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「…っ、は……」

射精後の敏感な牡の器官から垂れる白濁液をそっとタオルで拭いながら、身体の奥に放たれた同じ液体を掻き出すために、ひくついた穴に指が差し込まれる。

『課長、大丈夫ですか。…熱、そんなにひどいんですか?』

何か答えなくてはと思っても、今口を開いたらどんな声を出してしまうか分からなくて、何も言えない。
淡々と作業を続けながら、三澤は挑発的な目で携帯を睨みつけて、フンと小さく鼻を鳴らした。

この野郎。電話の相手が小杉だと知って、わざとこんな真似を…。

あまり沈黙が続いて、鋭い部下にアヤシイと気付かれるのは御免だ。
俺は必死になって足でグイッと三澤を押しやり、何とか不埒な手から逃れて携帯を耳に当て直した。

「悪い、何か電波悪くて…。先週のヤツは部長のパソコンのデスクトップに保存してある。ファイル名もそのままだから見れば分かるはずだ」
『分かりました。確認してみます』

電話の向こう側の小杉の声はいつもと変わらない。
気付かれなくてよかった…。
と、思ったのだが。小杉はやっぱり小杉だった。

『久々にお楽しみのところを下らない電話でお邪魔して申し訳ありません』
「は!?…イヤイヤ、別に楽しんでるワケじゃ…」
『可愛い声をご馳走様です。お大事にどうぞ』

フフ、と意味ありげな笑い声を残して、反論も許されぬまま、無情にも電話は切れてしまった。
可愛い声って何だよ…。

小杉にあらぬ妄想を抱かれてしまった気がして、ふてぶてしく足元に座る御曹司を蹴飛ばす。

「オイ!何考えてんだお前は…!会社からの電話だぞ!?」
「どうせたいした用件じゃない。お前の体調が気になって電話してきただけだ」
「……」

何でそんなに自信たっぷりに断言できるのかはナゾだが、確かにファイルの保存場所なんてわざわざ電話で確認するほどの事でもないかもしれなかった。

不機嫌そうな三澤の顔。
これはもしかして、ヤキモチというヤツか…?
気付いた瞬間、緩んでしまいそうな頬を引き締める事ができなかった。

「小杉とは…何もねーからな」
「当たり前だ」

黙々と続けた後始末を終えて、もう一度ベッドに潜り込んできた三澤の身体が、後ろからすっぽり俺を包み込む。
苦しいくらい強く抱きしめる腕が、嬉しい。
気持ちよくて、そのまま眠ってしまいそうだった。

「安藤、飯は?」

そういえば、昨日帰宅してから何も食べていない。
でも、今は…。

「後からでいい。少し、このまま寝る」

だから、俺が目を覚ますまで側に居ろ。

恥ずかしくて言い出せないひと言を、三澤も分かってくれたらしい。
後ろからそっと耳たぶを啄み、身体をピッタリ寄せてきた。

「…それにしても…よく二週間も我慢できたな」

性欲のカタマリのような、ヤリたい盛りのエロオヤジ御曹司が。
俺の身体を気遣かって禁欲生活をしていたなんて、少し感動してしまう。

「毎晩お前の写真で抜いていた」
「毎晩かよ!すげぇな!っていうか、写真って…まさかハメ撮りエロ画像とかじゃねぇだろうな」
「ハメ撮りか。考えてもいなかったが…悪くないな」
「悪いに決まってんだろ、変態!」

そういう俺も、一人で処理する時に思い出していたのは、実はイク時の三澤の顔だったという事は絶対に秘密だ。



口で素直になれない分、もし顔に本心が表れているんだとしたら。

もう二度と、不器用な俺の精一杯の誘惑サインを見逃すな。
お前が考えているほど、俺はお前に抱かれるのは嫌じゃない。


目が覚めたら、生意気な御曹司に、それだけは言ってやろうと思った。



end.


(2008.11.14)




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