第8話 ぴよケツ、危機一髪。
逞しい腕に包まれる安心感が一転して、逃げ場のない危機感に変わる。
さりげなく抱擁から逃れようと画策しても、ガッシリ筋肉のついた腕は俺を抱いたまま決して離そうとせず。
気分はまさに、親鳥だと思って懐いていた相手が、実は鋭い嘴で自分を狙う猛禽類だと気付いてしまった雛鳥の心境だった。
「俺、男は無理っすよ」
女の子が怖いからといって、男が好きだということではないし。
それ以前に、橘課長相手の脱童貞はどう考えても無理がある。
いくら男前の課長相手でも、勃つモノが勃ってくれそうにない。
震える声でそう伝えると、橘課長は切れ長の目を更に細め、身体の奥を甘く刺激する声で低く笑った。
「俺もお前に抱かれる気はねえから安心しろ」
「安心しろって言われても……」
「今日は本番なしのお試し版だ」
「何のお試しですか!?」
訊きたくないけど、訊かずにはいられない。
というか、どこまでが「お試し」でどこからが「本番」なのか、童貞の俺にはそもそも謎過ぎた。
「雰囲気だけでも分かれば、いざって時に自信を持ってコトに及べるだろうが」
「そんなモノでしょうかっ」
本気で抵抗すれば、きっと課長は腕の力を緩めて俺を逃がしてくれるのに。
近付いてきた唇が頬と唇の境界に触れた瞬間、魔法にかかったかのように全身の力が抜けて、俺は、所在無げに宙をさまよっていた手で課長の背中にしがみついてしまっていた。
「クソ、無自覚に煽りやがって」
「か、課長……っ」
「目を閉じて適当な女の顔でも思い浮かべてろ。お前もオカズ本くらいは持ってるだろ」
「っ!」
あの橘課長の口から、オカズ本という露骨な単語が出てくるなんて!
褌一丁で危険なフェロモンを垂れ流しながらの発言だけに、卑猥さが半端じゃない。
真っ赤になって硬直する身体はあっという間にソファの上に腰掛けさせられ、開いた足の前にひざまずく課長の姿が視界に入ってきた時には、もう俺は目を閉じる事なんて出来なくなっていた。
「まあ、いきなり女の前で褌は引かれるだろうから、勝負日にはボクサーパンツあたりが妥当だろうな」
そんなよく分からない下着に関するアドバイスを淡々と口にしながら、締めたばかりの六尺褌へと手を伸ばした課長が、ニヤリと笑って俺を見上げる。
「どうした、間宮? まだ触ってもいねえのに半勃ちか」
「違っ、違います!」
「違わねえだろ。お前の元気なムスコが窮屈そうに褌を押し上げてるぞ」
「あ……んんッ!」
実際、俺のソコはまだ何もされていないというのに元気よく勃ち上がり始めていて。
からかうように布の上から指先でクリッと先端部を弄られただけで、自分でも信じられないような声が飛び出し、下半身が卑猥な動きで跳ね上がった。
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