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――参った…。

どんなシチュエーションにもある程度機転の利いた対応が出来る事が営業マンの必須条件だとはいえ。
まさかこんな風に年下の男に口説かれるなんて事態を全く想定していなかったせいで、この状況にどう対処したらいいのか思い浮かびもしなかった。

ここで拒絶したら、俺は二度と三澤に会う事はないだろう。

契約成立後、三澤に会えなくなってからの何となく物足りない日々がこの先ずっと続くのかと思うと、それは淋しいような気がした。

こんなクソ生意気な御曹司だが、一緒にいる時間はそれほど嫌いじゃない。
無理矢理抱かれたにしても、今までに感じた事がない程気持ち良かったし、他の奴とだったら分からないが、三澤との行為にはそれ程の嫌悪感を持っていない。
できれば…俺も、もっとコイツの事を知りたいと思う。

「…少し、考える時間をくれ」

本当にどうしていいのか分からなくて、やっと言う事ができたのはそれだけだった。

「考える時間…?」
「だって、そうだろ。無理矢理あんな事された後でイキナリそんな風に言われて、冷静に物事を判断できるかよ。少し時間をおいて、それから考えたい」
「…なるほど」

どうやら三澤は、この提案には納得してくれたらしかった。
後ろから身体を抱いていた腕の力が緩み、何となく俺の気持ちも楽になる。

これは結構いい考えかもしれないと思えた。
このままずっと“考慮中”でいれば、三澤ともそれなりにイイ関係を築けるんじゃないかという気もするし。

「そう簡単に優良物件評価が得られると思うなよ。とりあえずそのワンマンな性格とねちっこいセックスはマイナス査定だからな」

三澤と出会ってから気付いたのだが、どうも俺は思慮が浅い人間らしい。
何となく口にしたこの一言が、またしても自分の首を締めることになった。

「…そうか、もっと激しいプレイが好みだったとはな」
「ん!?」

一瞬ホッとしていたところを、意表をついて後ろから伸びてきた手に疲労困憊でうなだれる股間のモノを握られる。

「…おいっ!もう何も出ねぇって」
「お前も好きだな、安藤」
「ふざけんな!どこのオッサンだお前は!?」

俺の抵抗を軽くあしらって、三澤の手がやわやわと不埒な動きを開始する。
もう片方の手に、すっかり敏感になった乳首を摘み上げられて身体がビクンと小さく震えた。

「少し考えさせろっつったじゃねぇか!」
「いくらでも考えろ。その間、俺は好きにさせてもらう」
「っ…、もう、ホント無理…ッ」

結局、何て答えてもこうなるんじゃねぇかよ!

そんな不満を漏らす事もできずに心も身体もトロトロに溶かされて。
その後、俺がどんな凄い事になったかは…敢えて説明するまでもない。




『優良物件紹介します』なんて、看板に書かれているお決まりのフレーズをいつも客相手に使ってきたけれど。

たまには自分が優良物件と巡り逢ったりするのも悪くないかもしれない。

散々ヒトを泣かせておきながら、起きている時より幾分年相応の幼さを残した寝顔で夢に浸る生意気な御曹司をじっと見つめてそんな事を考える。

「覚悟しろよ。じっくり時間をかけて、厳しく査定してやるからな」

そんな声が夢の底まで届いたのか。
三澤の口元に僅かに笑みが浮かんだような気がして、俺も思わず頬を緩めた。




end.

(2008.6.5)






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