなくて男のなのか。しかも俺のなのか。そしてスティーブの告白を聞いてドン引きせずにこいつが好きなのは俺じゃなくて俺の尻と脚なのか…と少し落胆してしまった辺り俺もおかしい。

「いやっ君のことも好きだよ!大好きだけど、でも、親友の君にこんなこと、間違ってるし…」

俺が真顔だったのに気付いたスティーブはめちゃくちゃ慌てて俺のことも好きだと付け足してきた。おい、今の感じだとお前が好きなのは俺の脚と尻>俺の順って聞こえるぞ。まじかよ。冗談きついぞ。

「…要するに、お前は俺の下半身が好きってことか」
「そ、…なんかその言い方、悪意がある言い方だな…」
「でもそうなんだろ?俺の脚と、尻が好きなんだろ。下半身じゃねえか」
「……」

俺よりも俺の脚と尻が好きらしいということがちょっとショックだったので少し意地悪い言い方をしてみたらスティーブはぐ、と黙って、それから沈んだ声でそうだね、と返した。

「…僕、最低だ…ごめんナマエ。さっき僕が言ったことは忘れてくれ」

ナマエのズボン、取ってくるねと俺から退いたスティーブは俺の方を見ずにそう言って、ベッドから降りようとした。のを、腕を掴んで止めた。

「、ナマエ?」
「いいよ」
「え、」
「思う存分触ってどうぞ?」

親友の頼みだし。自分の性癖をカミングアウトさせといてここで断ったら可哀想だし、断って後々気まずくなるのは嫌だ。そう思って若干ドヤ顔で触っていいと言ったら、スティーブは一瞬間を置いてぽかんとした表情で俺を見る。

「でも、ナマエ」
「でもじゃない、俺の気が変わらないうちに早く触れよ、ほら」

足先でスティーブの胸をとん、とつつく。戸惑いがちにいいの?と俺を見るスティーブにしつこいぞと返した。俺の言葉にスティーブは嬉しそうに頬を緩める。

「…ありがとう、ナマエ」

この前変に神妙な顔をして親友に秘密がどうのこうのと聞いてきたのは、これがあったからなんだろうなと思いつつ、俺は寝転んだまま自分の脚を
スティーブに向けて差し出した。

のだが。

ドヤ顔で「思う存分触れよ」と言ったことを、今少し後悔してる。

スティーブがゆっくりと近づいてきた。俺の脚を自分の肩にかけ、それから太腿の内側に唇を寄せられる。それが擽ったくてぴくりと身体が震えた。

「っ、」

右脚の膝裏を優しく掴まれてぐ、と俺の腹の方に倒された。普段膝裏に触れられることなんてほとんどないから、スティーブの大きな手の感触にまたふるりと震えてしまった。スティーブは「どうしようもなく好きな俺の脚」に触れられて興奮しているのか、頬は赤く染まって、その息は若干荒い。そしてそのまま今度は俺の足先に唇を落とした。ああ、そんなところにまでキスされるんだったらもっと丹念に足先を洗っとくんだった。
愛でるように触れるスティーブの手がもどかしくて、我慢するように目を閉じる。

「…ん、」

俺の足先に唇を落として、滑らせていく。はあ、とうっとりとしたような溜息が聞こえる。

「きれいだ、」
「な、っ」

そして熱に浮かされたように溢した言葉に、俺の脚のどこがきれいなんだと反論しようと口を開いた。けれど。

「…っ…」

太腿に唇を寄せてちらりと上目遣いに俺を見るスティーブの表情が、今まで見たことのない、熱っぽい表情で。
それにぞわりと鳥肌が立って、心臓がどくりと波打った。まさか親友相手にこんなことされて、こんなにどきまぎするなんて思いもしない。しかもやばい、なぜか俺の息子が反応し始めている。やばい。パンツ一丁だから絶対バレる。ていうかもうバレてるかもしれないやばい。こんなので勃ってるとバレたら絶対気まずくなる。そう思って下腹部を隠そうと、そろりと手を下の方に動かした。けれどやっぱり同じ男同士だ。パンツの上から俺の息子を抑える手をスティーブは見逃しはしなかった。じ、と依然として赤く染まった頬で俺を見る。くそ、隠そうとして完全にバレた。かああと顔が熱くなってくるのが分かって、顔をスティーブから逸らす。

「ナマエ」
「っあ…、なに、」

恥ずかしくて目を合わせたくなかったが、名前を呼ばれて目が合ってしまった。ああなんて素直なんだ俺は。馬鹿か。
名前を呼んだくせに何も言ってくれないスティーブは、不意に俺の両脚を持ち上げて自分の両肩に掛けた。おい待てなんだこのセックスの体位みたいな体勢は!

「おいスティー、ンっ?!」

文句を言おうとした俺の言葉は続かない。俺に覆い被さってきたスティーブが片手を俺の頬に添えて口を塞いできたからだ。まさかの突然のキスに心底びっくりしたがリアクションに出す暇なんてなく、そしてスティーブの驚くような行動はキスひとつでは終わらなかった。

「かわいい、ナマエ」
「かわいいってな、んぁ、ちょ、っま…!んんぅ、」

俺の首筋に顔を埋め、シャツの中に手を突っ込まれ素肌を撫でられ、待てと言おうとすればまた口を塞がれる。器用にも俺の脚に触れることを忘れてないらしい、キスをされながらスティーブの大きな手に俺の太腿やその内側を撫で回された。
ちゅ、と音を立てて唇を離したスティーブの顔が至近距離にある。長い睫毛に象られた力強いブルーの瞳は今は劣情に濡れていて、スティーブが興奮しているということだけが分かった。それに、密着しているせいでさっきからスティーブのご立派なアレが俺の下腹部に当たってるのだ。やばい。これは、絶対にやばい。まさか俺の脚だけでここまで興奮するとは思ってもなかった。このままスティーブの色気に当てられて流されたらヤッてしまいそうな勢いだ。悔しいがスティーブの俺に触れる手や唇が気持ち良くてふわふわしているし、顔は熱いし目は涙目だ。けれど俺の中のまだ残っている理性が脳内で危険信号が点滅している。ここで流されてはだめだ、とりあえず、とりあえずこいつを落ち着かせなければ、

「っな、なに、してんだよ、とりあえず落ち着け、スティーブ」
「ごめんナマエっ、」
「ぁ、っうお?!」

動揺しながら落ち着けと言ったのがまずかったのかなんなのか、我慢が効かなくなったように半ば強引に今度は俺の身体をうつ伏せにしてきた。さっきまで俺は仰向けでスティーブが覆い被さっていたはずなのに、今はこいつがうつ伏せの俺の身体を組み伏せて、覆い被さっている。俺だって体術の成績はそれなりに良いはずだがこれには抵抗する暇もなかった。なんという早技だ。

「ぁ、ちょ、ンっふぅ、う」
「…ナマエ、」
「っなんだよ、」
「お尻も、触っていい…?」

耳元で熱い吐息と共にそう囁かれて、顔がかああも熱くなる。尻をやわやわと揉まれる感覚にもう触ってるっていうか揉んでるじゃねえか!と言ってやりたかったが、そんな余裕はない。

「ナマエ、」
「ぅっ、」

スティーブはお願いとでも言うように甘い掠れた声で俺の名前を呼び、そして耳にキスをしてきた。やめろ、耳元で囁かないでくれ!

「っ分かった、分かったから!とりあえず退け!」
「ご、ごめん」

慌てて謝ったスティーブが俺身体退いたのを確認して仰向けになって起き上がる。下の方を向いたら完全に勃ってた、最悪だ。

「はあ……」

気恥ずかしくてスティーブの顔を見れず目を閉じて手で顔を覆った。思わず溜息が漏れる。顔が熱い。心臓はまだどくどくいってるし、正直中途半端で物足りない。男同士とか相手が親友だからとか、この行為をこいつとしてしまったら、きっと何かが変わってしまうとか、俺にキスをした理由はなんなのかとか、そういう考えなきゃいけないことやしがらみが一切頭の中から抜けていく。
早く気持ち良くなりたい。
顔を上げてスティーブを見遣ると、熱に浮かされた表情で俺を見ていた。きっと今、俺も同じような表情をしているのだろう。

「何、俺の脚で興奮したのか」
「ぁっちょ、ナマエ…っ」

脚でスティーブのそこを押し上げると、声が少し裏返った。俺の行動にいちいち慌ててるところがなんか童貞臭くて笑ってしまう。ていうか、そういえばこいつ童貞だったか。

「おい、俺の尻を触る代わりにさ」

スティーブの足を跨いで、身体を密着させた。首に腕を回せば、スティーブは戸惑いがちに、けれどどこか期待を含んだ瞳で俺を見つめる。スティーブの身体も、俺の身体も熱い。

「お前、俺をこんな風にした責任、取れよ」

そう言った直後に強引に押し倒され唇を塞がれる。
ああ、こんなことになるならさっさとズボン履いとけば良かった。
長い1日になりそうだ。





20170116



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