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野獣のような激しい行為の後で。
俺は綺麗に身体を拭いてもらい、北山さんの逞しい腕に抱かれてうっとりと幸せの余韻に浸っていた。
「大丈夫か」
「な、何とか」
全身を包み込んでくれる熱も、規則正しい鼓動も。北山さんを感じさせてくれるすべてが好きで、ずっとこうして抱かれていたい。
「少し休んでから晩飯だ」
「わあ、楽しみです。部屋に入る前からいい匂いがしてたもんなあ」
「本当はお前も腹が減っているだろうし、まずは飯を食わせようと思っていたんだが……俺の理性なんてあてにならねえモンだな」
さっきまでの発情っぷりが嘘のように、すっかりいつも通りの落ち着いた大人の顔に戻って反省する恋人に甘えて身体を密着させると、一瞬その瞳に欲情した雄の色を浮かべた北山さんは「小悪魔め」と舌打ちしながらも額に優しいキスを降らせてくれた。
こんなに俺を大切に思ってくれている恋人を信じられずに一人で不安を抱えていたなんて、馬鹿だったなとしみじみ思う。
「でも俺、ずっと北山さんに……エッチなこと、して欲しくて待ってたから、すごく嬉しかったですよ。信じられないくらい気持ちよかったし」
「あのな、こっちは一発で我慢するつもりで抑えてるんだ。煽るんじゃねえよ」
「北山さんがあんなにオヤジっぽく乳首ばっかり触って意地悪してくるなんてちょっと意外だったけど」
「……」
恥ずかしい一連の行為を思い出しながら、乳首だけで射精寸前まで追い上げられたあのときのことをふと口にすると、俺の身体を抱いていた腕が変に力の入った状態で硬直した。
何かおかしなことを言ったかな?
そう思って見上げた顔は、いつもと変わらない無愛想な男前の顔だけど、切れ長の目が微かに細くなっている。
「あ!」
もしかして……なんて考えるまでもなく、今の「オヤジ」発言が北山さんを怒らせてしまったことは明らかだった。
「あ、あの、オヤジって……北山さんがオヤジっていう意味で言ったんじゃなくて」
「そうか、そうだな。坊主から見りゃ俺は十分オヤジだな」
「違いますってば!」
優しく“抱っこ”されていた身体が抱え上げられ、一回り大きい北山さんの身体に乗せられた瞬間、さっき達して萎えていたはずの巨砲が俺のモノに当たるのを感じて、顔が強張った。
「あれ……勃って、ますか?」
あんなに派手に射精して、もう満足したんじゃなかったのか。
恐る恐る尋ねる俺に、北山さんは最高にセクシーな雄の顔で笑った。
「オヤジのセックスはねちっこいんだ。覚悟しろ、坊主」
「ええっ!?」
後悔先に立たずとは、まさにこのことだろう。
たっぷり刺激的な行為を楽しんだ後で、美味しい夕御飯を食べて心穏やかに幸せな時間を過ごすはずだったのに、まさかこの後、種が尽きるんじゃないかと思うほど抱かれて北山さんのタフさを知ることになるなんて。
まあ、それも幸せといえばそうなんだけど。
舐められたり摘まれたりして散々開発された乳首は、当然のことながら次の日になっても赤く腫れたままで。
ちょっと動くだけでシャツに擦れる感覚に悶絶しながら一日を過ごすハメになった俺は、しばらくの間、北山さんに乳首のお触り禁止令を出そうと心に決めたのだった。
○●○
「豚生姜焼き定食ひとつ、お願いします!」
「はーい。北山君、ユギちゃんの生姜一つ追加ね」
「了解」
社員食堂で過ごすランチタイムは、癒しのひと時。
厨房で鍋を振るう恋人の真剣な横顔は、今日も最高に格好いい。
「柚木さん、今からお昼っすか」
「うん、長野君も休憩なんだね。今日は日替わり定食?」
「へへ、俺も柚木さんと同じのにしようと思って。一緒に食いましょう」
尻尾があれば全力で振っているのが見えるんじゃないかというくらい嬉しそうな笑顔で隣に並んできた長野君と他愛もない話をしていると、トレーの上にドカ盛りの生姜焼き定食がドドンと二人分乗せられた。
もちろん、そこに立つのは無愛想な顔に更に不機嫌さを滲ませて迫力が二割り増しになっている北山さんだ。
「飯くらい一人で食えるだろうが。さっさと食ってお前は厨房に戻れ、ガキ」
「一人で食うより誰かと一緒に食った方が美味いんすよ。それより次のオーダーが入ってるんじゃないですか、先輩?」
「半人前のくせに随分エラそうな口をきくようになったじゃねえか」
もうこの二人のやり取りは恒例なので、気にしない。
多分長野君は料理人として北山さんに憧れていて、北山さんに認められたい、北山さんを超えたいという気持ちから俺に懐いてくれているという部分もあるんだろう。
蕎麦もかなり手早く茹でられるようになってきて、もう少しで見習いは卒業らしいから、北山さんのお許しがもらえたらたまには長野君の茹でるお蕎麦を食べさせてもらおうかなと思っている。
ヤキモチ焼きの恋人も、きっと駄目だとは言わないだろう。
だって、最近はずっと俺の朝食も夕食も、そして昼食だって北山さんが作ってくれているんだから。
「すごい、生姜焼き……美味しそう!」
食欲を刺激する香りを放つ、つややかにタレの絡んだ肉を見てうっとり呟くと、北山さんは長野君に向けていた険しい顔にすぐに優しい笑みを浮かべてくれた。
「残さず食えよ、坊主」
「はい!」
ランチタイムを過ぎても、
貴方がかけてくれた美味しい魔法は解けない。
心も身体も。
たっぷりの栄養で、俺を元気にしてくれる人。
ありがとうと大好きの気持ちを込めて、
今日も笑顔で伝えよう。
――「ご馳走さまでした!」
end.
(2011.12.10)
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