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○●○


 集中、出来ない。


「新堂、もうデータ集信終わってるんじゃないのか。画面変わってるぞ」
「うわ、すいません」

 隣の席からモニターを覗き込んできた大島主任に指摘されて、自分がしばらくフリーズしていた事に気付く。
 慌ててプリンターから出てきた処理票をまとめて、いつも通りの自分をアピールしてみたが、大島さんの目はごまかせなかった。

「珍しく疲れてるな。ちゃんと3食食ってんのか?」

 セルフレームの眼鏡の奥でキラリと光る、厳しい上司の目。

「はあ……ぶっ倒れたりしない程度には食ってます」
「トビが心配してるぞ。経理の前を通る度に『新人君はどんなですか』って訊かれるし。お前らお隣さん同士なんだから俺に訊くなよってな」
「ははは、はは」

 その“トビ”が原因でこんな状態になっているなんて、絶対に言えない。

 製品管理部に異動して来る前に経理課で働いていたという大島主任は、経理以外でも飛島さんと課がかぶっていた事があるらしく、飛島さんの“心の先輩”だそうだ。仕事のノウハウや社会人の心構えは全てこの先輩から教えてもらったと、前に飲みの席で聞いたことがあった。

 その“心の先輩”は、どうして“心の後輩”に、酔っ払っても決して人前でイチモツを出してはいけないと教えてくれなかったんだろう。酔った勢いで人様にイチモツを触らせたりしてはいけないという事も。社会人の心構えの一つとして、よくよく教え込んでほしかった。



 一週間前のあの脱インポ記念射精の後。
 飛島さんはというと、驚くほど自然体でいつもと全く変わっていなかった。
 普通にソファーで寝て、翌朝には「久々に朝勃ちした!」などとどうでもいい報告をしながら卵とじ丼をもりもりとたいらげ、しばらくテレビを見たり新聞を読んだりしてダラダラ過ごした後で、また俺の家にシャツやらパンツやらを置きっぱなしにしたまま隣部屋へと帰って行った。

 あまりに自然体過ぎて、あの抜き合いは夢だったんじゃないかと思えてくる。



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