任務が終わって本部に報告書を出し終えたら真っ先に家に帰ってシャワーを浴びてベッドにダイブするのが俺の普段の日課だ。けれど今日はなんとなく気まぐれで辺りをぶらついてみたくなったので、本部の中に入っているカフェでコーヒーを買って、それをゆっくりと味わいながら適当にそこらへんを歩いていたのだが。

「………あ」

懐かしい顔がPCを持って慌ただしく歩いていくのが見えたので、思わず口角が上がった。

「ベンジー!」
「っえ、え、?」

俺の声に即座に反応したベンジーは足を止めて戸惑いがちにきょろきょろと辺りを見回す。「こっちだよ」ともう一度声をかけてやるとようやく気付いてくれた。ベンジーは俺の姿を確認した途端、ぱあっと表情を明るくさせてこっちに駆け寄ってきてくれた。

「っナマエ…!」
「よお、」

「久しぶりだな」と言うと、ややどもった感じで
「っひ、久しぶりだな!」と返ってきた。うん、こういう反応は相変わらずだな、と数年経っても変わらない同期の姿に少しほっこりした。

「…なんか、」
「え、何?…ナマエ?」

けれどなんとなくどこか違和感を覚えてじ、っとベンジーを見つめる。なんだかこいつ、見ないうちに随分体格が良くなったような…。じろじろとぶしつけにその体つきをしばらく見つめていると、そういえばと思い出す。

「…そっか、最近サポートを頼む時ベンジーの声聞かないなと思ってたら…お前現場エージェントに昇格したんだっけ」
「あっ、そうなんだよ!」

別の同期から聞いたのをすっかり忘れてた。ぽつりと俺がこぼせば、ベンジーはにこにこしながら現場エージェントになるまでのいきさつを話してくれた。そういえばこいつ、いつか現場エージェントになりたいってよく言ってたな。よくIMFの伝説的英雄であるイーサン・ハントの話してたし、憧れてるんだろうなあとぼんやり彼の話を聞いていたのが懐かしい。

「ーーで、試験にパスしてさ!俺もようやく現場エージェントになれたんだ」

「それに、今あのイーサンと同じチームなんだ」と嬉しそうに笑顔でそう話すベンジーにつられてなんとなく俺も笑顔になる。「おめでとう」と伝えると、俺の言葉にベンジーは照れ臭そうにしながら、「ありがとう」とはにかんだ。

「そういうナマエだって、今チームのリーダーやってんだろ?すげえよな、同期としてなんだか鼻が高いよ、ははは」
「何言ってんだお前、褒めたってなんも出ないぞ」

そんな感じで始まったお互いの近況報告は、久しぶりということもあって長く続いた。会話がひと段落して視線をさりげなく腕時計に落としたら、結構時間が経っていてびっくりしてしまった。俺が腕時計を見たのに気づいたベンジーは「ごめん時間大丈夫か?」と慌てて言ってきたので、それに「大丈夫だ」と返す。このやりとりも昔よくやったなあ、とあの頃の記憶が脳裏をよぎった。

「…ナマエ?」
「え?」
「どうしたんだよ、急に黙っちゃってさ」
「ああ…いや、懐かしいなと思ってさ。お前とよく飲んでた頃が恋しいよ」
「えっ、」
「…なんか、最近退屈でさ。なんでだろうな〜、任務とかで刺激はもらってるはずなんだけど、イマイチ新鮮味がないというか。毎日毎日任務こなして、ヘトヘトになって家のベッドで寝て、そしてまた任務。それの繰り返しなんだよな。だから今日ひっさしぶりにベンジーに会えて嬉しかったよ」
「うん、…俺も、ナマエに会えて嬉しかったよ」
「そっか。良かった」

いつもより少し小さな声で、頬を掻きながらそう返してくれたベンジーは、こんなこと男の俺が言うのもあれだが、なんだか可愛かった。俺の気まぐれのおかげでまさか数年ぶりにベンジーと話すとは思わなかったし、たまにはてきとうに辺りをぶらついてみるもんだな。

「(「ようやく現場エージェントになれたんだ」…か」)」

俺には決して出てこない言葉だ。こんなこと言うとベンジーには贅沢だと怒られるかもしれないが、俺は適性があったから現場エージェントになっただけだ。特に野心も何もない俺はなんとなく周りの流れに身を任せていて、そのまま数年経って、気づいたら責任の重いチームのリーダーになっていただけ。周りの人間からよく淡白だと言われるが、そうなんだろう。自分でもある程度自覚しているつもりだ。そんな特にこだわりもなくなんとなく今の仕事をしている俺と違い、ベンジーはちゃんと目標や仕事に対する思いも持っている。誰かに憧れ、内勤から努力して現場エージェントになったというのは、単純にすごいと思うし、尊敬する。

「…っなあナマエ!あのさ、退屈なら、…俺と久しぶりに飲まないか!」
「、え?」

ぼーっと目の前の人物について考えていたら、突然その当の本人がそんなことを大声で言い出すので少し面喰らってしまった。そして俺の返答の言葉を待たずにベンジーは「ええと、」とさっきの言葉に対する弁明を早口で繰り出し始める。

「っいやあの、こうして久しぶりに会えたし、ナマエは任務で忙しいだろうし、っていうか俺も中々忙しいからこの先あんまり会う機会がないかもだし、だからこそ久しぶりに飲みたいなっていうか…それにほら、ナマエが最近退屈なら、その、俺が少しでもナマエの退屈を紛らわせられればなって…あれ、俺何言ってんだろう…」
「…ベンジー、落ち着け」
「ご、ごめん俺変なこと言ったよな!つまりだな、」
「つまり?」
「あーと、……この後…暇?」

小さな声で、俺から目を逸らして、妙に顔を赤くしてそう言うベンジーに苦笑した。
…こういうところも相変わらずだな。
俺が何も答えないのを悪い方に取ったのか、ベンジーは焦って「ごめん、久しぶりだからって、調子乗ったよな!」なんて言い出した。いやいや、何言ってんだこいつ。

「あのさ……早とちりしすぎだし、回りくどい」

俺がきっぱりとそう言うと、ベンジーは「う、」と言葉を詰まらせた。所在なさげに視線がさ迷う。

「いいよ、飲みにいこう」

もうちょっとベンジーを困らせてわたわたとしてる様を見るのを面白いと思ったけれど、久しぶりに会ってからかうのは流石にやめようと俺の良心が引き止めた。だから薄く笑ってベンジーの誘いを承諾すると、彼は驚いたように目を見開いて、それからぱああと顔を輝かせた。

「じゃっ今すぐ荷物取ってくるから!ちょっと待っててすぐ戻ってくるから!ほんとにすぐ戻ってくるから!」
「はいはい」

ベンジーの瞬く間に遠くなっていく後ろ姿を見ながら、流石現場エージェントになったからか、走るの速くなったなあと変なところに感心してしまった。



20160831



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