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 濡れた髪を後ろに流し、形の綺麗な額に僅かに垂れた前髪からポタポタと水を滴らせる様はまさに“水も滴るいい男”そのもので、こっそり窺うつもりがいつの間にか背後に立つ男を鏡越しにガン見している自分に気付いて、陣内は内心舌打ちをした。

 乱れた下半身事情を考慮しても、海老原が男前である事は間違いない。

 身長は陣内より少し高いくらいでそれ程変わらない……と、少なくとも陣内はそう思っているのだが、それなりに横幅もあっていかにもガッチリと鍛え上げられた肉体労働系の陣内の身体とは違い、海老原の身体は見ていてうっとりするような、無駄なく絞られた身体だった。

 胸回りや腕にはしっかりと筋肉がついてボリューム感があり、それでいて腹は綺麗に引き締まって割れている。
 男なら憧れずにはいられない、完璧な肉体だ。
 雄として生まれたからには一番重要なその部分まで完璧だから、腹が立つ。

「おい、くすぐってえんだよ。もっと力入れて洗えっての」

 最初のうちは海老原の好きにさせていた陣内だが、ふわふわの泡が背中全体を覆ってもまだ微妙な力加減で撫でるように触れてくる手に焦れて、不満を口にした。

 まるで大切な壊れ物を扱うような手つきで優しく触れられて、何だか変な気分になってきてしまう。

「うちの家政夫は雑なテクが不満らしいからな。俺なりに精一杯丁寧に洗っているつもりだが」
「いらねえよ! 普通に洗え」

 鏡に映る海老原は、非難の視線に一瞬唇の端を上げると、声を無視して泡をまとった手をそっと脇腹へと滑らせてきた。

「ん……うッ」
「お前……意外に可愛い声が出せるんだな」
「うるせえよ、エロい触り方するんじゃねえ!」

 エロい触り方、としか言いようがない。

 海老原の手は、弾力のある泡でくすぐるように優しく陣内の敏感なポイントを探ってくる。

 茂みの中で大人しく萎えていたペニスが徐々に頭を擡げ始める気配を感じて、陣内は慌てて何か股間を隠すモノはないかと探したが、手近に役立ちそうな物は見当たらなかった。

「配送の仕事を辞めてから少し痩せたんじゃないのか。ロクな飯を食っていなかっただろう」
「余計なお世話って言葉を知らねえのか、テメェは」
「盛り場にもしばらく顔を出していないだけあって、随分溜まっていそうだな」
「おうふっ!」

 飛び出てきたのが色っぽさのカケラも感じられない変な声だったのは、むしろ幸運だった。
 ――が、このシチュエーションは運がいい状況だとは言いにくい。

「やめろ! どこ触ってんだ!」
「ついでだ。前も洗ってやる」
「いらねえっての! ソコは自分で洗える!」
「遠慮するな」
「してねえ!」

 モコモコの泡に包まれた海老原の手は、徐々に硬度を増しつつあった陣内の雄茎を捕らえ、先端から根本、玉裏まで丁寧に泡を延ばしていった。



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