「(よく考えるとすごいなこれ…左にキャプテンアメリカ、右がウィンターソルジャーの2人に挟まれてるって……)」

と、超人兵士2人に挟まれて両サイドから肩にかかる重量になんとなく縮こまりながら座っている俺は、ぼんやりと暗がりの中で光るTVを見ながらそう思ったのであった。
現在時刻深夜1:15分過ぎ。スティーブの部屋の大きいソファで、ベタにもポップコーンを抱え3人一緒に映画を観ていたのだけれど、物語が半分くらい進んだところで先にバッキーがうとうととし始め、それから時間が経たずにスティーブも船を漕ぎ始め、ついに映画を観ているのが俺だけになってしまった。そもそも映画観たいって突然言い出してスティーブの部屋に彼の隣の部屋に住んでる俺を呼びつけたのはバッキーで、180分くらいあるSF感動超大作を選んだのもバッキーなのに、まさか選んだ張本人が一番最初に寝るとは。

「…(くすぐったいなあ…)」

首に掛かるバッキーとスティーブの髪の毛がくすぐったくて身じろぐ。体勢を変えたいけれど、バッキーもスティーブも俺の肩を枕代わりにしてすやすやと眠っているので中々そうはいかない。ふかふかのソファに背中を預けてるけれど、バッキーがうとうとし始めてから気を遣ってずっと同じ体勢だったのでさすがにちょっと疲れてきた。

「(ああ〜このままポップコーン開けっぱにしてたら湿気っちゃうな…)」

袋の口が開いたまま床やソファに放置されているポップコーンの袋たちに視線を向ける。せめて封をしたいが動けないからどうすることもできない。ああこれ、湿気たらまずくなるなあ…床とかソファにもポップコーンがちらほら散らばってるし、これは2人が起きたら掃除だな…とどこか主夫じみたことを考えた。

「んー…」

不意に小さく唸り声を上げるバッキーをそっと見やる。肩枕をしているから彼の表情はうかがえない。反対側で同じように俺の肩を貸しているスティーブもそうだ。この2人の寝顔を拝みたかったな、きっと綺麗な寝顔なんだろう。生憎この角度からじゃあ、閉じている瞳の長い睫毛しか見えない。よく考えれば、スーパーソルジャー2人が部屋で居眠りなんて無防備なところを晒しているのもすごくレアだと思う。2人が居眠りできるくらいリラックスしているのかなと思うとちょっと、いやかなりかわいいなと思うし、それに俺はその2人に肩枕なんてして、間近で綺麗な長い睫毛が見れるのだから、これは相当貴重な経験ではないだろうか。なんて思ってたら、ずっしりと感じていた肩の重みも軽く感じられてきた。自分でも思うけど、単純だな、俺。

「んあ、……?」
「……バッキー、」

そんなことをぼんやりと映画を観ながら考えてたら、目が覚めたのか寝ながら唸り声を上げていたバッキーがのろりと動いた。ふっと肩の重みがなくなる。ああ、すごい楽になった。しばらくテレビ画面をじっと見ていたバッキーだったが、不意にゆるりと俺の方に顔を向けて、そしてバッチリ目が合った。わあ、すごい半目だ!眠そう!

「………」
「……あの、バッキー」
「………んん」
「………(なんで?!)」

一応声を掛けてみたが、反応してくれずそのまましばらく数秒。一度起きてくれたからバッキーの肩枕状態から脱出できるかと思ったのだけど、じっ、と俺を数秒見つめてからバッキーはそのままもぞもぞと体勢を整えて、再び俺の肩を枕にして、そして今度は俺の右腕を抱えて眠りにつき始めた。おい嘘だろ。なんでそうなるんだよ。俺の腕を抱く力が若干強くて痛いよバッキー。そしてすうすうと穏やかな寝息をまた立て始めたバッキーと、相変わらず眠ったままのスティーブの穏やかな寝息を聞いていて、俺は悟った。

「……(朝までこのままだな、きっと)」

ああ、身動きが取れない上にバッキーによって右腕も封じられてしまった。それに彼のおかげで全然TVの方を見れてなかったから何が起きてたのか分からなくなったぞ…巻き戻しして見直したいけどリモコンに手が届かない…つらい…なんかすごく感動するシーンっぽいのだが何が起こってるのか全然分からないから全然感動できない…つらい…。
もうこうなったら、このまま2人の寝起きの顔を見れるまで起きてようかな。そんなことを考えて、両肩に掛かる重みと、右腕に感じる固い金属の感触を感じながら、若干湿気気味のポップコーンを口に放り入れた。


するり、と何かに優しく頬を撫でられた、気がする。温かくて、安心する。その感触が心地よくてそれに擦り寄る。ナマエ、と柔らかい声で名前を呼ばれた。ああ、呼ばれてる。それによって意識が段々と浮上して、俺はゆっくりと目を開けた。

「…あれ、俺、寝ちゃってた」
「おはよう、ナマエ」

思わず日本語が溢れる。おはよう、と声を掛けられて顔をそちらのほうに向けると、俺を見てスティーブが柔らかく微笑んでいた。朝からそのきれいな微笑みが見れるなんてありがたい。

「…スティーブ、…おはよう」

目をゴシゴシと擦ってぱちぱちと瞬きをする。部屋は既に明るく、カーテンの隙間から優しい朝の光が差し込んでいた。あれ、朝じゃねーか。なんてこった、起きてようと思ってたのにいつの間にか寝てしまっていたとは。そして変な体勢で寝ていたせいか首と肩が痛いし、変に凝っている気がする。肩をぐるぐると回してから首の後ろに手を当てたら、スティーブに大丈夫?と心配そうに言われた。

「ごめんね、僕君の肩に頭を預けて寝ちゃってたみたいで」
「え、あ、うん!大丈夫だよ、全然!」

眉を下げて謝ってくれたスティーブにぶんぶんと首を振った。体勢的には辛かったけどスーパーヒーローに肩枕することができて俺得なんて思ってたので全然平気だ、むしろ感謝したいくらいである。

「あれ、そういえばバッキーは、」

肩にあったはずの重みがないと思ってバッキーが寝ている方を見ると、俺の右肩を枕にして右腕を抱き枕にしていたはずのバッキーは、いつの間にかソファの肘掛けを枕にして寝ている。

「ああ、ナマエが辛そうだったからね。僕が彼を動かしたんだ」
「あ、そうなんだ…ありがとう」

すごいな、スティーブに動かされても起きないのか…。中々眠りが深いんだなこの人…、と妙に感心した。
どうやらバッキーの寝起きの顔は見れそうだが、スティーブのは見れなかったなあ…、俺の目論見は失敗したわけだ。

「…スティーブの寝起きの顔、見れなかった」
「え、僕の寝起きの顔?」
「頑張って起きてたのに……」

ぽつりとこぼした言葉が聞こえたのか、スティーブはきょとんとした顔で俺を見た。その後面白いこと言うね、とスティーブはふわりと笑う。

「それは残念。でも僕はナマエの寝起きの顔見れたよ」
「…俺の寝起きの顔なんて見てもなあ」
「かわいかったよ、ありがとう」
「……う、」

笑顔でそう返されてしまってなんとなく気恥ずかしくてスティーブから目を逸らした。ううん、かわいいってなんだ。しかもお礼を言われてしまったし。どう返せばいいの俺。なんか違う気もするが、どういたしましてとか言えばいいのか?スティーブに限らず今に始まったことじゃないが、ピーターとかマキシモフツインズがよく俺のことをかわいいと言ってくるけど、なんだか釈然としない。俺のどこがかわいいんだ…。とまあ言われるたびにいつも思っているのだけど、…今度言われたらなんでそう思うのか聞いてみようかな…。
なんてそんなことをぼんやりと考えていたら、むくり、と視界の端でバッキーが起き上がるのが見えた。

「…おい、俺がいるの、忘れるなよな」

そうぼそりと言いながらバッキーはんんん、と背伸びする。その姿はどこか猫みたいだ。

「バッキー」
「あーよく寝た」

ふああ、と大きく欠伸をしたバッキーがそう漏らす。そりゃそうだ。なんだかんだで一番寝てたのはバッキーだもんな。欠伸し終わったバッキーは俺とスティーブを交互に見てから俺の方をもう一度見て、なぜか意味ありげにふ、と笑う。

「おはようナマエ、肩と腕ありがとな」

そしてそう言ってバッキーは俺の頬にちゅ、とキスをした。

「………は?!」

されたことを理解した瞬間かあああと瞬時に体が熱くなる。瞬時にバッキーから後ずさってなぜかキスされた側の頬を抑えてしまった。勢い余ってスティーブにぶつかってしまったごめんスティーブっていうかいやなんでだよ!!?お礼言われるのは分かるけどキスは違くない??!!とか言いたかったのだけれど動揺しすぎて英語が出なかったため魚みたいに口をパクパクするだけで終わった。つらい。きっと顔が真っ赤になっていることだろう、案の定そうらしい、バッキーは俺を見て「顔真っ赤だな」とからから笑った。その後スティーブにバッキー!と咎めるように名前を呼ばれたバッキーは、

「はいはい、全く過保護だなスティーブは」

なんてニヤニヤしながらそう言うもんだから、俺はなんだか恥ずかしくてまたじわじわと顔が熱くなっていくのを感じた。


20160923


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