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会社には電話で連絡を入れておいた。

本当は午後からでも遅れて出社するつもりだったのに、今年に入ってからほとんど年休を消化していなかったために部長から強制的に今日明日の年休取得を命じられてしまった。

せっかくの年休をどこにも行かずベッドの上で寝て過ごさなければならないのか…。
少し勿体ない気もするが、仕方ない。

「つか、お前…大学は?」

ちらっと時計を見ながら、そろそろ家を出なければ講義に間に合わないのではないかと思って訊くと、三澤は乱暴に俺の額に冷やしたタオルを乗せ、不機嫌そうに眉を寄せた。

「今日は休む」
「馬鹿、行けよ…。別にお前がいたからって風邪が治るワケじゃねぇだろ」
「自分の体調管理も出来ない社会人が偉そうな事を言うな」

それを言われるとなかなかツラい。
というか、俺が風邪で寝込んで、何で三澤が怒っているのかが謎だった。

看病が面倒なら無理してする必要もない。
俺だってガキじゃないんだから、適当に何とかやっていける。
…とはとても言えないほど怒っている空気がひしひしと伝わってきて、まるで風邪を引いた俺が悪いみたいだ。

「だから働きすぎだと言ったんだ。あれで今まで身体が保っていた事の方が不思議だぞ」
「…ん…」

厳しく諭すような口調とは裏腹に、汗ばんだ額に張り付いた前髪を後ろに梳いてくれる手は優しくて、気持ちよかった。

何でコイツは、こんな風に俺を甘やかすんだろう。
こうやって中途半端に優しくされるから、俺はいつまでも苦しいままなんだ。

「――半分は、お前の…せい、だからな」

掠れた声で小さく呟くと、頭を撫でていた三澤の手がピクリ、と動きを止めた。

何のことだと覗き込んでくる生意気な御曹司の顔を、熱のせいで潤んだ目で睨みつけて、途切れとぎれに言葉を続ける。

「お前のせいで俺は…、欲求不満顔だなんて言われて、小杉に…ケツを揉まれて…そんで、風邪を引いたんだ」

もう、ほとんど譫言だった。
自分でも何を言っているのか分からない。

多分三澤にも、意味が通じるほど正確には聞き取れなかったはずなのに。

「ケツを揉まれた…?」
「…そこかよ」

よりによって1番聞き取って欲しくない部分だけを、その耳は捉えたらしかった。

「どういう事だ安藤。会社で何があった」





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