夜空の下で
私にはハンジという名前の変態な彼氏がいる。
同じ大学で授業も一緒になることが多かったのがきっかけで知り合った。
そして半年前にハンジからの猛アプローチで付き合うことになった。
何故変態なのかと言うと、ハンジは生物部のサークルでかなりのマッドサイエンティストぶりを発揮しているらしい。
前に1度だけどんな実験をしてるのか興味本位で聞いてみたことがあったけど、ハンジは嬉しそうに明け方まで喋り続けてくれてそれから私は一切実験のことには触れなくなった。
そんなハンジの付き合いが最近なんだか悪い。
メールや電話の回数も減ったし、こないだなんてデートに誘ったのに断られた。
せっかく大学が夏休みに入ったっていうのに、ハンジのやつ何してるんだろ。
(まさか浮気とか!?)
いや、ハンジは変態だけど優しくて良いやつだからそんなことはしない!…よね…?
気づいたらハンジのことばかり考えてる自分が居た。いつからか私はあの変態のことが大好きで仕方ないみたいだ。
そんなことを考えていた夏のある夜、ハンジから「今から会えない?」とメールが来た。
嬉しさの反面、もし別れ話だったらどうしようと少し不安にもなった。
「大丈夫。」と返事を返すと、すぐにハンジが自転車で家まで迎えに来た。
「名前ー!お待たせー!」
久しぶりのハンジに嬉しくなって家の前なのに思わず抱きついてしまった。
「ど、どうしたの名前?」
「ううん。何でもない。」
私の突然の行動にびっくりしながらも嬉しそうなハンジの表情に少し安心した。
その後、ハンジは私を自転車の後ろに乗せてどこかに向かっているようだった。
「ハンジー、どこに行くの?」
「それはまだ内緒なんだー。」
一体どこに向かってるんだろう。全く検討がつかない。
それから1時間ぐらいしてハンジが自転車を止めた。
そこはあまり人気のない山の近くだった。
「じゃあ名前、この目隠しをしてみて。」
「えっ!?」
ハンジの突然の申し出に私は驚きを隠せなかった。
夜、目隠し、外…。
まさかそんな変態120パーセント越えの性癖があったの!?
「ちょっと名前、変なこと考えてるでしょ?」
「えっ…う、うん。」
「やっぱり。そんな名前が心配してる様なことはしないから。…たぶん。」
「たぶん!?」
「あはは!冗談だって!」
絶対私の反応を見て楽しんでる!
ケラケラと笑うハンジを横目でジトっと睨みつける。
「そんな怖い顔しないで。さっ、行こう。」
半ば無理やり目隠しをされた私は、ハンジの腕にしがみついて歩いた。
目隠しをして歩くのってこんなに怖いんだ!
夏だし辺りは草むらっぽいし蛇とか踏んだらどうしよう!?
そのまましばらく歩いたところで
「ここでちょっと待って。」
と言うハンジの声と何かを広げるバサっという音が聞こえた。
「これでよしっと。じゃあ名前ここに寝てみて。」
手を引かれるがままに私はさっきハンジが敷いたであろうシートの上に横になった。
こんなところに寝かせて何するつもりなんだろう。やっぱりさっき言ってたお外で目隠しプレイ!?そんなの私には刺激が強すぎるー!
嫌な予感に私は唇を噛み締めた。
「じゃあ目隠し外すよー。じゃーん!」
「う、うわぁー!何これ…すごい…!」
目隠しを外された私の目に飛び込んできたのは今にも降ってきそうなほどの満天の星空だった。
そのあまりの煌めきに思わず声が漏れた。
こんなにも綺麗な星空は初めて見る。
「サークルの仲間が教えてくれたんだ。この辺りは星がすごく綺麗だって。でもけっこうな人気スポットらしいから、名前と2人で見れるように人気のないところを探したんだ。」
「もしかしてこの周りの草とかもハンジがやったの?」
よく周りを見るとシートを敷いている周辺だけは背の高い草とかが無く整備されている感じだった。
「そうだよ。この間はデートを断ってごめんね。ずっと今日の為に準備をしてたんだ。」
その言葉に涙が出そうになった。私は浮気されてるかもとか一瞬でもハンジを疑った自分を責めた。
ハンジは私にこの星空を見せるために頑張ってくれてたのに。
罪悪感と愛おしさで胸の中がぐちゃぐちゃになった私は、またハンジに抱きついた。
「ハンジ…ごめんね。それから大好き。」
「どうしたの名前!?」
今日2度目の私の突然の行動に目を丸くしながらも今度はしっかり抱きしめ返してくれた。
「ねえ名前見て。あれがデネブ、アルタイル、ベガの夏の大三角だよ。」
「えっ?あれがデネブ?」
「違う違う。もうちょっと上の明るいやつ。」
そうやって2人で手を繋ぎながら色んな話をした。
来年もハンジと一緒にこの星空を見たいな。
「ねぇハンジ…。来年も一緒にここに来れたら良いね。」
「そうだね。でも来年と言わずに私は今年の秋も冬も名前と一緒にここに来たいよ。」
「秋も冬も…。今年の夏が終わっちゃっても楽しみはまだまだいっぱいあるんだね。」
「そうだよ!まだまだ名前と一緒にしたいことや見たいものがいっぱいあるんだ。」
キラキラと瞳を輝かせて言うハンジがとても愛おしかった。
私はゴロンと横を向いてハンジの方に向き直った。
「ねぇハンジ。キスしよっか。」
「今日の名前は積極的だね。」
ハンジはどこか嬉しそうな顔をしていた。
そして私たちは身を寄せ合い、夏の夜空の下で唇を重ね合った。
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