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最近明らかにオーバーワーク気味だった安藤に負担をかけないようにと抱くのをやめた俺は、それでも、もしかしたら安藤の方から俺の寝室に入って来て誘いをかける事があるかもしれないとひそかに期待していた。
俺ばかりがヤリたくて無理矢理安藤を抱いているワケではないという事は、分かっている。
分かっていてもたまには安藤の本心を聞きたいと思い…、結局は、全く無駄な二週間を過ごしてしまった。
本当に、この強情さには感心するしかない。
「意地っ張りめ」
「…ん…っ」
スラッと形のいい鼻の頭を唇で軽く噛むと、小さく声が漏れて、もぞっと身体が動いた。
分かりやす過ぎるその顔にはハッキリ書いてある。
お前、俺の事が好きだろう?
「み…さわ、…」
胸に頬を寄せた安藤の口から零れた寝言に、思わず笑みが浮かんだ。
――と同時に、腕の中の身体がビクッと大きく跳ね上がり、安らかだった可愛い寝顔に、いつもの忙しい表情が戻ってきた。
「な、な、何…」
「やっと目が覚めたか」
「イヤ、つーか、何でお前…ここに…」
“何でここに”と訊きながらも、寝る前の一連の出来事を思い出したのか、面白いくらい急速に顔が赤く染まっていく。
本当に、いつまで見ていても飽きる事がない。
「熱は下がったみたいだな」
「ひっ、ヒトにチンポ押し付けながら真面目な顔すんなよ!」
「今更照れるな、安藤。あんなにコレを欲しがってたくせに」
「黙れエロオヤジ!」
安藤は、寝起きも怒ったり照れたりと忙しい。
ジタバタもがいて腕から逃れようとする恋人を捕まえて、耳元に低く囁きかけた。
「朝のアレだけで満足していないんじゃないか?寝言で何度も俺の名前を呼んで喘いでいたぞ」
「…!嘘つけ、馬鹿野郎…っ」
もちろん嘘に決まっている。
それなのに、言葉に反応して下半身の辺りで安藤のモノはむずむずと大きくなりかけていた。
久々のセックスで、飢えているのはお互い様だ。
「食事と、どっちを先にする?」
安藤が何と答えてもこの状況を利用して行為に持ち込むつもりだったが、一応意思を尊重するかのように訊いてみる。
“食事に決まってるだろ!”
絶対そう言われると思っていたのに。
真っ赤な顔のままで一瞬目を泳がせた安藤は、Tシャツ一枚にフルチンという何とも魅力的な姿で俺の上に身体を重ねてきた。
「…こんなんでメシ食えるワケねぇだろ」
「!」
それは、不器用な安藤の、精一杯の誘惑。
込み上げてきた堪らない気持ちに俺は、夢中になって唇を重ねて奪い…
そのまま、怒涛の行為になだれ込んだ。
――“優良物件紹介します”
そう言ってあの時俺の前に立った、生意気そうな営業マン。
紹介してもらった最高の優良物件は、意地っ張りで、素直じゃなくて。そのくせ顔には考えている事がモロに出てしまう、不器用なその男だった……と。
いつか、安藤が素直に自分の気持ちを打ち明けてくれたら。
その時は俺も、そう教えてやってもいいと思う。
end.
(2008.11.20)
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