「知ってましたかナマエ様」
「え、なにを?」

だいぶ冷え込むようになりはじめた12月中旬、正直ニューヨークがこんなに寒いと思ってなかった俺は今アベンジャーズタワーと名前を変えたニューヨークの中心部にあるどでかいビルに入っているスタークさんの応接間にいた。今日はスタークさんに呼ばれてここに来たのだが、何の用件かは言われてないしいつものようにスタークさんはなにか準備があるとかで来ない。なので俺はいつものようにジャーヴィスと雑談してスタークさんを待っていたら突然ジャーヴィスがそんなことを言い出した。

「今日はくりぱらしいです」
「…………くりぱ?」

くりぱとはなんだ。と一瞬考え込んでしまったが、しばらくしてピンときた。

「あ、クリスマスパーティーのことか!一瞬分かんなかったよ」
「日本の若者はクリスマスパーティーのことをくりぱと略すと先日学んだもので、使ってみようかと」
「(どこで学んだんだろう…)」

自分もまだ若者のつもりだがクリパと聞いて一瞬わからなかったのには目を瞑っておこう。

「クリスマスパーティーか、もうそんな時期なんだなあ」
「ナマエ様はクリスマスパーティーはされたことがありますか?」
「え、ああ、パーティーって呼べるようなものじゃないかもしれないけど、小さいのは友達とやったことあるよ」

ジャーヴィスの言うクリスマスパーティーはどこからがクリスマスパーティーなのだろうか。この前のアベンジャーズの戦いお疲れパーティーみたいな結構大きいものなのだろうか。あの時はたくさんシールドの人がいてたくさん挨拶されたし顔と名前覚えるの大変だったなあ、と若干遠い目をしていたらぽん、と肩を叩かれた。

「というわけでナマエ、クリスマスパーティーといこうじゃないか」
「………え、」

いつの間に俺の隣に座っていたスタークさんがにこり、と笑った。



そして有無を言わさずに連行されたパーティー会場は前にやった大きい会場ではなく、比較的小さい会場だった。今回はこぢんまりしたパーティーなようだ。前回俺が会場の隅っこで縮こまっていたのを知っていたらしく、スタークさんは俺に「今回はナマエが知っている限られたメンバーしか招待していないから、気楽に楽しんでくれ」と言ってくれた。とてもありがたい。会場にはクリスマスパーティーらしく装飾がたくさんされていて、うわーすげーと感嘆しながら会場に入った瞬間、

「わあ、すご」
「ナマエ!!」
「うぶふっ」
「おい今のでナマエ死んだぞ」

ソーが俺に凄まじい勢いで抱きついてきた。というか最早俺にとってはタックルされたに近い。衝撃がすごすぎて変な声が出た。

「っそ、ソー」
「久しぶりだなナマエ!」

会いたかったぞ、と頬にキスをされる。う、ヒゲが!ヒゲがくすぐったい!相変わらずソーのこの会うたびの熱烈なハグとキスには慣れない。

「う、っ俺も会いたかったよ、ソー」
「っナマエ!」
「えええ」

会いたかったよ、と言っただけなのにソーはぱああと嬉しそうに笑ってぎゅうう、とまた音がするくらい抱きしめられた。そしてソーに抱きしめ殺されそうになったところをスティーブに助けてもらうのも毎回毎回でなんだか笑う。そしてスタークさんの「メリークリスマス!」という言葉で始まったクリスマスパーティーは、なんだか楽しいものになりそうだ。



「ナマエは酒を飲まないのか?」

パーティが始まってから、俺がずっとジュースや炭酸を飲んでばかりだということに気づいたのか、スタークさんがそう聞いてきた。

「俺あんまりお酒飲んだことなくて…」
「それは勿体無いな。ほら、これを飲んでみるといい、初心者にはぴったりの度数の弱い酒だ」
「あ、りがとう」

私にとってはジュースなんだが、と付け加えたスタークさんが渡してくれたグラスを受け取る。とりあえず匂いを嗅いでみると、フルーツの良い香りがした。俺が匂いを嗅いでたのがおかしかったのか、スタークさんは面白そうに笑った。それがなんとなく恥ずかしくなってスタークさんから目を逸らして、とりあえず恐る恐る飲んでみる。なるほど美味しい。例えるならカシスオレンジみたいな、っていうかこれカシスオレンジじゃね?居酒屋で飲むのとは比較にならないくらいすごい美味いカシスオレンジだこれ。

「どうかな?」
「うん、美味しい。これなら飲めるよ」
「それは良かった」

他にもたくさんあるから色んな酒を試してみるといい、とスタークさんは俺をバーカウンターに案内してくれた。すげえ。いっぱいありすぎてなにがなんだかよく分からない。そしてそこにはナターシャもいて、彼女はオシャレなカクテルを飲んでいた。さすが様になっている。

「やあナターシャ。ナマエのために何か作ってやってくれないか。弱めなやつ」
「あらナマエ。メリークリスマス」
「メリークリスマス、ナターシャ。それ、何飲んでるの?」
「ヴェスパーっていうカクテルよ。お酒をまだあまり飲んだことないのなら飲まない方がいいかも」
「お、おお…」

結構強いお酒なのよ、とナターシャは付け足した。

「少し飲んでみる?」
「え、」

結構強いって言ったのに酒初心者の俺に勧めるのか。いやでもちょっと気になるけどさ…。

「いいじゃないかナマエ、何事も挑戦だ」
「………わかった」

スタークさんが良い笑顔でそう言うので、ナターシャから受け取ったカクテルをゆっくりと傾けて、一口啜る。

「………?意外と大丈………っ、」

大丈夫だと思ったのに全然大丈夫じゃなかった。レモンの風味がふわりと口の中に広がって一瞬美味いと思ったのに、飲み込んだ瞬間アルコールの味に襲われる。喉がカッと熱くなって、思わず梅干しみたいな顔をしてしまった。それを見たスタークさんに笑われた。ちくしょう。

「まだナマエには早かったな」
「そうみたいね。」
「……………。」

強い酒は絶対に飲まないと決めた。


スタークがアベンジャーズのメンバー+ナマエでクリスマスパーティーをやろうと言うので、皆の予定を合わせた結果日にち的には少し早いがクリスマスより1週間早い今日、クリスマスパーティーをすることになった。見知ったメンバーばかりだろうか、ナマエは前回の大きなパーティーの時よりも楽しそうに見えた、前回は隅っこで居心地悪そうに縮こまってちみちみ酒を飲んでたからな。今回は楽しめてそうで安心した。パーティーが始まって早々ソーに殺されかけてたが。

「よおナマエ。ナマエ?」
「…んーー……クリント……?」

パーティも中盤に差し掛かった頃、ほろ酔い気分でグラスを持ちながらナターシャやキャップたちと話していたが、ふとどでかいソファにひとりで座っているナマエが見えた。もしや楽しめてないのだろうかと気になって来てみたがそうではないらしい。ソファに座って眠そうなとろんとした目でこちらを見たナマエは、俺を見るとへにゃりと笑ってメリークリスマス、とそう言ってきた。それにメリークリスマスと返してから彼の隣に座る。どうやら眠いらしい、今にも目が閉じそうだ。酔うと眠くなる酒癖みたいだな。

「こら、グラス持ったまま寝るな。こぼすぞ」
「ん」

大きく船を漕いでいるナマエの手から酒の入ったグラスをするりと取り上げる。グラスが手になくなったことで溢す心配がなくなって安心したのか、ナマエはぐらりと俺の方にもたれかかってきた。

「おい、せっかくのパーティなのに寝るなよな」
「んん………」

恐らく俺の言っていることは分かってないだろうが、ナマエは寝ながら相づちを打っていた。器用だな。

「さて、どうするか…」

俺の肩に顔を乗っけてすやすやと気持ちよさそうに寝ているナマエを無下に扱うわけにはいかない。が、このまま動かないというのはなかなか厳しい。周りが賑やかな中どうしようかと腕を組みながら考えていたら、何やら上機嫌のソーが視界に入った。いつもの鎧姿ではなくラフな格好をしたソーはローストビーフを美味そうに頬張りながらこちらの方にやってくる。そして俺にもたれ掛かって眠っているナマエを見つけて、どこか優しげな表情をした。ほんとナマエのことが大好きだよな、こいつ。

「眠っているのか」
「ああ、酒を飲んで眠くなったらしい」

気を遣っているのだろう、ソーにしては珍しく小声なので俺も自然と小声になる。ナマエを挟んで俺と反対側に座ったソーは、ローストビーフが乗っていたであろう空の皿をそっとテーブルに置いた。ナマエは誰かが隣に座ったのが分かったのか、んん、と寝ぼけた声を上げながらゆっくりと顔を上げた。

「よお、起きたなねぼすけ」

俺の言葉にこくりと頷いたナマエ(恐らく分かってない)は眠そうな顔をソーのほうに向けた。

「……ソー………?」
「ん?どうしたナマエ」
「んーー…」
「あ」

何を思ったのか、そのままナマエの頭がぽすんとソーの膝の上に乗った。突然の行動に若干驚いている俺とソーを尻目に、彼はのろのろと靴を脱いで横になる。そして体勢を整えて、完全に寝る体勢に入った。俺とソーの間の空間はそんなに大きく空いていないので、ナマエはまるで猫みたいに丸くなっている。

「膝枕だ」

思わずそう呟いてしまった。そしてそれを目ざとく見つけたスタークが面白そうな顔をしてこっちにやって来る。最終的にソーに膝枕をされて寝ているナマエを皆で囲む変な図ができてしまった。

「意外だわ、ナマエって酔うと積極的なのね」
「積極的というか…自分の欲望に忠実になったみたいだけど、」

「寝たいっていう気持ちに」と、バナー博士が付け加えた。

「なんだか懐かしいな。昔は俺もレノスによく膝枕されていたのを思い出す」

ソーが懐かしげな表情で寝ているナマエの頭を優しく撫でる。その言葉を受けて、一瞬今のままのソーの姿で膝枕されているところを想像してしまってなんとも言えない気持ちになった。他の奴らも同じだったのか、一瞬その場が沈黙する。それに気づいたソーが可笑しそうに笑った。

「勿論子供の頃の話だ。もう随分前の話だが」
「全然想像できないわ」
「確かに」
「それにしてもナマエは酔うと眠くなるのか。面白くないな」
「一体なにを期待してたんだスターク。また変なことを…」
「なんだ、君もちょっとは酔ったナマエに期待してたんだとばっかり思ってたが?」
「な、」

寝ているナマエを背景にスティーブとスタークの口論、というか痴話喧嘩が始まった。こいつらなんだかんだで仲良いよな。スタークがナマエ関係のことでことあるごとにスティーブをからかうのが原因だが。無視すればいいのにスタークのちょっかいに一々丁寧に反応してやっているのは真面目なスティーブらしい。まあ、スティーブはナマエに対して過保護すぎる気がするのは気のせいじゃないだろう。俺も人のこと言えないが。

「ナマエ、大丈夫かな?そのままじゃ寒いんじゃないか?」

ナマエのそばで小声で口喧嘩をしている2人を尻目にバナー博士がそっと頭を撫でる。その手つきは恐る恐るというようで、でも優しい。

「ああ、それなら奥に部屋があったような気がするから、そこを使っていいんじゃないか」

どうせ使っても平気だろう、そう思ってスタークを見やると「使っていいぞ」と口喧嘩の途中にそう返された。

「俺が運ぼう。皆はパーティーを続けてくれ」

そう言ってソーはナマエをゆっくりと抱き上げた。そして数秒固まって、

「随分と軽いな、本当にちゃんと食べているのか?」
「それは言えてる」

心の底から同意した。



「………………???」

起きたらソーに腕枕されてた。なぜだ。




20160220


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