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一瞬触れたか触れないかの熱が、全身に回って鼓動を加速させる。
「イキナリ何しやがる!」
目を開けた時にはもう、嫌味なほどに整った生意気な年下の同居人の顔は離れていた。
「疲労が溜まると早く老けるぞ。せっかく早く帰って来れたなら風呂にでも浸かってゆっくり休め」
「ヒトをジジイ扱いするな!…大体、お前は俺の女房かよ」
今の中途半端なキスは何だ。するんならもっとキッチリしやがれ。
…なんて思っていても言えるはずはなく。
俺の言葉を軽く流した三澤は、喉の奥で低く笑って顔を近付け、耳に息を吹きかけるように囁いてきた。
「――女房はお前だろう、安藤」
「…!アホか!」
吹き込まれた熱い吐息に身体がビクッと震えて、思わず後ろに飛び退る。
のけ反った瞬間、ドアに思いきり頭をぶつけて涙目になった。
「…痛っ…」
痛い以前に、カッコ悪過ぎる自分に泣けてくる。
「お前は本当に見ていて飽きないな」
「うるせぇよ!耳に息かけんなって何回も言ったろうが!」
「感じやすくて何よりだ」
「黙れ!」
実際、欲求不満気味な俺の身体はいつも以上に過剰な反応を示して、刺激に敏感になっているのかもしれない。
そんな俺の様子を心底楽しそうに眺めていた性悪御曹司は、満足げな笑みを浮かべながら先にリビングへと戻っていってしまった。
「クソガキ…」
こんなお子様キスで赤くなって、しかもからかわれていると分かっていても、三澤の一言に胸が熱くなるなんて。重症だ。
もっとがっつりキスしてもよかったのに、と思っている自分がいる。
「――馬鹿か、俺は…」
呟いて靴を脱ぎ、最近癖になりつつある深いため息をひとつ、盛大に吐いた。
○●○
「お前は本当に大馬鹿だな、安藤」
午前8時。
体温計を片手に三澤が心底呆れた表情で、ベッドに伏したままの俺を見下ろして言った。
「…るせぇよ。伝染るかもしれねーから…出てけって」
掠れがすれの声でこれだけ訴えるのも面倒だ。
身体中の関節が痛かった。
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさかここまで真性の馬鹿だったとは。ある意味見直したぞ」
「…もう怒る気力もねぇ」
昨日の夜、風呂に浸かりながらもどっぷりあれこれ考えていた俺は、日頃の疲れが溜まっていた事もあってそのまま寝てしまい、気付いた時にはかなり本格的に風邪をひいてしまっていた。
確かに馬鹿だ。
三澤に何を言われても、これでは言い返す言葉もない。
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