「よーナマエ!」

何時ものようにシールドの基地をのんびり歩いていた俺の後ろからピエトロが肩を叩いてきた。このやり取りにも結構慣れたな。あんまり驚かなくなったと思う、我ながら大きな進歩だ。歩きながら会話を続けるのもほぼ日常になってきた。

「あ、ピエトロ。訓練終わったの?」
「ああ、さっき終わったとこ。ナマエは?」
「俺は勉強してた。英語の」

そう言うとピエトロは「へえ〜お前も頑張るな」なんて言ってきた。そりゃ頑張らないと君たちとコミュニケーション取れませんからね。

「俺が英語勉強しなきゃピエトロやみんなと話せないだろ」
「…それもそうだな」

そのあとなんて言ったのか分からなかったけど、頭をぐしゃぐしゃ撫でられたからきっと「偉いな」的なことを言ってくれたんだな。ただ撫でられるのはいいんだけども乱暴にやられると髪型を直すのが大変だからそこはやめてほしい。

「そうだ、ピエトロが日本語勉強する?」

思いつきでそう言ってみたけど、「勉強」というワードを聞いた瞬間、ピエトロの顔がしかめっ面に変わった。分かりやすすぎる。

「いや〜やめとく、俺勉強って苦手なんだよな」
「(いかにもそんな感じするわ………)」
「…なんか失礼なこと考えてた?」
「いやいやいや」

思いっきり首を振って否定した。「ふーん………」と怪しげに俺を見るピエトロに愛想笑いで返しておいた。
話題を変えるために「これからどうするの」と聞いたら、ワンダのところに行くらしい、今日の訓練は別々でやったのだとか。いつもセットで訓練してるのにめずらしいな。

「ワンダはどこにいるの?」
「シールド内のカフェだってさ。ナマエも一緒だって言ったら喜んでたぜ」
「そっか。嬉しいな」
「?」
「あ、えーと、」

思わず日本語が出てしまった。ピエトロの頭に?マークが浮かんでいる。

「日本語の嬉しいって、happyとかgladとか、そういう意味」
「ウレシイ」

ピエトロが真顔で「ウレシイ」なんて言うので思わず笑ってしまった。

「そう、上手い上手い」
「日本語一つ覚えたぜ」

ピエトロが得意げに笑う。もしかしてこの調子でおだてていけば多少の日本語は覚えてくれるんじゃないだろうか。

「あ、そうだ。お前この後暇か?」
「え?」

突然ピエトロにそう聞かれた。俺の返答が返答だったので聞き取れなかったと思ったのか、ピエトロはもう一度若干ゆっくりめに言ってくれた。

「えと、」
「ピエトロ、ナマエ」
「あ、ワンダ」

特に用事はなかったと思うので、イエスと返事をしようとしたらワンダがこっちにやってきた。いつの間にかカフェの近くまでやってきたらしい。

「何の話してたの?」
「この後暇かって聞いてた」
「あら、私もそれナマエに聞こうと思ってたの。ナマエ、この後空いてる?」
「あ、うん」

ナチュラルにそう聞かれたので反射的に頷いてしまったら、ワンダはぱっと笑顔になった。かわいい。

「あのね、こないだ新しいケーキ屋さんができたんですって、評判もいいみたいだから一緒に食べに行かない?2人で」
「はあ?!」

2人で、というところを強調して言われたような気がする。そのあとなぜかピエトロが素っ頓狂な声を上げた。ケーキかあ、アメリカのケーキは美味しいのだろうか。映画や旅番組でよく見るケーキの色はとても毒々しいのだが、怖いもの見たさというか、とりあえず気になる。

「おいワンダ、抜け駆けすんなよ!」
「なによ」

何が気に入らなかったのか、文句を言うピエトロにワンダがじと、と睨んだ。そのまま俺を置いて2人で口喧嘩を始めてしまった。えええ待って何が原因なの。メンチ切りあってるのすごい怖いんだけど。

「逆に聞くけど、ピエトロはナマエと何をしたかったの?」
「っそれは!」
「それは?」
「………ナマエの、手料理が食いたい」
「え、俺の料理?」

ぼそっとピエトロがちらりと俺を見ながらそう言った。今まで早口だったけどここだけは聞き取れたぞ。

「……料理、ナマエ、料理作れるの?」
「え、いや、…まあ、ちょっとだけど」

ワンダのその問いにとりあえずイエスと言っておいた。普段自炊していると言えばしているので(といってもほぼ毎日インスタントか冷凍食品)作れはするのだが、俺の料理なんか他の人と一緒だろうに…。

「前から気になってたんだ、日本の料理がどんな感じなのかって。」
「ああ〜なるほど…そういうことか」

ピエトロがそう付け足してやっと納得した。日本料理か。そう言えば前にピエトロと日本料理の話をした気がする、寿司とかしゃぶしゃぶとかその他もろもろの。興味津々で目を輝かせながら聞いてたなそういえば。でもピエトロには悪いけど俺寿司は握れないぞ。

「日本料理も気になるけど、でも私ケーキ食べたいのよね…、見てこれ、美味しそうでしょ?」
「あっ…………美味そう………」

そう言ってワンダが見せてくれたケーキの写真がとても美味しそうだったのでそう日本語で呟いてしまった。だって毒々しい色じゃなくてすごくお洒落でかわいいケーキだったんだ…チョコレートケーキとかモンブランとか…ああ、すげえ唾液が分泌されてきた。

「まじかよ…こんなのが好きなのかナマエ」
「う"っ……俺甘いの好きなんだよ………」

ワンダのスマホを覗き込んだピエトロがうげっとでもいうような表情でそう言った。しかし俺はケーキとか所謂スイーツが好きなのだ。なんとなく恥ずかしくてあんまり言いたくないが。

「うーん…………」

ワンダの言う新しいケーキ屋さんのケーキはとても美味しそうなのだが、ピエトロが日本料理にせっかく興味を示してくれているので作ってあげたいところだ。だがいかんせん俺が作れる日本料理はとても限られているし、とてもじゃないが自信を持って出せるような代物でもない、それこそ練習しないと。というか、ピエトロは俺の手料理が食べたいのか日本料理が食べたいのかどっちなんだ。日本料理が食べたいなら街にいくらでも美味しい日本料理屋さんはあるから、そこにみんなで行けばいいと思うのだが。

「あの、ピエトロ、日本料理なら街に行けば食べれると思うんだけど」
「いや、俺はナマエが作った日本料理が食べたい」

聞いてみたら即答された。ここは俺の手料理が食べたいってことでいいのだろうか。それとも俺が作った日本料理?どっちにしろ嬉しいけれどうーんどうすればいいのだろう……ケーキ…手料理……。


「っあ、そうだ!!」
「ナマエ?」
「じゃあ!俺が!ケーキ作る!」

そう声高に宣言したら2人は目をまん丸して俺を無言で見た。え?あれ待って、これすごい良い考えだと思ったのに。

「…………」
「…………」
「………だ、だめ?」

2人が何も言ってくれないのでこれは駄目かなと思ったのだが、次の瞬間ワンダの表情がぱああっと明るくなった。かわいい。あれ、これデジャヴだ。

「………いいわ!楽しそうじゃない!みんなでケーキ作りましょう!どうピエトロ?」
「…しょーがねーな!今度肉じゃが作れよナマエ!」
「っぶふ!」

渋々といったようなピエトロのその一言に思わず俺は吹き出してしまった。

「なんで笑ってんだよ!」
「いや、(ピエトロが肉じゃがって言葉言ってるのが)面白くて…」
「意味わかんねえ」
「そんなにむくれないの!ほら、材料買いに行くわよ!」


とりあえず、楽しい午後になりそうだ。


後日


「…ケーキ?作ったのか?ナマエが?」
「うん、ワンダとピエトロと。食べてみてクリント」
「(………美味え…)」


20160112


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