これの設定


今日は12月24日。そして明日はクリスマスだ。 クリスマスは親族みんなが集まる大事な日だが、俺はそれよりももっと重要なことで頭がいっぱいだった。

「なあナマエ、明日はクリスマスだろ?…ってなにしてんの」

消灯時間前の少しのフリータイムにひょっこりと俺のオフィスに現れたエグジーが軽い感じでそう話しかけきた。俺?俺は何しているかというと。

「ラブ・アクチュアリー観てる」

パソコンの画面から目を離さずにそう返した。だって今すごい良いところなんだからしょうがない。

「…………」
「……なんだよエグジー」

返事をしたのにエグジーが無言なので、気になって映画を止めてからエグジーの方を振り返ったら、なんとも言えない微妙な表情で俺を見ていた。

「………大丈夫か?俺が女の子紹介しようか?」
「は?」

どうやら俺がクリスマスにクリスマスのラブストーリーを観るほど女の子に飢えていると思ったらしい。失礼な。俺にはとっても紳士で素敵な恋人がいるんだぞ。なんとなく気が引けるのでエグジーには秘密にしたままだが。

「だってナマエ、相当彼女が欲しいんだろ?こんな映画をクリスマス前日に観るなんてさ…」
「いいだろクリスマスにクリスマスムービー観たって!」

エグジーがなんだか憐れむ目つきで俺を見てきた。なんだか悔しいのは気のせいだろうか。別に出会いに飢えてるわけじゃない、クリスマスをどうやって過ごすか悩んでいるのだ。要するに、恋人にプレゼントは何を贈ったらいいのかとか、そもそも、…ハリーは俺と一緒にクリスマスを過ごしてくれるのかとか。そんなことを街がクリスマスムードになった頃くらいからずっともやもや考え続けて結局何もできてない。ああ俺ってホント駄目な奴。

「やめてやれエグジー。ナマエは今必死なんだ」
「あ、そうなんだ…」
「げっマーリン」

そしてエグジーの後ろからひょっこり現れたマーリンにもさらりとそんなことを言われた。マーリンのその言葉を聞いたエグジーに生温かい目で見つめられる。なんなの。なんでこんなに俺いじられてんの。

「マーリンまでやめろよな!エグジーお前もう帰れ!もう消灯時間だろ!」
「はいはい、頑張れよナマエ」

にやにやしながら俺の頭をぽんぽんと軽く叩いてからエグジーは出て行った。なんなんだあいつは。一応俺は年上なんだぞ。

「…はあ」
「疲れているようだな」
「今の数分のやりとりでめちゃくちゃ疲れましたよ…」

なんでクリスマス前にこんな惨めな思いをしなくてはならないのか…。もう帰る準備しよ…。

「君も大変だな、映画を観て勉強か」
「ぶっ」

と準備を始めたところでとても聞き覚えのある声に思わずコーヒーを吹き出した。パソコンの画面がコーヒーまみれだよあーもう!

「はり、………ガラハッド」

後ろを振り向けば(まあ後ろを振り向かなくても分かってしまうのだが)今一番悩みのタネになっている人物が。とりあえず俺は素知らぬ顔をしてパソコンにかかったコーヒーを拭くことに専念しようそうしよう。

「ガラハッド。任務は終わったのか」
「ああ、ついさっき戻ってきた。報告書出しておいたぞ」
「相変わらず仕事が早いな…。確認するよ、ナマエ、ほどほどにな。」

ぽん、と俺の肩を叩いてそう言い残してマーリンはオフィスから出て行った。えええ待って俺1人にするの?!!ハリーと2人っきりになるじゃんマーリン!という俺の心の声は届くはずもなく。

「……………」

ハリーと2人っきりになってしまった。
やばい、なんだかよく分からない冷や汗出てきたぞ。

「……おかえりなさい、ガラハッド。任務お疲れさまです」
「ありがとう、君もお疲れ様」

そう返してくれたハリーは優しい笑みを浮かべてくれた。ああほんとにありがとうございます今ので疲れが吹っ飛んだ。けど、まだ問題は片付いていない。
つまり、明日のクリスマスのことを、ハリーに聞かなければならない。

「えーと、…ハリー」
「何かな?」
「………あー…ええと、どこか怪我とかしてない?平気?」
「ああ、平気だよ」
「そっか、よかった」

違う、そういうことを聞きたいんじゃないんだ。ハリーに怪我がないのは安心だけれども。どうしよう、中々言い出せない。
一瞬しん、と部屋が静かになって、少し間を置いた後、ハリーに「映画、面白いか?」と聞かれたので「それなりに……」と答えた。嘘、エグジーが来るまで真剣に観てた。面白くて。
その後また沈黙。うわーーー気まずい。いや、気まずいと思ってるのは俺だけかもしれないが。それにしてももうだめだ、沈黙に耐えられない。

「…あの…クリスマスはみんなどう過ごすのか知りたくて…俺今年は実家に帰る予定ないから、どうしようかなと、1人で七面鳥とクリスマスプディングでも食べようかなーって、あはは」
「………で?」
「え」
「君が言いたいのは、そういうことじゃないだろう」

意地悪い笑みを浮かべたハリーが、そう言った。

「…っあーもう!だって初めてのクリスマスなんだからしょうがないだろ!ハリーとクリスマスを過ごしたいなんて、思ったけど………でも、ハリーにはハリーの予定があるよな…」

いざ言おうと勢いよく言葉に出したはずなのに、段々と語気が弱くなっていってしまった。何これ俺ちょうかっこ悪い!なんなん俺!ほんと何なの!?自分が情けなさすぎて机に突っ伏した。そしてそのまま自然と「ごめん」という言葉がこぼれた。いいか落ち着けよく考えろナマエ。断られたら断られたでしょうがない、俺だって大人なんだから、そこは割り切るしかないんだ。でも、やっぱり断られたら悲しい。ああ、何で俺はいつもこう、

「…ナマエ、君は本当に、」

はあ、とため息を吐く音が聞こえる。呆れられてしまったのだろうか、余計に顔を上げられなくなってしまった。けれど、優しい声で「顔を上げて」と言われてしまったので、俺は渋々とゆっくり顔をハリーのほうに向ける。

「ガラハッド…?っン」

くい、と顎を上げられたと思ったら、屈んだハリーにちゅう、とリップ音を立ててキスをされた。

「…ナマエ、君は私の恋人だろう?」
「っそうだけど、でも、ふぁ」

でも、とそこまで言ったところでまた口を塞がれる。口が開いていたからキスされた瞬間変な声が漏れてしまった、恥ずかしい。

「私は君のそういう奥手で謙虚な所が好きだが、もう少し私と君の関係がどういうものなのか、学んでほしいな」
「っえ、ぁ、ガラハッド…?」

俺の頬に優しく手を当てて、ハリーは俺と目を合わせた。なんだか少し怒っているようで、俺に言い聞かせるような、そんな表情で。

「私といる時だけは、君はもっとわがままになっていい」
「っ………」

「分かった?」と耳元でそう囁くその声に、力が抜けそうになる。頷くと、ハリーは満足げに笑って、俺の頬に唇を落とした。

「俺、そんな遠慮してたかな…」
「してるよ、いつも君は私の顔色を伺うだろう?」
「それは、…だって貴方が嫌なことはしたくないし、」
「恋人の為なら例え嫌なことでもするさ。それに、君と一緒にすることに嫌なことなんてないよ」
「っう」

どうしよう今のハリーの言葉にすごい心臓がギュンッてなった。やばいすごくときめいた。カアア、と顔が熱くなっていく。それにハリーはふ、と微笑む。素敵です。けれどそのまま俺を机の上に乗っけて顔や首筋にキスをして、このままだと職場で致してしまいそうな雰囲気に持っていくのはいただけないぞハリー!

「っちょ、駄目だってば、監視カメラ付いてるから」

これあとでマーリンとかパーシヴァルが見たらどうすんだよ!!絶対ネタにされてイジられるからほんとやめて!

「すまない、つい我慢できなくてね」
「とか言いつつまたやろうとするのやめろガラハッド!は、恥ずかしいから!」
「ん?」

何をとぼけているんだこの人は!名前で呼べってか!一応職場では公私混同しないよう2人きりでも俺はコードネームで呼ぶことにしているのを知ってて呼べっていうのか!職場でこんなことしてる時点で公私混同もクソもないが!

「う、…ハリー」

致し方ない、今度はコードネームのガラハッドではなく、ハリーと呼んだら嬉しそうに笑った。ハリーのそういう表情を見るだけで公私混同とかどうでも良くなるくらいには俺はハリーに惚れている。あーーー本当に素敵ですむしろなんかかわいいです。

「…仕事は終わった?」
「…終わってたから映画観てたんですよ」
「そうか。では帰ろう、ナマエ」
「え」
「明日はクリスマスだからね。家でゆっくり映画でも観よう」
「っハリー………」
「どうした?」
「好きです……」
「知ってる」

幸せだ。


20160114


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