外池バレンタイン・2




驚きのあまり、眼鏡がずり落ちそうになった。

「だって何か賭けなきゃ面白くねーだろ」
「イヤイヤ」

それだったら、社食をおごるくらいで十分だ。

ウキウキした様子が隠し切れない外岡を見て、さてはコレが狙いかと池原は内心ため息をついた。

以前池原の家に遊びにきた外岡は、池原が高校の学祭で女装した写真を見つけて、嘘か本当か一目惚れしてしまったらしい。
それ以来何かと女装をせがまれ、その度に突っぱねてはいたのだが…。

「そういう事なら俺は下りる」
「えっ!何だよ池さん、さては勝つ自信がないな?」
「仮に勝ったとしても女装した外さんとデートなんかしたくねーよ!俺にメリットが全くないだろ!」
「ぐっ…」

そこを突かれるとは思っていなかったらしい。

さっきまでの元気が嘘のようにしょんぼりうなだれる先輩の姿を横目に、池原は再び視線を新聞に戻した。

――と、その時。

「ちょっと待つっス!!」

時代劇の御隠居風に絶妙のタイミングで会話に割り込んできた声に顔を上げて、ギョッとする。

営業一課のマスコット的存在・新人松崎が、おにぎりのご飯粒を何故か頬っぺたにつけながらキュッと唇を結んで池原に熱い視線を送っていた。

「池原さんっ、外岡さんの提案にノッてあげて下さい!」
「絶対に嫌だ。俺は女装するのも、女装した外さんとデートするのも御免だ」
「そんなっ」

握りこぶしまで作って熱心に外岡の味方をする新人に、池原は首をかしげる。

どうして松崎がここまで外岡の肩を持つのか。
まさか買収でもされたか?と思っていると、案の定…。

「外岡さんは池子に会いたい一心で取引先の女の子に根回ししたり、俺を褌で買収したりして頑張ってきたっスよ!」
「げっ!松崎…っ」
「そんな外岡さんを応援してあげたいっス!」

自分が外岡の不正を暴露した事に全く気付かないらしい新人の向かいで、外岡がアワアワうろたえていた。

「…そうか。やけに自信満々だと思ったら取引先に根回しまでしていたのか」
「いやっ、違うんだ池さん!っていうか、バラすなよ松崎!」
「ハッ!しまったっス!」
「松崎のせいにするな。きたねーぞ外さん!」
「外岡さんっ、ごめんなさい〜」



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