酔った。そして吐いた。そんでもって恋人に看病されているなうである。

「大丈夫かい?ナマエ」
「……さっきよりかは……」

完全にグロッキー状態の俺を見て、キャップ、もといスティーブは心配そうにそう言った。

「ごめんスティーブ、せっかくのパーティだったのに」
「気にしないで」

僕は君と2人きりで過ごせる時間が増えて嬉しいよ、とスティーブは優しく笑った。天使かよ。その言葉に嬉しいと思うと同時にとても申し訳なく思った。
これは言い訳に過ぎないが、まさか大きいミッションの後の打ち上げパーティであんなに酒を飲まされるとは思わなかったのだ、しかも強い酒ばかり。酒に超絶弱い俺からしたら凶器である。すぐに酔いが回って、しかもひどいことに今日に限って悪酔いをしてしまった。そして酩酊状態になった俺を、恋人のスティーブが自分の家に連れ帰ってくれたのだ。そして彼の家のトイレで吐いた。その間スティーブは俺の背中をずっとさすってくれて、ベッドにまで寝かせてくれた。もう彼には頭が上がらない。というか、付き合い始めて一ヶ月も経ってないのになんていう無様な失態をしてしまったんだ俺は。恥ずかしい…。

「悪いな…、ベッドまで借りちゃってさ」
「いいんだ、君の家より僕の家の方が近かったからね」

そう言いながら俺の頭を撫でるスティーブはイケメンだ。顔良し性格良しで、しかもなんといってもあのキャプテンアメリカ様がなんで俺のことを好きになってくれたんだろうとぼんやり思った。長いこと片想いをしていたつもりが、どうやら長いこと両片想いだったらしい。それを知ったときは何かの冗談かと思ったが、本当だったようで。めでたく俺とスティーブは恋人同士になった。そのときの感動というか、嬉しさは今でも記憶に新しい。……のにこの失態だ。

「何考えてるんだ?」
「いや…俺ってダメダメだなって思ってさ…」
「いきなりどうしたの、ナマエ」
「…………俺、ここに来たくなかった」
「え?」

俺がぽつりとこぼした言葉に、スティーブの表情が少し強張る。その表情を見てごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだと慌てて付け足した。

「だって、笑えないだろ…恋人の家に初めて来たのが介抱されるためだなんてさ」

自分が情けなくてスティーブから顔を逸らした。無機質な白い天井を見つめて言った言葉に対する言葉は、返ってこない。

「本当はこのベッドだって、もっと別の、…良い雰囲気のときに使わせてもらいたかったし、なんて」

冗談半分本気半分で言ったことが言った直後すごく寒いなと思ったのではははとから笑いをして誤魔化してみた。うう、益々スティーブの方を見れなくなってしまった…。馬鹿…。

「…ナマエ、」
「スティーブ、んぅ」

不意に顔をこちらの方に向けられたと思ったら、むにゅ、とした柔らかい感触。思わず身体が固まった。間近にスティーブの長い睫毛が見えて、ようやくキスされたのだと分かった。

「っおい、汚いぞ、俺吐いたばっかりなのに」
「平気だよ、口ちゃんとすすいだろ」

歯も磨いてたし、とスティーブは続けた。いや確かに口は相当濯いだし歯もめちゃくちゃ磨いたが、俺の気持ち的にそういう問題ではない。

「そうだけどさ、でも」
「黙って」

俺が抗議をしようとすると頬をスティーブの大きな手で包み込まれて、またゆっくりと唇を合わせられる。ああ、柔らかい。じっくりと喰んだりして味わいたいけれど、吐いたばかりでそれはさすがに憚られた。
そっとスティーブの顔が離れていく。じ、と見つめていると、自分がしたことが恥ずかしかったのかスティーブの耳が赤く染まっていた。キスをしたのは自分からなのにな。そして段々と頬にもそれが広がっていって。自覚しているのだろう、彼は俺から視線を外して口元を押さえた。その仕草や表情に加虐心がくすぐられて、口角が自然と上がる。

「スティーブ、どうした?顔赤いぞ」
「、いや、これは…」
「もしかして酔った?」
「…意地悪だね、君は」

僕が酔えないの、知ってるくせに、と赤面して口を尖らせるスティーブがかわいくて、きっと俺の表情はだらしないものになっているだろう。付き合い始めてキスやらなんやらをしてみて分かったが、スティーブにはあまりこういう経験がないらしい。キスをするのも、されるのも、初心というか、恐る恐るなのだ。だからキスをされてびっくりした。でも、嬉しい。

「ごめん、だってかわいくて」
「僕にそんなこと言うのは君くらいだよ」
「惚れた弱みってやつかな」

そんなことを言いながらスティーブの手をとって、指や手をなぞったり動かしたりして遊ぶ。俺の手よりも大きいその手は、固くてごつごつしている。

「…なあ」
「何?」

ふと、スティーブはキスから先に行ったことはあるのだろうか、女性経験はあるのだろうかと思った。だって、キスするだけでもあんなだし。ドイツ軍と戦っていたころの話はあまり詳しく聞いてないが、想い人というか、そういう女性がいたというのは聞いたことがある。けど目覚めてからの彼のそういう話は聞いたことがなかった。狙っている女の子がたくさんいるのは知っているが。とそこまで悶々としていて口を開いてみたが、喉元まで出かかった言葉を飲み込んで口を閉じた。

「…ううん、幸せだなあって、思っただけ」

目の前にいる彼が、俺の恋人だという事実で十分だと、そう思った。キス一つで頬を染めるスティーブが、キスより先に進んだらどうなってしまうのかは、気になるけれど。正直考えるだけで腰がずくりと重くなる。でも彼には無理させたくはないし、何より今のスティーブはとてもかわいい。俺の我慢が続くかどうかは分からないけれど、ようやく実った片想いなのだ、ゆっくりと、時間をかけて関係を築いていこう。彼の手が俺の手を握り返してくれるのを感じながら、そう思った。
悪酔いするのも、たまにはいいかもしれない。


20160308


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