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いつもなら俺がシートベルトを締めたかどうかも確認せずに運転席に乗り込んですぐ車を出してしまう外さんだが、今日は何だか様子が違っていた。

妙にそわそわしながら、照れ臭そうに視線を送ってくる。

「池子…どこか行きたいトコとか、ある?」

ねぇよ。
強いて言うなら自分の家だ。

…とは言えない、完璧主義者の自分が憎い。
池子になりきった俺は、やっぱり微妙な笑みを浮かべて首を振るしかできなかった。

「じゃあ、ちょっとドライブして、オススメの店でご飯を食べよう」

今度は、コクコクと縦に首を振る。

それを確認した外さんは、ニッコリ笑って、いつもより滑らかに車を発進させた。

助手席から見上げた主任の部屋の窓からは、松崎がぶんぶんと手を振っているシルエットだけが見えていた。


○●○


ちょうど夕焼けに染まった海を見渡せるシーサイドラインを流しながら“オススメの店”へと向かう。

ここまでの過程に、フラれる要素はないような気がした。

俺は一言も喋らず相槌を打つだけでも、外さんはちゃんと煩くもなく沈黙が辛くもない程度に話してドライブを楽しく過ごさせてくれている。
景色もいいし、車内オーディオの選曲センスも悪くない。
残念な事にこの車を買ってから助手席に女を乗せた事はないらしいが、もし俺が女だったらまずまず好印象のドライブデートだと思った。

「疲れてない?もうすぐ着くから」

そういう気遣いを見せるところが外さんらしいな。
前を見て運転を続ける年下の先輩の横顔を見ながら、ふと笑みが零れてしまう。

こんなに一生懸命エスコートしてくれる可愛い純情坊主をフるなんて、今までの女性陣も酷い事をする。


…と、思っていたのだが。


“オススメの店”に着いた辺りから、何やら雲行きが怪しくなってきた。

「ここの飯、すげぇ美味いんだ」

そう言って助手席のドアを開けるオシャレ坊主お気に入りのその店は、確かに海沿いのなかなかイイ場所に建っているのだが。

店の造りは普通でも、やたら男らしい筆文字で『ドカ盛り!激肉!カレスー食堂』と書きなぐられた看板からして、嫌な予感がする。
駐車場に停まっている車のほとんどがトラックという客層の偏りっぷりも何だか凄い。

「好きなだけ食えるから腹いっぱいになるし。池子も気に入ってくれるといいんだけど」
「……」

イヤ、俺だったらこういう店は嬉しいけど。
デートでこれ系の店はかなり痛恨のミスチョイスじゃないだろうか。
特に、外さん好みの落ち着いた大人の女がここでのディナーを喜ぶとは思えなかった。

多分今までもこういった感じの店に連れて行って、「あたしがどんだけ食べると思ってんのよ!」とか、そんな風にフラれたんだろう。


連れられて入った店内は、予想どおり、マッチョなトラック野郎で賑わって、むせ返るような男臭さに包まれていた。

もし俺が女だったら、多分ドン引き状態で飯も食えないだろう。

「何が食べたい?とりあえず飲み物だけ先に頼むから」

どれを見てもドカ盛りメニューしかないメニュー表を傾けながら人懐っこい笑顔を向けてくる外さんに、帰ったらこれだけはやめた方がいいとアドバイスしてやろうと本気で思った。





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