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○●○
「何で飛島さんが俺のベッドで普通に寝てるんですか」
「今夜泊まるから」
「だったらソファーで寝て下さいよ! 暑苦しい!」
「押すなって」
後戯のつもりなのか何なのか、気が済むまで俺の身体を弄り倒して鎖骨の上だけでなく首筋と背中にまでキスマークを残しやがった飛島さんは、シーツ交換とシャワーの後、ちゃっかりもう一度ベッドに潜り込んで俺を抱き枕にしてきた。
お揃いのスウェットを着込んで、ピッタリ寄り添って眠る男二人の関係は、飛島さんの中でどういう位置付けになっているんだろう。
油断すると落ちそうなくらい狭いシングルベッドの上で、背中を指先で辿って擽ったりケツを揉んだりといった悪戯を仕掛けてくる先輩は、とても楽しそうだ。
「俺、ずっと考えてたんだけど」
「何をですか」
どうせまたチンコが勃つとか勃たないとかそんな話だろうと思って半分寝ぼけて訊き返すと、意外な言葉が返ってきた。
「異業種交流会、解散しようと思って」
「――へ?」
「今回の二人が片付いたら取り敢えず彼女募集中の独り者はいなくなるし。多分俺も次の異動で役職付きになるから合コンとか言ってられねぇだろ」
「や、でも、解散って」
出会いの少ない職場で、飛島さんが自分の趣味も兼ねて新人の頃から同僚達のために主催してきたという異業種交流会。
それがきっかけで結婚したという先輩だっているのに、そんな伝統のイベントを解散するなんて。
しかも、俺に向かって解散宣言されても……と言いかけて、気が付いた。
「いるじゃないっすか、独り者! 俺と飛島さんはどうなるんですか」
長年の交流活動が実って、いつの間にか『彼女募集中の独り者』は飛島さんと俺の二人しかいなくなっていたらしい。
部活で言うと、事実上の廃部みたいな感じだろうか。
「お前には絶対に誰も紹介しねぇ。つか、紹介したくねぇ」
「うわ、ケチ臭え!」
それなりに可愛がってもらっているつもりだったのに、あまりにも薄情な一言。
反抗の意を表して腕から逃れようとした俺を無理矢理抱き抱えて、合コン帝王は断言した。
「新堂には、俺がいるからいいんだ」
「……はい?」
「俺が独り身のうちはお前も女なんて作るなよ。先輩命令だからな」
何て自分勝手な!
一方的に言いたい事だけ言い切って、反論は許さないと言わんばかりにワシャワシャと頭を撫でてくる強引な先輩。
本人は自覚すらしていなくて、言葉にならなくても。
力いっぱい俺を抱き締める腕が、絶対誰にも渡さないと言っていた。
「とか言って、自分だけどっかの合コンに出たりとか」
「俺は、新堂だけいればいい」
「……すげー殺し文句っすね」
――無意識の一言に、また落とされる。
凄く厄介で、タチが悪い。
それでも、この腕から本気で逃げ出したいとは思わないから、俺の負けだ。
“降参”の意味を込めて逞しい胸板に顔を埋めると、温かい手が、一瞬躊躇った後で耳の先を優しく撫でた。
「トビシマさん」
「うん?」
恋することに疲れたら。
「何か、当たってるんですけど」
「だってムラムラするだろ、この状況は」
「……元気過ぎでしょ、先輩」
俺が何度でも飛島さんの『恋心』を復活させてやるって、そう思い始めている。
「くっそー。エロいな、新堂のケツ!」
「揉むの止めて下さいってば」
「ちょっとだけ、挿れてみてもいい? チンコの先っぽだけ、ほんのちょっぴり」
「絶対に駄目です!」
本当の恋を知らない先輩が、今の感情に名前を付けてくれる日を待ちながら。
ただの先輩後輩ではなくて、恋人とも違うこんな関係が、実は嫌いじゃないから。
「……挿れてえなー」
「駄目ですって!」
もうしばらくは、
このままで――。
end.
(2009.12.5)
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