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月一の課長会議を終えてデスクに戻り、積まれた決裁書類に目を通す頃にはもう終業時間はとっくに過ぎていて、残っている課員もまばらになっていた。

「安藤課長、お先に失礼しまーす!」
「ああ、お疲れ様」

ペコッと頭を下げて元気よく帰っていく部下の背中を見送り、ザッと手元の書類を確認する。
今日中に見なくてはならないモノは少ないようだ。

このところずっと帰宅が遅い日が続いていたし、今日は早目に切り上げるか…。

小さくため息をついてフロアの時計をじっと睨む。

早く帰ってゆっくり休みたい気持ちが半分と、何となく帰りたくないようなモヤモヤした気持ちが半分。
最近残業続きなのは、実際に仕事が忙しいのもあるが、家に帰りにくいという心理的要因もあっての事だった。



――三澤が、俺を抱かなくなった。


半ば押し切られるような形で三澤のマンションに引越してから一ヶ月と少し。
一緒に暮らすようになったばかりの頃は、しつこいくらい毎晩毎晩俺の身体を玩んで翌朝腰が立たない事だってあったのに。

何がきっかけなのか、二週間程前からぱったり夜の行為が途絶えている。

元々別にしていた寝室に勝手に入ってきては、俺が何を言っても聞かずに強引に身体を重ねてきたあのヤリたい放題の御曹司が。
最近は、部屋に入って来もしねぇなんて。

アレか。釣った魚に餌はやらないってヤツか。

――…と、そこまで考えて俺はぶるぶると首を振った。

馬鹿か!餌って何だ!
これじゃまるで俺がアイツに抱かれるのを期待してるみたいじゃねぇか。
そもそもあんな事、しないで済むならそれに越した事はないだろうが。


「……とはいってもなぁ」

思わずため息と独り言が零れ落ちる。

三澤が何を考えているのか全く読めない事に、俺は戸惑いっぱなしだった。

一緒に暮らしてみて、ヤるだけヤったら飽きた、とか。そんな感じなんだろうか。
散々勝手な事をしておいて今更何だ!とムカつきはするが、その一方で、それも仕方ないという気もしてしまう。

性格は多少難アリだが金にも容姿にも恵まれたあの御曹司が、三十過ぎのイチ営業マンに執着する事自体が俺にはよく理解できないからな…。





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