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「最低だ」
身体中から力を奪われる倦怠感に、悪態をつく。
「随分濃いな。禁欲的な生活は相変わらずか」
「黙れ! 余計なお世話だ!」
くぐもった声で低く笑いながら、ピピンは身に纏っていた服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になって俺を見下ろした。
僅かな月明かりに照らされて浮かび上がる、彫刻のように見事な肉体。
幾多の戦場をくぐり抜けてきた屈強な男の身体に、思わず感嘆の息が洩れる。
きらびやかな衣装や王冠など身につけていなくても、生まれたままのその姿でこの男は既に王だった。
「大人しくしていろ。怪我をさせたくはないからな」
「なっ……!」
じゃあ今すぐこの不埒な行為を止めればいいじゃねぇか!
身勝手としか言いようのない言葉と共に再び俺の上に身体を重ねてくる我が儘な国王。
それでもピピンは、尊大ぶったその口調とは裏腹に何か大切な物にでも触れるかのようにそっと、柔らかい唇を頬に押し当ててきた。
「……んッ……」
そして、頬から唇へ。
ゆっくり移動してきたそれは、何度か啄むだけの行為を繰り返した後、ざらついた舌先を唇の間に差し込んでそろそろと口の中を探り始める。
精を放ったばかりで力無く俯いていたモノから辿った、更に奥にある器官を指先に触れられ、以前その部分に何が起こったかを覚えていた身体は反射的に強張った。
「やッ……、無理だっ」
怯えを察知したピピンが、唇を離し、顔を覗き込んでくる。
「ステファヌス。以前のように暴れたりしなければ決してお前を傷つけたりはしない」
「あんな酷い思いは二度と御免だ!」
「ならば私を信じて身体の力を抜け」
「これを止めるっつー選択肢はねぇのかよ」
できる事ならば、もうあんなに痛くて辛い思いはしたくない。
いくらピピンが屈強な身体を持っているからといって、俺だって同じ男だ。本気で抵抗すれば一瞬の隙をついてこの身体の下から抜け出し、人を呼ぶ事も充分に可能なのに。
何故か俺は、身体を強張らせながらもこの男の視線から逃れられずにいた。
「今更止められるわけがないだろう。私が何のために生きてここまで帰って来たと思っているんだ」
初めて会った時と同じ、射抜くような鋭さを持った、熱い視線。
重ね合わされた下半身に当たる硬い感触に、確かにピピンのその部分は、今更止めるわけにはいかない状況になっている事を知らされた。
「まさかこんな下らねぇ行為のためじゃねぇだろ」
見上げた顔が、ほんの一瞬、辛そうに歪む。
「お前には下らない行為でも、私にとっては何より大切な事だ」
「あぁぁ……ッ!」
強引に割り入ってきた指先に身体が竦み上がり、すぐ目の前にあった精悍な男の顔は涙で滲んでぼやけてしまった。
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