これの設定
「メリークリスマス!!!」
部屋のベルを鳴らしてナマエがドアを開けたその瞬間、それはもう高らかにそう言い放ったのだが。
「……うん」
ナマエのテンションが低すぎてどうしようもなかった。ナマエの目が死んでる。のを気にせずに俺は部屋に上がった。
俺のテンションとナマエのテンションの差がデカすぎてなんだか面白い、いつもはそんなことないのだが。俺のテンションがなぜ高いのか、それは久しぶりの休みの上にその休みが2日連続、さらに今日はクリスマスだからだ。つまり、イブの1日を大好きなナマエと、クリスマスの1日を家族とゆっくり過ごせるのだ、こんな最高なことはない。だからルンルン気分でナマエの元を訪れたのに本人のテンションが低すぎて俺のテンションもちょっと下がりかけたが。けど酒とお菓子持ってきたぞ、と言ったら「おお、サンキュ」と少し明るい声音で返事が帰ってきた。すこしテンションが上がったらしい。
ちなみに今回はちゃんと事前に遊びに行くって伝えておいたんだ、偉いだろ。
と、いうわけで俺とナマエはまっ昼間から酒盛りを開催した。そしてあっという間に夜になり、ほろ酔い気分でナマエと色々な話をしている、のだが。
「なんでそんなにテンション低いんだよナマエ〜!!クリスマスだぞクリスマス!」
ナマエのテンションが相変わらず低い。なぜだ。
「そうだな、なんでお前はそんなにテンション高いんだ?」
「だって久しぶりの休みがもらえたんだぜ!クリスマスと!クリスマスイブ!つまり今日と明日!サイコーーー!」
「おう、良かったなエグジー」
そう言いながらナマエはぼりぼりとポテチを食べる。おかしいな、なんで今日はこんなにノってきてくれないのだろうか。
「………昔からだけどさ、お前イベントとかフェスとか、とことん興味ないよなあ」
「だって人混み嫌いなんだからしょうがないだろ、プレゼントとかくれるんなら話は別だけど」
「現金なやつ…」
「で、お前は俺ん家にいていいのか?休み久しぶりなんだろ?せっかく家族とゆっくり過ごせるのに」
ちらりと俺を見てからビールを飲むナマエは、頬に少し赤みが差していてかわいかった。
「なんだよ、ナマエは俺と一緒に過ごしたくないのかよ」
「いや、そういうわけじゃないけどさ…。クリスマスって、そういう日だろ。家族と一緒にゆっくり過ごす日」
相変わらずだ。ナマエは俺の家族との時間を気にしてくれている。家族のことももちろん大事だけど、いまはナマエと一緒に過ごしたい。それに、
「…俺はナマエのこと家族の一員だと思ってるけどな」
「は?」
「だってナマエ、俺の母さんとも仲良いだろ?妹もお前によく懐いてるし、というかむしろお前の方が俺より懐かれてる気がするし」
「………」
「それに、俺とナマエは、親友で、恋人だし?」
その事実が嬉しくて思わず口角が上がってしまう。きっとにやにやしてるんだろうなと思いながらそう言ったら、ナマエが「はあ?」と素っ頓狂な声を上げた。待て待て待て、なんでそこだけテンションが上がってるんだよ!
「エグジー、俺お前が親友なのは認めるけど恋人って認めた覚えはねえぞ」
「っはあ?!」
まさかのクリスマスイブに見解の相違が発覚したんだけど?!
「なんだよそれ、じゃあなんでいつもキスさせてくれんだよ!」
「っそれは、」
元々酒のせいで赤くなっていたナマエの顔が、かああ、と一気に赤くなって口元を手で隠した。どうやら俺とのキスを思い出してしまったらしい。かわいいけどでも俺は納得いかないからな!
「別に、嫌じゃないから………でも」
でも、そこまで言ったところで急にナマエが黙ってしまった。ゆっくりと息を吐いて、じ、と俺を見る。
「お前のことは好きだよ、好きだけど…まだ分かんないんだよ、俺の中で親友と恋人の境界線が、曖昧になってる気がして」
「………」
「親友だからこういうことも許せるのか、それともエグジーの好きと同じ好きだからこういうことを許せるのか、俺のエグジーに対する気持ちはなんなのか、とか。前にも言っただろ、お前を困らせたくないんだ。キスを受け入れてる時点ですごく矛盾してるんだけどさ…」
申し訳なさそうにナマエは俺から目を逸らす。伏せた長い睫毛が、その表情に影を落とした。
「………………」
「…………と今までずーーーっと考えてきたんだけど」
「え」
今まで神妙だったナマエの顔つきが一気に緩んだものになった。え、待っていきなりの展開に付いていけない。
「俺、きっとエグジーのこと好きなんだと思うなあ、そういう意味で」
「…は?」
「ていうかもう考えるのがめんどくさくなった。ごちゃごちゃ考えるの苦手なんだよな俺。」
「な、」
「あのな、まず一緒にいるのに気を使わなくていいし、楽しいし、何よりお前といると心地いいんだ。これは昔からだけど。プラス、お前が告白してきたせいで、俺はエグジー、お前の些細な行動とか、言動にどきどきするようになった。これは意識してるってことだろ?それに、さっきも言ったけどお前とのキスは気持ちいいし、それを嫌だとは思わない、むしろ好きだ」
「っ、ナマエ」
「極め付けはこれだ。俺、お前でヌいた」
「………………っえ」
まさかのナマエの真顔での爆弾発言に俺の脳内が一瞬にして更地になった。今まで色々考えてたことが一気に吹っ飛んだ。
えっ、ちょ、待って俺でヌいた?待ってこいつ何て言った??俺をオカズにしてオナったってこと???は??
そこでまた一旦思考が停止した。え、つまりどういこと?
「以上を考えた上で、俺はやっぱりエグジーのことが好きなんだと思う。親友としても、そういう対象としても、な」
俺がとてつもなく混乱しているのを他所に、そうナマエは締めくくってにやり、と笑った。
「っな、………なんだよ、それ…」
とりあえず出た言葉はそれだけだった。
「なんだよってクリスマスプレゼントだよ、俺からの。」
「クリスマス、プレゼント」
平然とした顔でそう言いはなったナマエの言葉を反復する。
「おう。どう、気に入った?中々のサプライズだと思うんだけど」
首をこてんと傾げてそんなこと聞くな。かわいいだろ!!!ちくしょう!!!
「………サイコーです……」
「はは、それはどうも。いやー酒のおかげでちゃんと言えたー、これが素面だったら俺絶対言えねえ」
「今までけっこうドキドキしてたんだよな、お前にバレないようにするの大変だった」とナマエはそう付け足した。もしかしてテンションが低かったのはそのせいか。っていうか今までのくだり全部演技だったのか。やるなこいつ。
でも待てよ、ナマエのクリスマスサプライズが酒のせいで成功したなら、こいつ少なからず酔ってるってことだよな?全部酒のせいにして明日これをなかったことにするとか、ないよな…?と不安になってしまった。
「だ、大丈夫か…?明日になったら忘れてるとかないよな…?」
「いやそれはない。素面の時考えてたことなんだ、このことはクリスマスの日に言おうって。まあ今日はイブだけどな。酒の力を借りたおかげで言えてよかったよあはは」
へらへらと笑うナマエだが、正直俺はそれどころじゃない。今更ナマエに告白されたという実感が湧いてきた。
…やばい、嬉しすぎて泣きそう。
「ナマエ………」
「え、なんでそんな泣きそうな顔してんの?おい、エグジー?わっ」
我慢できなくなってぎゅ、とナマエに抱きついた。驚きつつもそれを受け止めて、俺の背中にゆっくりと手を回してくれたナマエが愛しい。
「なあ」
「ん?」
「……………俺でヌいたって、マジ??」
「……………残念ながら、マジ。っていうか、どうせお前も俺でヌいてたりするんだろ」
「それはもうヌくときは毎回」
「マジかよ…」
「うわそこで引くなよな」
「エグジー」
「なに?」
「好きだ」
ナマエは俺を真っ直ぐ見て、それから柔らかく笑う。その微笑みがなんだかとてもきれいで、どくん、と心臓が波打った。
「好きだ」。そのナマエからのそのたった一言を、今までどれだけ待ち望んでただろうか。
「………っナマエ」
「な、何だよえってか泣いてる?!マジで泣いてる?!」
「泣いてねえよ馬鹿!」
最高のクリスマスプレゼントをありがとう、とそう言ってナマエにキスをしたら、ナマエは嬉しそうにどういたしまして、とはにかんだ。
20160116