花束の話



「え! これ、わたしに?」

 ハッチンは照れくさそうに、わたしに花束を渡してくれた。彼はどんな花でも似合うけれど、その花を飾る可愛らしいリボンや包み紙とは馴染まなくて、なんだかちぐはぐな感じがする。

「前にバイトしてた花屋の前通ったら声掛けられたんだよ」
「ああ、あの他校の子に絡まれて辞めちゃったとこ」

 バイト決まったぜ! と嬉しそうに報告を受けたことも、初出勤から帰ってきた彼のしょんぼりした触角も、全部しっかり覚えている。

「ッファ〜〜〜!そうだよ。思い出すだけでムカつくぜ!」
「ハッチンとお花屋さん、ピッタリだと思ったんだけどなあ」

 彼はブンブン蜂族なだけあって、花が大好きだ。仕事を覚えるのは苦手そうだけれど、好きこそ物の上手なれ、という言葉もある。だからバイトが決まった時は、彼と同じくらい嬉しかったのに。それに、一日しか働かなかった元バイト先(しかも辞めた原因が喧嘩!)のひとに声をかけてもらえるくらい、彼は本当に良いミューモンなのだ。ちょっと喧嘩するくらい大目に見てくれてもいいじゃないか。……なんて、わたしも不良に近づいていたりするのかしら。

「だよなー。花に囲まれるとかすっげー最高だったんだけどなー」
「自分で開いちゃえばいいんだよ、将来」

 あ、でもバンドも続けて欲しいなあ。心のなかで続ける。
 "卒業するため"という名目で続けている彼のバンドは、この街で名前が売れてきている最中だ。

「ファ!? オマエ天才じゃね!?」
「そうかなあ」
「そしたらオマエがレジやって、オレが花選ぶ!完璧だろ!」
「計算も頑張ろうよ」
「ファ〜?オマエ居るからオレはいい」

 数年後、もしかすると数十年後もハッチンと並ぶわたしを、ちょっとだけ想像してみる。きっと何も変わらず、楽しそうに笑っている。はちみつと花束の甘やかな香りのなかで。

お題「花束」




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