クリスマス企画で恋人同士になった後の話


初デートがよりにもよってお家デートだなんて俺は信じたくない


「いいだろ別に」
「よくねえよ!なんで記念すべき初デートがお前の家でデートなんだよ!」

ナマエの冷たい返事に思わずムキになってそう返したが、ナマエはぽりぽりと塩味のクリスプを食べながら俺の方には見向きもしないで海外ドラマに夢中になっている。悲しい。

「(あーもう、全然上手くいかねえ…)」

幼馴染という関係から俺の懸命なアタックで、ナマエとめでたく恋人という関係になってしばらく。エブリデイハッピー気分な俺だったが(ハリーやマーリンに気味悪がられる程に)、ひとつ大きな問題があった。それは、今まで一度も恋人らしいデートをしていないということだ。これは由々しき事態である。今までの関係が関係だったので、恋人になってからもだらだらとパブで酒を飲んだり、ナマエの家でごろごろしたり、幼馴染の延長のようなことしかしていないのだ。更に言えばえろいこともほとんどしていない。キスは何回かしたが恋人としての行為はキス止まり、セックスなんて以ての外だ。まあ、キス以上の行為に関してはナマエの心の準備が出来てないみたいなので我慢するしかないのだが…。
キングスマンの任務の関係で中々ナマエと会えないというのもある、けど、それにしたって冷静になって振り返ってみると恋人らしいことなんてほとんど皆無に近いぐらいしていないことに、ただならぬ危機感を抱いた。それがつい2週間前。そしてロキシーに相談して恋人らしいデートをしようと目論んでナマエを誘ったのが1週間前。そしてデート当日。

「まさかの!!!ナマエん家でデート!」
「そんなこと言われたってなあ…今日雪だよ、ここんとこずっと降ってるしさ。やだよ寒さに震えてデートすんの」
「はあ?!おまっ…はあ?!」

こいつ!どんだけめんどくさがりなんだよ!!!
ナマエの怠惰さにびっくりして反論するための言葉が見つからない。ワナワナと体を震えさせている俺を、ナマエのやる気のなさそうな目が捉えた。

「…大体、デートしたいって言うから何したい?って俺聞いたのにお前何も言わないんだもん。俺も今は特に行きたいところないし、だからお前ん家か俺ん家でダラダラするしか思い浮かばなかったんだよ。で、お前ん家は色々ダメだろ?だから必然的に俺ん家」
「いや、それは…まあ、そうだけど!納得いかない!!!」

ああクソっなんであの時なんでもいいから具体的なデートプランを言わなかったんだ俺は!!!プランは今までの妄想のおかげで腐るほどあったはずなのに!!!やりたいことが多すぎて声に出なかったなんてバカか、バカなのか!!
あああと頭を抱えて唸る俺を見てナマエは「騒がしい奴」と少し呆れ気味に言うのが聞こえた。これが騒がずにいられるか、記念すべき初デートが、まさかのお家デートだなんて…。

「まあまあ、そう言うと思ってとりあえず酒とつまみを買っといたから。飲みながらぬくぬくして映画でも観ようぜ」
「結局いつもと同じ流れじゃねえか………」

最早これはデートなのか……?


「っうお」

テレビの映像に合わせて、びくりとナマエの身体が震える。ゆったりとした3人は座れそうなソファに身を預けて俺の横にぴったりとくっつき、ついでに言うなら俺の右腕を抱いて座っているナマエは、眉間にシワを寄せながらテレビを見つめていた。

「……ナマエ、ホラー嫌いなくせになんでホラー映画観てんだよ」
「ホラー嫌いだけどこれは気になってたんだよずっと…無理今日1人でトイレ行けないかもしんない」

そう言いながらもテレビ画面から目を離さないナマエに小さく「アホか」と呟いた。間髪入れずに「うるせえ」と返される。

「…ほら、あるだろ、あんま好きじゃないジャンルだけど観たいやつあるときとか、怖いもの見たさ的な」
「(あるか…?)」
「これがまさにそうなんだよ、観たいけど、1人じゃ絶対怖くて観れないし…。でも、お前と一緒なら大丈夫かなと思ってさ」
「………。」

俺の方を見てふ、と笑ったナマエの思わぬ言葉に心臓がギュンっとなった。そうだ、こいつはいつもそうだ。予想外のとこでこういう可愛いことをさらりと言いやがるから本当に困る。こんなんじゃ、心臓がいくつあっても足りない。ナマエにしっかりと抱かれている腕とは反対の手で火照った顔を覆った。

「エグジー?」
「…なんでもない………」

顔を覆ったままの俺を見てどう思ったのか、ナマエは俺の右腕を抱いていた腕をほどいて、静かに息を吐いた。

「…なあ、エグジー」
「なに……、?」

手を退けて顔を上げると、なにやら難しい顔をしたナマエが。俺を見据えて、ゆっくりと口を開く。

「…俺たちがずっと幼馴染で、そこからこういう関係になったから、だからこそお前が恋人らしいデートとか、恋人らしいことしたいっていう気持ちは、なんとなく分かる。このままだらだらと過ごして、恋人らしいことをしないまま幼馴染の延長でこの関係が終わるんじゃないかって思ってるだろ?」
「ぅ、」

ナマエが突然俺に言ってきたことは、めちゃくちゃ図星だった。図星すぎて思わずナマエから目線を逸らす。それに構わずナマエはエグジー、と再び俺の名前を呼んだ。その声は真剣で、だけどどこか覇気がない。自信のなさげな声だった。

「今回は俺のワガママでこうなったけど、俺……、俺は、世間一般で言う恋人らしいデートをするより、お前とこういう風にダラダラ過ごして一緒にいる方がよっぽど楽しいし、幸せなんだ。お前の、恋人として」

弱々しい声だったけど、まっすぐ俺の目を見つめてそう言うナマエの表情は真剣そのもので。何故か俺は何も言えずに馬鹿みたいにナマエを見つめ返した。そして俺の沈黙をマイナスな意味で解釈したのか、その後ナマエが目を伏せて小さい声で「でも、お前がそうじゃないなら、」なんて言うもんだから色々我慢できなくなって、

「………あーもう、ナマエっ」

たまらなくなってがばっと勢いよくナマエのことを抱きしめた。いきなりで驚いたのだろう、ナマエの身体がぴしりと固まる。

「ぅわっ?!っえ、エグジー?…」
「……違わない。」
「…」
「俺も、ナマエとこうやってだらだらしてる時が一番幸せ」
「…そっか」
「うん」

俺がひたすらナマエにアタックして実った関係だから、不安に思っていたことがあった。俺ばっかりがナマエのことを好きで、ナマエはそうでもないんじゃないかって。でも違ったんだ。
「お前の、恋人として。」
その言葉がじんわりと胸に広がる。
ナマエはナマエで、俺との関係についてちゃんと色々考えてくれている。そのことが嬉しくて、ナマエの肩口にぐりぐりと頭を押し付けると彼はくすぐったそうに笑った。

「エグジー」
「ん」
「…お前が恋人らしいデートしたいなら、俺はそれに付き合う。それでお前が喜んでくれるなら、俺も嬉しいし。それに、」
「…?」
「キスとかも、…お前がしたいことなら、…頑張るから」
「…っ、」

ああほんとに、こいつずるい。

「ぅわっ!?ちょ、えぐっんむ、」

衝動的にナマエをソファに押し倒して、その形の良い唇に噛み付いた。口内を荒らしながらナマエの着ているパーカーの下に手を忍ばせ、脇腹や腹筋を優しくなぞれば、ふるりとその身体は震え、くぐもった声が漏れた。ああ、エロい。かわいい。腹筋辺り触れていた手を更に上にのばそうとすると、もう我慢できないというかのようにナマエはあまり力の入っていない両手で俺を引き離した。頬は紅潮し、眉を下げて軽く涙目のナマエを見て、どうしようもなく劣情に誘われる。思わずごくりと唾を飲んだ。

「っな、なっ、いきなりなにしてんだよ!」

けどその口調はまだ元気なもので、これはまだイケるなと思った俺は調子に乗ってナマエのパーカーの下に入れていた手を再び動かし始めた。

「っひ、ふは、エグジー、なにしてんだって、言ってる、だろ!」
「俺が今ナマエとやりたいことをしてる」
「は?!今って、」
「お家デートって、案外良いもんだな」
「え、?ん、」

ちゅう、と赤く熟れた半開きの唇に今度は軽くキスをする。

「ナマエにこうして幾らでも触れられるし、……えろいことできる」

にやり、と笑った俺はさぞかし悪い顔をしていたんだろう。ひ、と引きつらせた声を漏らしたナマエは一緒に表情も引きつらせた。

「あっ、ッま、えぐじ、まってくすぐったい、」
「んー、すぐ慣れるよ」
「そんなの慣れるわけっ、ン」

「そんなの慣れるわけない」と言おうとしたのだろうが、その言葉は途中で小さな喘ぎ声に変わって消えた。首筋に顔を埋め、吸い付く肌に唇を当てる。ナマエは俺を止めるように俺の肩に手を置くが、力が入ってないその両手はただ添えられているだけだ。首筋を唇で上へなぞり、そして耳たぶを甘噛みをする。俺からの刺激を身じろいでやり過ごそうとしているナマエがどうしようもなくえろい。こいつの慣れない初心な反応に、普段とは違う姿に、どうしても腰がずくりと重くなる。そうして半ば衝動的にナマエの股間を膝でぐり、と押し上げた、瞬間、

「ぁっ!?」

思ってもみなかった下腹部への刺激にその身体はびくりと震え、今まで我慢していた分の大きな声が漏れた。

「っ、ナマエ、」
「やっやめろエグジー!そこは、っひ、や、」
「興奮してるだろ、」
「してない!してないから!っあ」
「そう?俺は興奮してるけど」

そう言って俺の腰をナマエの腰にくっつけて、自分の股間を押し当てる。ズボン越しに俺のそれが反応しているのが分かったのか、ナマエは閉口して、今まで赤かった顔が面白いくらい更に赤くなっていく。
腰を動かして、着衣越しにお互いのそれを一方的に擦り合わせる。ぐっぐっと何度も押し当てると気持ち良いのか、ナマエのぐっと引き結んだ口から甘い声が漏れ始めた。堪らない。

「…な、ナマエ、気持ち良い?」

下腹部への刺激を続けながら、「俺は気持ちイイよ、」とナマエの耳元で囁く。耳元の声と続く刺激にナマエはふるりと震えた。
が、俺の肩をがっと強く掴んだかと思うと俺の胸ぐらを掴み、そしてキッとナマエが涙目で俺を睨む。

あ、これはマズイ、やりすぎた、

「……っこの…!調子に、乗んなっ!」
「いってえ!」

ナマエの見事な足蹴りによって、俺はソファから転げ落ちた。

「今は!映画観てるんだから!邪魔すんな!」
「…………はい、すみません…」
「……わかったならいい。…悪い、痛かったか?」
「それなりに…」

仁王立ちして俺をぎろりと睨むナマエ(それでも涙目で顔が赤かったのでかわいかったが)に素直に謝る。本当に調子に乗りすぎた。今までナマエが我慢できる境界線を越えるギリギリ前までで止めていたのに、今日はナマエがかわいすぎたのがいけない。まあ境界線を見誤った俺がいけないのだが、中途半端に固くなったそこが中途半端に辛い。どうやら抜かせてもくれないらしい、有無を言わさぬ雰囲気のナマエにじと、と非難がましい視線を送られながら俺は仕方なくソファに座りなおした。そしてその隣にナマエも座り、止まらずに進んでいた映画を巻き戻しし始める。こいつ、俺のこの微妙で中途半端な気持ちを分かってて俺の隣にピッタリ座ってんのか?

「どこまで観たっけか、えーと、あ、ここだ」
「………」
「………」
「………」
「…エグジー」
「ん」
「これが終わったら、…してもいいから」
「え」

それってつまり、とまさかのナマエの発言に思考が止まる。ナマエは俺をじとり、と睨んだ。

「何度も言わせんなよ、だから、映画が終わったらしていいって言ってんだよ、…お前のしたいこと。…中々お前に会えないから、俺も、それなりに寂しいし」
「……」

その言葉の最中、ナマエがバレないよう、もどかしげに太腿を擦り合わせたのを俺は見逃さなかった。

神様。お家デートがこんなに心臓に悪いなんて、俺聞いてないよ。



20160717


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