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 当然のように人の家の冷蔵庫から二人分の発泡酒を取り出し、座卓の前に腰を降ろしてまったりくつろぎ始めた図々しい先輩に、何と言っていいのか分からない。

 ダメだった……という事は、既にお持ち帰りを果たして行為に挑んだものの、肝心なトコロでジュニアが勃起しなかったという事だろうか。この前はあんなに元気に勃っていたのに。

「いつまで突っ立ってるんだ。着替えてこいよ」
「あ、はい」
「先に飲んでるからな」
「……どーぞ」

 すっかり俺の家に馴染んだ態度のデカい隣人に急かされて、脱いだスーツを適当に引っ掛け、寝巻きがわりのスウェットに着替える。
 実は、このスウェットは飛島さんと色違いの同じ物だという事に買った後で気が付いたといういわくつきのスウェットだった。

 元々、飛島さんから紹介してもらった店で買い物をする事は多いから、偶然同じ物を買ってしまっても仕方ないとはいえ。寝巻きがお揃いというのは何とも気まずい……と思ったのは俺だけで。『俺に憧れた新堂がお揃いのスウェットを買って来た!』と勘違いして大喜びする飛島さんを見て何だかどうでも良くなってしまい、結局二人でお揃いのスウェットを部屋着にしているというワケだ。
 飛島さんはよく冗談でホモカップルネタを出してくるけど、この姿を同じアパートの住人に目撃されたらホモカップル認定されてもおかしくはないと俺は本気で思っていた。


「えーと、チーム飛島の今夜の戦績をお聞きしてもいいっすか」

 小さなテーブルを挟んで向かいに座り、拗ね拗ねモードで缶をペコポコさせながら遊ぶ先輩に声をかけ、俺も飲みの体勢に入る。
 すきっ腹に酒はキツいなと思いつつ、夕飯を用意する気力は残っていなかった。

「二次会までは盛り上がって、倉本さんと吉井はお目当てのコと今度ドライブに行く約束までこぎつけてた。その後は知らねぇ」
「おー、大成功。で、飛島さんはどうだったんですか」
「……」
「飛島さん?」

 狙った獲物は必ず落とすという噂の合コン帝王が、一瞬俯いた後でチラッと俺を見て、また目を逸らす。

「……この前は大丈夫だと思ったのに、やっぱり駄目だった」

 デカい図体でしょんぼりうなだれる姿は、まさに負け犬。

「つまり、よみがえったはずの恋心が不発だったと」

 『またインポになったんですね』とは言わないのが、後輩の思いやりだ。インポ発言でキレられるのは先週で懲りている。

 精一杯気を遣ったつもりだったのに、負け犬の飛島さんは言葉に反応するように顔を上げて鋭いツリ目を俺に向けてきた。

「お前のせいだぞ」
「へっ?」

 何故か突然の、責任転嫁。

「お前の事ばっか考えてたから、今日の合コンにどんな女の子が来てたかも覚えてない」
「えっ、じゃあお持ち帰りは……」
「するワケねぇだろ。二次会終わってすぐ帰って来たのに新堂ん家は留守だし。繁忙期でもねぇのに新人が週末に何時まで残業してんだよ。『明日出来る仕事を今日するな』っつー言葉を知らねぇのか、お前は!」
「す、すみません」
「ちゃんと大島さんに言って残ってたんだろうな」

 いつの間にか俺は、インポで落ち込んでいたはずの負け犬の先輩に説教されてしまっていた。



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