かなしいゆめだけみせてね



 いちばん好きだった。このひとのためだったら何でも出来るって、きっとこれが運命なんだって、本気で思った。

 彼はわたしのいちばんだけれども、彼の中でもわたしがいちばんなのかはわからない。わたしと居るときよりも、仕事をしていたり勉強をしていたり、そういうときのほうが楽しそうに見えるし、こんなことをいうと片思い中の女の子みたいでいやになるけど、わたし以外のひとと話しているときのほうが彼はよく笑った。それが本当に、本当に少しだけ淋しくて、一度だけ彼に言ったことがある。

 あなたといる時間は特別なんです、なんて返されてしまって、もうそれっきり、単純なわたしは満足してしまったのだけれど。

 二人きりの時の彼は、口数が少なくて、とにかく静かで、でもそれがお互い心地よくって一緒に居るんだと思う。外へ出かけたのだって、片手で数えられるくらいだし、結局学園生活中にわたしが女の子として彼の隣を歩くことはなかった。今思い返しても、それはちょっと心残りかもしれない。一回くらいわがまま言って、彼を困らせてみればよかった。

 彼の腕のなかで迎える朝が好き。黒一色の空が少しずつ紫を帯びて、それから彼の目の色みたいな青が広がっていくところ。夜の真ん中で緩んだ空気が再び鋭い白さを含むとき。彼の体温を感じながらそれらを窓越しに眺めて、いつのまにか眠って、また目が覚めたときの気持ちは、いつもきらきらしていてあたたかい。あたらしい朝、最初に見るものが彼で、彼の最初もまたわたしなのだと思うと、いつも涙が出るほどしあわせだった。

 ふたりで最後に過ごす一日もとっても静かで、穏やか、……とはいかず、彼は珍しく沢山話しかけてきたし、急にいろんなところ―――これまで行った数少ない思い出の場所、だとか前に行ってみたいと零した覚えのあるお店、だとかに連れまわされて、何事も慎重で計画的な彼がこんなに無理やり、つじつまを合わせるみたいにして普段と違う行動をするなんて、予想外だった。

 最後なんて嘘だ、と何度言われたかわからない。泣きそうな顔をして、それでも平静を装う彼はなんだか儚くて、わたしよりもずっと、消えてしまいそうだった。

 ずっと一緒に、なんて世界中で使い古されたことばのひとつもあげられなくて、ごめんなさい。声に出さずにひとりごと。彼の腕のなかは今日もあたたかくて、優しさで溢れている。どうかこの四年間が、ただの悲しい思い出に変わりませんように。


 世界でいちばん、アズールのことが、好き。だから、あともう少しのあいだ、






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