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抵抗する俺も必死だけど、外さんも何やら必死だった。
「せっかくハロウィーンだし“お菓子くれなきゃイタズラするぞ!”とかいってエッチな事して遊んでみてぇんだ!」
「エッチな事って…中身俺だぞ!?」
正気か、外さん!
胸もなければ股間にイチモツのぶらさがった“池子”にどんなイタズラをする気なんだ…。
「そこはスルーで!」
「無理だろ」
話しながらも、お互い攻防の手は全く緩む気配がない。
「いいからつべこべ言わずに着ろよ、オシャレ眼鏡め!」
「嫌だって言ってるだろ、エロ坊主が!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、強攻策に出た外さんが、無理矢理俺のネクタイを解いてシャツのボタンを外していく。
――と、その時。
ガタッと音がして、見るとロッカールームの入口に、営業一課のマスコット、新人松崎が立ったまま固まって俺達を凝視していた。
「あ、松崎!お前も協力しろ!」
「駄目だ松崎。むしろ俺を助けろ」
「せ、せ、先輩たち…」
元からクリクリ大きい松崎の目は、これ以上ないくらい見開かれて。小さな口までパックリ開いて。
色白気味の肌は、耳の先から首まで、みるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「しっ…失礼したっス!!」
「えっ?」
一瞬ぶわっと泣きそうな顔になった後輩は、外さんに協力するでもなく、俺を助けるでもなく。
ペコッと深く頭を下げて、そのまま廊下の向こうへと全力疾走で消えていってしまったのだった。
去り際に“破廉恥っス!”という謎の悲鳴を残して。
「…何だったんだろうな、今の」
「さぁな」
呆気にとられて大人しくなった外さんの腕から抜け出し、剥き出しの額をピシャリと強く叩いてやる。
「とにかく、女装はナシ。そんなに好きなら自分で着ろ」
「痛ぇ!ホント冷てぇよなー…池さんって!」
ぶつぶつ文句を言いつつやっと諦めてくれたらしく、紙袋をロッカーにしまって鞄を手にした先輩を置いて、先にロッカールームを出た。
こんなやんちゃ坊主で手のかかる年下の先輩だけど、いざという時は頼りになるし、同じ課で働けて本当によかったと思っている事は本人に内緒だ。
言ったらいかにも調子に乗って兄貴風を吹かせてきそうだから。
「飲んだ後ウチ来て学祭の写真見るか?」
「えっ!若かりし頃の池子写真!?見る!見たい!」
気に入った様子のがあったらあげてもいいか。写真くらいなら。
そんな事を考えながら。
いつものように、二人並んで会社を後にしたのだった。
end.
○●○
オマケ。
「先輩たちの破廉恥タイムをお邪魔しちゃったっス!気まずいっス!」
「あいつら…会社で一体何を…」
えぐえぐと泣きながら仲山主任に誤った情報を伝える松崎。
外池が遂にそっちの道に走ってしまったのかと心配する仲山主任。
週明けの営業一課の空気が痛々しいくらいギクシャクしてしまった事は言うまでもありません。
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