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「…つーか帰りたくねぇ…」
要するに俺は、三澤の口から飽きたとハッキリ告げられる事が怖くて、それでなかなか家に帰れずにいるワケだ。
アイツにとってはただの気まぐれでも。
一回り以上年下の男に抱かれるのも、そいつの家に越して一緒に生活するのも、俺なりに悩みに悩んで受け入れた事だったのに…。
「何て顔してるんですか、課長」
ぶくぶくと憂鬱の海に沈みかかった俺を現実に引き戻したのは、俺の課長昇格の後、係長の椅子を引き継いだ部下の小杉だった。
いつの間にかフロアには俺と小杉しかいなくなっている。
…もう繁忙期も越えつつあるからな。やっぱり今日は会社に長居するのは諦めた方がよさそうだ。
「悪かったな、マヌケ面で」
そんなにアホ面だっただろうかと反省して、ペシッと軽く頬を叩き、デスクの上を片付ける。
既に帰り支度を終えていたらしい小杉が、デスクの隅に軽く腰掛けて俺の顔を覗き込んできた。
「マヌケ面というか…フェロモン垂れ流しの欲求不満顔ですね。とても新婚さんの顔とは思えませんよ」
「おい、誰が新婚さんだ。ブッ殺すぞ」
眉を寄せてキッと睨みつけるが、無礼な部下はニコニコと笑ったままちっとも悪びれる様子がない。
本社に異動してきた時から面倒を見てきた優秀な部下は、社内で唯一、俺と三澤の関係を知る人間だった。
直接そんな話をした事もないのに、妙に勘が鋭いっつーか何つーか。
今だって、俺の顔を見ただけでズバリ核心を突いてくる。ある意味怖いヤツだと思う。
「課長は、何でもすぐ顔に出ますよね」
「……」
そんなに欲求不満が滲み出てるのか…俺の顔は。変質者一歩手前じゃねぇか。
確かに、このところモヤモヤした満たされない日々を送っているのは事実だった。
三澤と寝なくなってからもう二週間。
俺も男なので、放っておけば溜まるモノは溜まる。
いい加減抜いてしまおうと思って久々の自己処理に踏み切ったのが数日前の事だ。
慣れた手順でモノを扱いて追い上げて…限界に達し、勢いよく射精したその後。
身体の奥が変に疼いて、満たされるどころか物足りなさを覚えた自分に愕然とした。
エロオヤジっぽい濃厚なセックスにすっかり慣らされてしまった俺の身体は、三澤のモノなしには満足できなくなってしまっていたのだ。
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