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「大体、新堂はずるい」
「はい?」
合コンの酒が残っていたのか、発泡酒1缶でいつもの厄介な酔っ払いになってしまった先輩のグダグダな説教は続く。
「俺だけ勃たなくなるのは不公平だ」
「……突然何を言い出すかと思えば」
話に脈絡がないのはいつもの事だからいいとして、そんな事で不公平感を感じられてもどうしていいのか分からなかった。
まさか、俺にインポの道連れになれとでも?
「最初に勃たなくなったのだって、お前のせいなのに」
「それも俺のせいなんですか」
何だか世の中の悪い事すべてが俺のせいにされてしまいそうな勢いで責められて、自分がインポじゃない事が本気で申し訳ないような気持ちになってくる。
どう考えても無理矢理抜き合いをさせられた被害者は俺で、俺が飛島さんに責められているこの状況はおかしいはずなんだけど。
「お前が、結婚式に出るとか言って帰省なんてするから」
「はあ」
俺が帰省したから飛島さんがインポに?
あんな気まずい事になる前の話を持ち出されて曖昧に相槌をうつと、飛島さんは何故か偉そうに踏ん反り返ってインポの理由を口にした。
「ヤッてる最中に『今日は隣に新堂いねぇんだ』って思ったら急に萎えて、それから勃たなくなった」
「!」
この男は。
飄々とした顔で、とんでもない事を言ってくれる。
お楽しみ最中に一体何を考えているんだ! しかも、俺が隣にいないから萎えた!?
「――アンタって人は……」
やっぱり、この最低男は今すぐチンコを掻っ捌いて全世界の女性に謝った方がいい。
少なくとも、その夜のお相手にはちゃんと謝るべきだろうと思った。
「じゃあ何すか、俺に聞かせようと思って頑張らないと勃起しないって事ですか」
「っていうか、壁の向こうで音聞きながら新堂も抜いてるかもって思うと勃つ」
「女の子に失礼ですよそれは!」
勝手に抜いてる姿を想像される俺に対しても失礼だし。
確かに最初の何回かはちょっと興奮して虚しい一人遊びに励んだ事もあったけど。あまりの激しさと遠慮のなさにうんざりして、ここ最近は困った隣人の騒音くらいにしか思っていない。
それをわざわざ聞かせようと頑張っていただなんて……。
「なあ、新堂」
「何すか」
「もしかして、怒ってんのか」
「呆れてるだけです」
本当に。呆れ過ぎて、怒る気にはなれなかった。
合コンの最中もヤッてる最中も俺の事を考えていて。しかも、チンコが勃たなくなったのも俺のせい。
そこまで言っておきながら、鈍感な先輩が全く気付きそうにないその感情は、もしかして。
「新堂」
もう一度呼ばれて、テーブルの向こうからいつの間にかジリジリと隣に移動していた飛島さんの顔を無言で見つめ返す。
何だ、この怪しい雰囲気は。
大して酔ってもいないのに顔が熱くなって、鼓動が勝手にボリュームを上げていく。
――が、やっぱり飛島さんは、こんな場面でも見事な空気の読めなさを披露してくれたのだった。
「怒ってないなら、また抜き合いしてもいい?」
「はっ?」
「ムラムラしてきた。ヤリたい、今すぐ」
「急に盛らないで下さいよ!」
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