これの続き


どうしてこんなことになったのか、まるでゲイビデオのような展開だ。

「ほら」
「ぅ、」
「何を遠慮してるんだ?触れよ」

両手を広げて俺に自分の胸を触るよう促しているボンドさんの表情はどこか挑発的で、色気が滲み出ていた。



会議室での一件の後、ボンドさんにあれやこれやと言い包められて結局俺は彼を自室へと招き入れてしまった。結局、目の前の誘惑に勝てなかったのだ。
俺がホテルの部屋の扉をどうぞと開けると、俺の部屋なのにボンドさんはまるで自分の部屋のように入って俺の持っていた鞄を引ったくり自分のジャケットと一緒にイスに放り投げる。あああそんな乱暴に扱ったら!鞄に入ってるパソコンが!壊れる!と一瞬変な悲鳴が俺の口から漏れ出たのを聞いたボンドさんは、これくらいで壊れはしないと小馬鹿にしたように笑った。くそ、これでもし壊れてたらボンドさん宛てに請求書送ってやるからな!

「ナマエ」

不意に低い声で名前を呼ばれる。目を合わせたら本当に自分の欲求に逆らえなくなる気がして、俺は目を合わせずにそっぽを向いた。彼を部屋に招き入れたのは俺なのに、矛盾してる。しゅるり、とネクタイを緩めて外す音が聞こえた。それさえも扇情的に聞こえるのだから、もういっそ耳を塞いでしまいたい。
ボンドさんの長い足が視界の端っこに入る。いつの間にかボンドさんの片方の手は俺の腰を抱いていて、今度はもっと近い距離で、俺の耳元で、低い声で俺の名前を囁いた。ただ名前を呼ばれているだけなのに、心臓がどくんどくんと鳴り始めるのは何故なのか。ボンドさんのごつごつして大きい手は俺の腕をするりと撫でて、手首をなぞる。ただそれだけのことなのに、その手の動きがとても官能的に感じてしまう。男同士でなんだかとてもいやらしいことをしているような気分になって、段々と顔に熱が集まっていった。
ボンドさんがそのまま俺の手首を持ち上げて、彼の手に導かれるままに、俺の手は白いシャツの隙間に入っていく。抵抗は、しなかった。代わりにぎゅう、と目を瞑った。けれど、目を瞑って視界の暴力から逃げることはできても、感覚からは逃れられない。手に触れるのは、吸い付くような柔らかい肌。はっきり言って最高だった。思う存分この感触を味わいたいと、思ってしまった。

「思う存分味わえよ」
「っ」

まるで俺の心を読んだようにそう言われてどきりとして、顔を合わせてしまう。代わりに僕は君にキスをするから。ボンドさんはそう言って、俺の手に添えていた手を、俺の頬を優しく撫でてから首へと添えた。
この部屋に入ってから初めて目が合った。それもこんな、鼻と鼻がくっつきそうなほど近い距離で。ボンドさんの表情は、俺が今までに見たことのないような、とても色っぽい表情で。魅入られてしまった。この人は女の人の目の前ではいつもこんな表情をするのだろうか。こんなのずるい。こんなの、すぐに落ちてしまうじゃないか。なんだか女の人になった気分だ。同性なのに、すごく、ドキドキしている。
そのまま見つめ合って数秒。自然な流れで、ボンドさんが俺の唇にゆっくりと唇を重ねる。ああ、心臓がうるさい。下唇を食まれて、まるで行為に慣れてないみたいにぴくりと震えてしまう。そして彼の肉厚な舌がぬるりと俺の口内に割って入ってくるのを許してしまった。

「ん、ふ……ボンドさ、」

ああ、なんてことだ、取引先の人間と、しかもあのMI6の凄腕エージェントと、こんなことになるなんて。それになんだか踊ってるみたいだ。俺はボンドさんの胸に手を当てて、ボンドさんは俺の腰に腕を回しているから。場違いなことを考えて現実逃避をしながら抵抗することをせずにボンドさんからのキスをされるがまま受け入れていたら、彼の両手が俺の頬を包んで、無理やり彼と目を合わせられた。

「何を考えてる、」
「えっいや、なにも、ちょ、ボンドさん」
「ん、ならこっちに集中しろ」
「ぁ、んむ」

何かしら言おうとした俺の口を塞いでボンドさんはまたキスを再開させた。俺の口内を弄ぶ彼の舌が俺の舌を絡めとる。気持ちいい。ゆっくりと唇を味わうようなキスが、俺の腰や尻をそういう意味で撫でる大きな手が、俺の理性を少しずつ溶かしていく。
そうだ…、ボンドさんだって俺の唇を好きなようにしているのだから、俺が彼の胸を揉んだって、何も言われないはずだ。ボンドさんも、思う存分味わえと言っていたじゃないか。だから、大丈夫だ。こんなことはきっとこれからも起きない、俺の手の中にあるこの膨らみを、少しぐらい堪能したって……。
ボンドさんのキスを受け入れながら、俺はそろりと彼の胸元に置いていた手を動かした。そして恐る恐るゆっくり揉んでみる。その感触が素晴らしすぎて、今俺とこんなことをしてるのは取引先の相手でしかも凄腕のスパイだとか、その彼に死んでも隠し通したかった自分の性癖がバレたとか、そういう色々なしがらみが全て吹っ飛んだ。だって、ああくそ、柔らかい。スティーブよりもボリュームは少ないけれど、それでもその感触は俺には十分すぎるほどだった。あ、まずい、ボンドさんのおっぱいが気持ちよすぎて今俺キスされてるのにニヤニヤしそう。さらに言えば感動でなんかうっすら涙目な気がする。でもしょうがないよな、

「…………(幸せだ……俺もう死んでもいいかも……)」
「…ナマエ?」

俺がニヤニヤしてるのに気づいたのか、ボンドさんがキスをやめてどうしたと言うように俺を見る。

「…あの、まさか、こんなに、揉めるとおもってなくて……ほんと、ありがとうございます………」
「………」

感謝の言葉を言っている間にも俺のニヤニヤが止まらなくてどうにも締まらなかったので、自分のだらしない口元を隠すために手で覆った。俺の言葉に一瞬ポカンとしたような表情をしたボンドさんは、ふ、とかっこよく笑って、どういたしましてと返す。なんだこの人、本当にかっこいいな。

「ってボンドさん、なにしてるんですか」
「脱いでる」
「えっちょ、」

ボンドさんのかっこよさに感動していると何を思ったのかボンドさんは胸元くらいまで開けていたシャツのボタンを更に外し始めた。いや待ってそれはほんとに待って!さすがにそこまでされたらまずいと思って俺はボンドさんがボタンを外す手を掴んで止めた。俺を見たボンドさんの目はなぜ止める、と言っているようだった。そして徐に口を開いて一言、

「…君は服を着たままする方が興奮するのか?」
「はっ?!なんでそうなるんですか!!!確かに俺は着衣プレイのほうが興奮しますけど!!」
「………」
「はっ」

しまった勢いに任せてつい本音が!!

「あーもうやめてくださいニヤニヤしないでくださいさっきの話は聞かなかったことに」
「無理だな」
「もう!!!ボンドさん最低!!!」

さっきからボンドさんのせいで顔が熱くてしょうがない。早く冷めるよう両手で顔を扇ぐがボンドさんはそんなので涼しくなるのか?と涼しい顔で聞いてきた。なるわけないだろちくしょう!!俺が着衣プレイ好きなのバレたし今この人シャツのボタン全開だから胸だけじゃなくて腹筋も丸見えだしほんとに勘弁してほしい。俺は筋金入りの男の胸筋フェチだが普通の筋肉フェチでもあるのだ、普通の筋肉フェチって何だって話だが要は胸筋だけじゃなくて他の部分の筋肉も好きなのだ。まあとにかくこれでシャツを脱がれたら本当に無理、ボンドさんの一糸纏わないきれいな身体を見てしまったら、ただでさえガタガタな俺の理性が崩れ去る。いいから早くそのシャツのボタンを閉めてくれ!!

「どうして着衣プレイが好きなんだ」
「え?どうしてって…」

しかし何を思ったのかボンドさんは深掘りしてきた。いやいいよもう、着衣プレイのくだりは勘弁してくれよ!

「…言わなきゃ駄目ですか」
「言わなかったら脱ぐぞ」
「やめてください言います」

慌ててそう言ってボンドさんがシャツにかける手を止めた。全くこの人は!

「……ええと、」
「ん?」

ボンドさんは笑顔で続きを促す。さりげなく身体を密着させて俺の腰を抱いてさするのやめてほしい。

「っ、服の隙間から肌が見えるのが、エロくて好きなんです……それに、服を着ながらするのって、なんか、イケないことをしてるみたいで、興奮するから」

なにが悲しくて自分の性癖のことについて取引先の相手に語らないといけないのか。

「へえ、じゃあ僕に脱いで欲しくないのはそういう理由か」
「え?」
「着たままする方が興奮するんだろう」
「…違います、今だってあなたの胸がチラ見えしててヤバいのに、シャツを脱がれたら、あなたのきれいな身体が全部…、そんなことされたらその、本当にヤバいんで、俺が無理です」

テンパって語彙力が欠如していて最早脱がれたらヤバいってことしか伝わってないかもしれないが、察しの良いボンドさんなら伝わるはず。ボンドさんは少し黙ってそれから納得したように頷いた。

「…そうか」
「そうそう、そうなんですよ…って」

分かってくれたと思ったのに、ボンドさんは再びシャツに手をかけ始めた。待って俺の話伝わってなかった?!

「待ってくださいなんで脱ごうとしてるんですか!俺の話聞いてました?!伝わりました?!」
「聞いてたしちゃんと理解してる、だから脱いでるんだろ」
「いやいや俺あなたに脱がれたら絶対我慢できなくてヤバくなるから脱がないでって言ったんですよ!」
「僕は君がヤバくなるところが見たい」
「っ、え、は?」

いきなりのボンドさんの言葉に思考が停止した。

「こうして会って、何度か任務も一緒にやっているから分かる。僕は君のことが好きだよ。仕事ができて優秀だし、勤勉で誠実で、真面目な男だ。好感が持てる。きっと周囲からもそんな風に思われているんだろう?」

言葉を返せない。まさかこんな時に彼から俺の評価を聞けることができるとは思ってもみなかったからだ。しかも仕事ができて優秀なんてあのボンドさんから言ってもらえるなんて、彼のようなエージェントを支援する仕事をしている身からすれば嬉しすぎる。それに、勿論人としてだろうが、あの真っ青な瞳で見つめられて好きだなんて言われたら照れるに決まってる。だから俺の顔は今色々な意味で真っ赤に染まっていることだろう。ボンドさんはそんな俺を見て目を細め、言葉を続けた。

「だから普段真面目な君が酒の席で男の胸で興奮すると聞いたときは驚いたよ。僕の胸を揉みたいって聞いたときは尚更ね。それと同時に興味が湧いた。君はどんな顔してそういうことをするのか、僕の胸で本当に興奮するのか、」

言いながらボンドさんは膝で俺のそれに擦り当てる。思わず身を固くしてしまった俺は悪くないと思いたいし、やばい、ボンドさんの色気がカンストしてる。本当にだめだ、これ以上は、

「ナマエ、僕の胸でヤバくなるところを見せてくれよ」
「っ」

その一言で俺の顔はぼっと一気に熱くなった。身体中の血液が顔に集まったみたいだ。本当、さっきから何回顔を赤くしてるんだ。心臓がドキドキしすぎて最早痛い。あの女好きなボンドさんにこんなことを言われるなんて、きっと彼に口説かれた女の人はこんな気持ちなんだ、理性が飛びそうになって、俺の中の欲望がむくむくと大きくなっていく。頭の中で色々な感情がない交ぜになってぐるぐる回っていた。そのせいか変な汗が出てきて、終いにはよく分からない涙まで出てきそうで視界が少しぼやける。引っ込めようとしたけど無理だ、涙溢れそう。こんな自分が恥ずかしいしドン引きである。だからボンドさんもさすがにこれで引くだろう、そう思ったのにボンドさんはなぜか零れ落ちそうだった俺の涙を優しく指で拭った。その優しさは嬉しいけれど今はやめてほしい、そこは俺にドン引きしてくれ。

「っう、」
「…今まで女性ばかりを相手にしてきたから知らなかったが、」
「っな、なんですか…!」

涙を拭われたから視界が少し鮮明になる。ボンドさんは微笑って俺と身体を密着させた。

「男同士だと胸の膨らみが無い分、女性よりも密着できるな」

俺の背中に腕を回してそんなことを言うもんだから、俺はもうこの人には勝てないと思った。


171013


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