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この春高校を卒業したばかりの御曹司・三澤に一人暮らし用のハイグレードマンションを紹介するよう社長直々に命じられてから、はやひと月。
本社営業係長の誇りをかけ、あらゆる手を尽くして最高の物件を紹介してきたが、このお坊ちゃまの理想はとにかく高くてどんな物件を紹介してもその首が縦に振られる事はなかった。

今回の部屋は最上階でないという事を除けば今までに出て来た三澤の要望を完全に満たすものだっただけに、あっさり却下されてしまったダメージが大きく、ガックリとうなだれずにはいられない。

「そう落ち込むな安藤。お前はなかなかいい仕事をしてくれている」
「……」

優雅な仕種で足を組み直して偉そうに慰めの言葉をかけてきたクソガキを高層マンションのベランダから投げ捨ててしまいたい殺意を抱きつつ、俺は精一杯微妙な笑顔を浮かべる事しかできなかった。

「…困りましたね。他に三澤様の条件を満たしそうな物件となりますと、今竣工中のものを探してもなかなか難しいかと…」

物件が見つかるまでの間、御曹司はホテル暮らしをしながら大学に通っているらしい。一生ホテル暮らしを続ければいいのにと心底思うが、顔にも口にもそれを出す事は許されない。
暗に“もうネタ切れだからココで妥協しろ”といった空気を臭わせると、それまで無表情で何を考えているのか全く読み取れなかった三澤がニヤリと笑って思わぬ事を口にした。

「そうだな…この部屋は今まで見てきた中で一番理想に近いし、そろそろ契約を決めないといつまでも安藤に迷惑をかけるのも忍びない」
「み、三澤様…!」

迷惑どころの話じゃねぇぞコノヤロー。
お前の我が儘に振り回されてここ一ヶ月で俺の体重は激減だ。
あと一ヶ月この生活が続いたら毛根が死滅するかもしれないとすら思ったんだ。
しかしこの際それはどうでもいい。

「では、ご契約をして頂けるのですね!」
「条件次第で考えてやってもいい」
「当社に出来る範囲の事でしたら何なりと」

思わず営業用ではない笑顔が零れ出たところで、次に飛び出してきた三澤の言葉に、その顔は引き攣ったまま凍り付いてしまった。

「今ここでオナニーをして俺の目の前で射精してみせろ」
「それはもう、全力でオナ……えっ……?」

――…空耳…?

決してこのシチュエーションで聞こえるはずのない単語が聞こえた気がした。

「今、何と…?」

真意を測りかねて御曹司の顔を窺うが、返ってきた言葉はやはり空耳としか思えない信じがたい内容のものだった。

「聞こえなかったのか。今ここで抜いて俺の目を楽しませろと言ったんだ」





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