「ナマエ〜」
「ナマエ!」
「あっナマエ!」
「ナマエーーー」
「……………。」
俺は今、クイックシルバーことピエトロ・マキシモフに超絶懐かれている。なんで懐かれてるかはよく分からないが、多分些細なことが始まりだったと思う。俺はシールドの職員だが戦闘派というわけではなくどちらかというと事務派なので、会う機会はあんまりないのだけど、とにかくとても懐かれているのだ。どれくらいかと言うと俺を見ると「ナマエ〜」と俺の名前を呼んですっ飛んでくるくらいには。双子の妹のワンダもピエトロの俺に対する懐き具合は相当だと言っていたくらいだ。なにしろシスコンのくせにワンダと俺が話したくらいでワンダに嫉妬するような奴だからな(ワンダ談)。したことないけど俺が言えば絶対パシリというようなこともきっとしてくれるだろうし、どんなに不機嫌でも俺が調子よく褒めてあげればその機嫌も直ってしまう、褒めると嬉しそうな顔をする、俺より図体デカイくせに頭を撫でると尚更、まるで大型犬に懐かれているみたいだ。
そして俺は、いつからだったか、その大型犬が好きになってしまったわけだ。勿論ライクじゃなくてラブな意味で。
さてここで問題、好きな奴が毎日のように自分にひっついてくる。無邪気な笑顔で、そして無防備に。その時の俺の気持ちはどのようなものでしょう?
「(今すぐめちゃくちゃに犯してやりてえ………………)」
シールドの職員と談笑しているピエトロを見ながら俺は至極真面目にそう思ったのであった。なんなんだあのけしからん胸とケツは。揉みてえ。むしろ揉ませてくれ。
「……ナマエ、殺人鬼みたいに恐ろしい顔してピエトロを見つめるのやめて」
「…悪いワンダ、今の俺の心読むなよ」
「読まなくても分かるわよ」
「顔に書いてある、」とワンダはため息を吐いた。ワンダにしてみれば実の兄が俺の毎晩のオカズにされているわけだから決して良い気はしないだろう。それに関しては申し訳ないと思っている。
「…はあ、ごめん、最近ちょっと疲れてて………限界かな」
「もう告白したら?ピエトロもナマエと同じ気持ちだと思うけど」
「なんだその妙な自信は」
「だって片割れだもの。ピエトロの考えてることくらい分かるわ、単純だし」
「………その片割れの自信を俺にも分けて欲しい…………」
「ナマエって変なところで臆病なのね」
これが臆病にならずにいられるか。変に想いを伝えて好きな奴(ピエトロ)に嫌われてみろ、俺は悲しさで死ねる自信がある。
「はあ……………辛い……」
「…見ててイライラするから私が背中を押してあげるわ」
突然、そう言ってにっこりとワンダが笑った。
「え、ワンダ?まっ、」
ちょっと待って嫌な予感がする!!!!待って!!!!
「ピエトロ、ナマエが呼んでるわよ。大事なことを伝えたいって」
ノオオオオオ!!!!
「ナマエ?何呼んだ?」
「……………………ピエトロ」
シスコンであるピエトロがワンダの声に反応しないはずがない。そして俺が呼んでるんだ(実際には呼んでないけど!!)、それはもうすっ飛んできた。シュンッて具合に。
「お前ほんとなにしてんの!!!!!????」という気持ちを思いっきり込めてワンダをじっと見つめたけどワンダは有無を言わせない笑顔で返してきた。「早く告白しろ」ってか!!!!ちくしょう!!!
「……はあ」
思わずため息が出た。些か強引すぎるが、ずっと思い悩んでるよりもマシかもしれない。
「………ピエトロ、ちょっと、いいか」
「お前…………そんなに俺のこと好きなのか?」
人がいる訓練場で愛の告白なんて恥ずかしすぎてできるわけがないので、俺のオフィスに移動してもらった。そしてとりあえず単刀直入に聞いてみた。
「好きじゃなきゃこんな一緒にいないって」
「…ま、だよな」
ピエトロの答えはまあ予想通りだった。期待はあんまりしてなかったし、あまりダメージはない。
「…………」
俺の反応に不満でもあったのか、ピエトロは訝しげにその形の良い眉を寄せる。
「何が言いたいんだよ」
「いや、……………うん、」
どう言えばいいのか。「お前のことが好きだ、性的な意味で」とか?いやキモイわ俺だったら絶対ヒくわやめよう。シンプルにアイラブユーがいいかな…シンプルイズザベストだよな、
「…………なんなんだよ」
「え、」
歯切れの悪い俺にしびれを切らしたのか、ピエトロがそう言ってキツく俺を睨む。けど、目が合うと気まずそうに目を逸らしたあと俯いた。ピエトロの声が震えている。ついでに言えば肩も震えている。え、ちょっと待ってこいつ泣いてる?え、嘘だろ?
「………あの、ピエトロ?」
「うるせえな!俺のこと嫌いなら嫌いってさっさと言えよ!!」
「ええええええいやちょっと待って????!!!」
いくら短気すぎるからってそれは気が早すぎないかピエトロ???!!てかなんでそういう考えに行き着くの??!!!!
「ちょっと待てほんとに待て!!俺はそういうことを言いたいんじゃないんだ!だから後ずさりするな!!逃げるな!!」
「よっ寄るな触るな!ナマエはずっと俺のこと嫌いだったんだろ?!だから俺にそっけなかったんだなふざけんなよそれならそうと最初から態度に示せよクソ野郎!!」
「だからそうじゃないって!!嫌いなんかじゃないって言ってるでしょーがああもう分かんないやつだな!!!」
「ッ、?!」
勢い余って壁ドンをしてしまった。まさか女子が憧れる壁ドンを男にするとは思いもしなかった。しかも人生初の壁ドンだよ。
「っど、けよ」
「どきません」
涙目で俺を睨んでくるピエトロがエロすぎて困る。
「ちゃんと最後まで聞けよピエトロ、俺は」
「っ、」
「………………」
ピエトロの頬にそっと手を添える。びくりと震えてこちらを見る奴の目が不安げに揺れた。というか今にも泣きそうだ。いかん、こいつの表情見てたらなんかムラムラしてきた。
「ピエトロ、」
「ひ………っ」
だから、思わずキスをしてしまった。
「…………あーーー……………」
や っ て し ま っ た。
何が起こったのか分かってないのかピエトロの頭に?マークがたくさん飛んでいる、ように見える。そりゃそうだよないきなりキスされたらびっくりするよな。
「………というわけで、俺はピエトロのことが好きなんだわ」
「つまり、そういう意味で」という言葉を付け加えておいた。勢いで言ってしまった感があるが、言ってしまったものはしょうがない。ここでピエトロに拒絶されたらそれまで、ってことだ。
「…ぁ、」
「あ?」
しばらく固まっていたピエトロが小さく声を発して、恐る恐る俺を見た。
「俺のこと、嫌いじゃない…」
「ああ」
「ナマエは、俺のことが、すき…?」
「ああ、性的な意味で」
「せいてき、」
重要なことだから強調して言っておいた。ピエトロの瞳が揺れ動く。しばらくして俺が言った言葉を理解したのか、ピエトロの顔がみるみる赤くなっていった。
………これは、脈アリかもしれない。
少しばかりの希望が見えてきて、思わず口角が上がった、が。
「ピエトロ、おい?」
「ばっ、ッニヤニヤすんな!」
「うぐおッ?!」
………次の瞬間、頭突きされて逃げられました。
20150810