14


 真剣な表情で鍋を覗き、中に異常がないかどうか調べる俺の後ろで、破廉恥行為の限りを尽くした先輩が長いため息をついた。

「神経質なヤツだなー。入ってねぇっつってんだろうが」
「コレを気にしないでいられますか!」
「毒じゃねーんだから。ちょっとエッチな女の子なんて嫌な顔一つしないで飲んでくれんのに」
「……俺は“ちょっとエッチな女の子”じゃないんで」
「でもエッチだったよな、新堂。エロい声出しちゃって」
「殴りますよ」

 イッたばかりのモノをティッシュで拭きながら能天気に笑うこの先輩を、お玉で思いっきり叩いてやりたい。
 というか、もういっそこのまま外に放り出してしまいたい。

「大体お前ムードなさ過ぎだよ。ココは俺に寄り掛かって“すっごく良かった……”とか甘えるトコだろ。空気読めよ」
「どの口がそんな事を言うんですか」

 飛島さんに空気を読めと言われる日がくるとは思わなかった。
 しかも、男二人でムードを醸し出したいだとか俺に寄り掛かられて甘えられたいだなんて。一体何を考えているんだ、この先輩は。

 何とか鍋の無事を確認して、俺が自分の後処理に入ろうとした時には、酔っ払いのダメ犬だった飛島さんはいつも通りの飄々とした顔に戻って立ち上がっていた。

「シャワー借りていい?」
「どーぞ。つか、こないだ置いてったボクサー洗濯してあるから持ち帰って下さいよ」
「おー、こんな事もあろうかと思って置きパンしといて良かったな!」

 本当に『こんな事もあろうかと』思っていたのか。

 言いたい事は色々あったが、疲れ果てた俺にはツッコミを入れる力さえ残っていない。

 軽い足取りで浴室に向かう先輩の背中を見つめながら、酔いが覚めたなら自分の家に帰ってシャワーを浴びてくれと言いそびれた事に気付いた時には、もうシャワーの音に混じってご機嫌の鼻歌が聞こえてきていた。

「タチ悪い酔っ払い方……」

 男の後輩相手にあんなオスの色気全開で迫ってくる飛島さんもだけど、それにまんまと流されて抜き合いに及んだ挙げ句射精までしてしまう俺も。
 どうしようもない酔っ払いだ。

 あの時の飛島さんの顔や声を思い出すと、モヤモヤと怪しい衝動が沸き上がってきて。

 気まずさのカケラも感じていない様子の先輩がサッパリした笑顔で浴室から出てくるまでの間。
 俺は一人悶々としながら、すき焼き鍋の中をこれでもかというほど念入りに再チェックし続けたのであった。




(*)prev next(#)
back(0)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -