外池バレンタイン・1



いつもと変わらない、平和な昼休み。

営業一課のムードメーカーであるオシャレ坊主の外岡が、隣の席で新聞を読みながらサンドイッチをかじる年上の後輩、オシャレ眼鏡の池原に声をかけた。

「池さん、今年は俺にイイ考えがあるんだ!」
「…突然そう言われて話が通じると思うか?」

冷静にツッコミを入れてみたものの、この1つ年下の先輩の突発的な思いつき企画はいつもの事なので、慣れている。
池原は、缶コーヒーでパンを流し込んで次の言葉を待った。

「もうすぐバレンタインデーじゃねぇか」
「ああ、そういえば…」

卓上カレンダーに目をやり、もうそんな時期か、と気付く。

毎年、外岡と池原はバレンタインデーにもらったチョコの個数を競うのが恒例イベントになっているのだ。

…ちなみに、今までの戦績はすべて引き分け。
当然といえば当然かもしれない。
支店にいる女性職員の人数は限られているし、どちらか片方だけにチョコを渡すような事もない。部内の男性陣にバラまくように義理チョコを渡されて終わりである。

――取引先の女の子とか合コンで知り合った女友達、飲み屋のお姉さんにもらったりした分も合わせれば勝負は分からないけどな、と外岡も池原も思っている。
14日の9時から5時までという時間制限があるから勝負がつかないのだ。

「今年はさ、14日が休みだし、どうせなら一週間くらい前から期日前投票もアリにしよーぜ」

目をキラキラさせながら身を乗り出してきたやんちゃ坊主の先輩に、池原は不敵な笑みで返した。

「外さんの不利になってもいいなら俺は構わないけど」
「何だそれ。俺だって意外にモテるんだからな!」

自分で“意外に”と言っているあたりが実に謙虚で微笑ましいが、実際に外岡がその人懐っこい性格でモテているのは知っていた。
池原にしても、決して女性に人気のない部類ではない。
二人ともどういうワケかいつも詰めが甘くて、なかなか特定の相手はできないが。

「じゃあ今年は14日以前にもらったチョコも有効にするか」
「おう!」

イイ年して、こんな下らない勝負で盛り上がるのもどうかと思いながら、結果が少し楽しみになってきたような……。

そんな池原の考えは、次の瞬間外岡の口から飛び出してきた言葉で打ち砕かれた。

「今年は負けた方が女装して勝った方とデートの罰ゲームつきな!」
「はっ!?」


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