その表情は
ある日の夜、私はエルヴィンの自室前をうろうろしていた。
(ついに来ちゃった…。)
恋人であるエルヴィンは調査兵団の団長で、毎日かなり多忙な人で。そういう私も分隊長をしていて何かと忙しく、最近はなかなか会えていなかった。
(少しだけ元気な顔を見れたらそれで良い。)
そう思い、ついにエルヴィンの自室前まで来てしまった。
とは言っても、約束もなしにいきなり来ては迷惑じゃないかな?という思いが、私をあと1歩のところで留めさせていた。
でも、エルヴィンとのこの関係は他の団員達には秘密だから、こんな夜中に彼の部屋に入って行く姿を見られる訳にはいかない。
そう思い、意を決した私は思い切ってドアをノックをした。
「エルヴィン、名前だけど…。」
「名前…どうしたこんな時間に?」
ドアを開けたエルヴィンは少しだけ驚いた顔をしていた。こんな夜中に訪ねたらそりゃあびっくりもするよね。
「最近会えてなかったから、ちょっと顔が見たくなって…。」
久しぶりに会ったせいか少し気恥ずかしくなった私は、俯いたままそう言った。
「そうか。もうすぐ仕事が終わるから中で待っていてくれないか。」
そう言ってエルヴィンは優しい表情で私を部屋に入れてくれた。
ふと視界に入った机に積まれた書類たちが、彼の多忙さを物語っていた。
ベッドに腰をかけてエルヴィンを待つ事にした私は彼の背中をぼーっと見つめていた。
(相変わらず大きな背中…。)
「名前にそんなに見られたら集中できないなぁ。」
エルヴィンが急に振り返って言うから、心臓がどきっと跳ねる。
「ご、ごめんなさいっ。」
座っていたらいつまでもエルヴィンを見つめてしまいそうだったので、私はベッドに横になって待つ事にした。
でも横になっていると、睡魔に襲われだんだん眠くなってきた。
(ここに来てどれぐらいの時間が経ったんだろう。エルヴィンはこんな夜中まで大変だな。)
うとうととそんな事を考えていると、仕事が終わったのかベッドがぎしっと音を立てて、エルヴィンが私の顔を覗き込んだ。
「名前待たせたね。」
「ううん。でも眠くなってきたからここで寝ても良い?明日の朝は早めに部屋に戻るから。」
「ああ、問題ない。というより初めからそのつもりじゃなかったのか?」
「…どういうこと?」
「だって名前は夜這いに来たんだろう?」
満面の笑みでそんな事をさらりと言うエルヴィンに私の脳は一気に覚醒した。
「えっ!?私そんなつもりじゃ…。」
「冗談だよ。でも名前にあんなに可愛く顔が見たかったなんて言われたら俺は我慢できないな。」
「……エルヴィン?」
そう言って、優しく抱きしめながら重ねられた唇。
エルヴィンの唇が私の唇に這わされ、酸素を求めて僅かに開いていた唇の隙間から舌まで侵入してきた。口内を好きなように蹂躙され、くぐもった声が漏れる。
「…ん、んっ…ふ…」
暫くされるがままでいるとエルヴィンは私の唇から離れ、耳元に口を寄せた。
「残念ながらまだまだ眠らせないよ。名前。」
少し意地の悪い笑みを浮かべてそう囁くエルヴィンは、いつもの優しい団長の顔じゃなかった。私しか知らない彼の少し意地悪な顔。
その表情はどうか他の誰にも見せないで欲しい。
私はエルヴィンの背中に手をまわし、目を閉じてそのまま彼に身を預けることにした
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