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あまりに力強く肩を叩きすぎたのかもしれない。
直線的な男らしい眉を一瞬しかめて、庄司が非難の視線を送ってきた。

「痛いですよ」
「あっ、ご、ごめん…びっくりして…」

…と言っている側から、更にビックリさせられて、身体が再び硬直してしまう。
なんと、両肩に乗せた手が、一回り大きな手にギュッと包み込まれてしまっていた。

「あ、あ、あの…っ」

向かい合って両手を握り合っているこの状況を、どう解釈したらいいんだろう。
酔いのせいにしてごまかすには、庄司の顔は真剣過ぎた。

「間違いなんかじゃありません。俺は柏木さんが好きです」
「えっ、いや…それはどうかと…」
「今までだってずっとアピールしてたのに、いつも逃げられるから言えませんでした」

握られた手が、熱い。

「アピール…?」
「まさか本気で俺が会社に鍵を忘れたりする間抜けな奴だと思ってましたか?シャワーだって、いくらボロアパートでもそんな頻繁に故障するワケがないでしょう」
「嘘だったのかっ」
「…少しは人を疑って下さい」

庄司がウチによく来るのに、そんな意味があると考えた事はなかった。

いつものビックリ発言だって、こんなオジサン上司をからかって何のつもりかと思っていたけど…まさか全部本気で言っていたのか。

「でも、あの…っ、俺、男なのに…っていうか、オジサンだし…」

ちゃんと日本語が喋れているかどうか自分でも怪しい。
それでも、もし庄司が恋愛的な意味で俺を好きだと言っているなら、やっぱりそれは勘違いだと全力で諭さなければならないと思った。

多分、無意識のうちに俺が庄司をそういう目で見ていたせいで、庄司も何か変な気持ちになってしまったんだろう。
俺の性癖にまで気付いているとは思わないけど、可愛い部下をゲイの道に引きずり込むワケにはいかない。

「しょ、庄司…まずは落ち着いて…、…うわっ!」
「俺は落ち着いてますよ」

わたわた慌てる俺の腕を引っ張り、今度は真正面から身体ごと抱きしめて。
落ち着かせるようにゆっくり優しく、大きな手が背中を叩く。

温かくて広い胸は、包まれていると何だか安心して。
シャツからほんのり立ちのぼる男の匂いに、思わずうっとり目を閉じてしまった。

「――3年前、柏木さんが別れ話をしてる所を見たんです」

背中を叩いていた手で今度は髪をそっと撫でながら、呟かれた言葉に、落ち着きかけていた思考がまたぐるぐると忙しく回り始めた。

3年前。
“彼氏”にフラれた現場を、まさか見られていた…?

「飲み会帰りにマンションの前を通ったら、柏木さんが男と話してて…。盗み聞きするつもりはなかったんですけど、全部聞いてしまいました」
「お前…」

そういうのを、盗み聞きする気満々だったと人は言うんだ。

というか、そんなに前から俺がゲイだと知っていたのか…。

「一人になった後、ぷるぷる震えながらずっとその場所で泣いてる柏木さんを見て思ったんです」

抱きしめる腕に力が入って、密着した身体に庄司の鼓動が伝わってきた。

「俺だったら、柏木さんをこんな風に泣かせたりしない。甘やかして可愛がって、誰よりも大切にするのに…って」
「…30過ぎのオジサンを…?」




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