きみとぼくとエゴイズム


「エレーン!!お待たせー!!」
「名前!おっせーよ!」


その日、寝坊して30分遅刻した私を待っていたのはとっても不機嫌なエレンでした。確かにこんな真冬の寒空の下で30分も待たされたら、怒るのもしょうがない。それはよく分かる。分かるけど、目覚ましが鳴らなかったんだもん!私も悪いけど目覚ましも悪いんだからねって言おうかと思ったけど、火に油を注ぎそうだと思ったから止めておくことにした。


「ごめんね、エレン。寒かったよね?」
「当たり前だろ。こんなに待たされて寒くない奴が居るのかよ。」


おっしゃる通りです。本当にすみませんでした。不機嫌な顔のエレンにもう1度ちゃんと謝ってから「じゃあ寒いからカフェでも行こう。今日は私が奢るから。」と、エレンの上着の袖を引いて歩き出そうとしたけど、何故かエレンはその場から動こうとしない。

(…まさか、腹が立つから今日のデートはやめだとか言うんじゃ…。)

そんな…。私の失敗が招いた事態だけど、今日のデート楽しみにしてたのに。
嫌な予感がした私は、エレンの顔を下からのぞき込むようにして問いかける。


「エレン?どうしたの?…遅刻のことは本当にごめんね。」
「…寒くて動けない。」
「…えっ!?」


まさかのエレンの発言に私は驚きを隠せなかった。寒くて動けないって…そんな人いる?寒いからこそ動いた方が身体もあたたまるのになぁーって思ったけど、誰の所為だって言われたらそれはもちろん私の所為だから、これも言うのは止めておくことにした。

「じゃあ、これ貸してあげる。」

そう言って私は自分の首のマフラーを取って、エレンの首にぐるぐると巻きつける。うん、これでかなりあったかくなったはず…!


「どう?あったかいでしょ?」
「…全然足りない。」


そんな…全然ってこれ以上私はどうすれば…!?もうエレンに貸せる防寒具は持ち合わせてないし。この状況を一体どうすれば打開できるのか、私は頭を抱え込む。
でも、なかなか良いアイデアは思い浮かばなくて途方にくれていると、そんな私を見てエレンはボソっと呟いた。

「…そう言えば、1番あたたかいのは人肌だってアルミンが言ってたな…。」

それを聞いた私はすっごく良いことを閃いた。なるほど!さすがはアルミン!持つべきものはやっぱりアルミンだなぁ。としみじみ思いながら、私は冷たくなってしまっているエレンの手を取って言った。


「じゃあ手繋いで行こ?これならエレンも動けるぐらいあたたかいでしょ?」
「…さっきよりマシだけど、まだ足りない。」


そう言ってエレンはふいっと私から視線を逸らす。
私の恋人はなかなかの我儘なようです。いや、原因は私にあるんだけど。


「もう、じゃあ私はどうしたら良いのよ。」
「名前が自分で考えたら良いだろ。」

そんなこと言われても、私はさっきからずーっと考えてるんだからぁ!
正解があるんなら教えてくれたら良いのにー!
この状況に半ばヤケクソになった私は、もうどうにでもなれと自分より背の高いエレンにギュっと抱き付いた。
こんな街角で何やってんのって感じだけど、もう知らない!


「…エレンのバカ。そろそろ機嫌直してよ。」
「…あと5分こうしてたら動けるようになる…かもしれねぇ。」
「えっ!?そうなの!?…でも人目とかあるし5分はちょっと…。」
「そんなの知るかよ。名前が悪いんだろ。責任取ってちゃんとあっためろよ。」


そう言ってエレンは私の身体に腕をまわして、少し息苦しいぐらいに抱きしめ返してきた。…こんな誰に見られているか分からない街角で。
恥ずかしいけどこの腕の力にはどうしようもないと思った私は、エレンの胸に熱くなった顔を埋めるようにして人目から逃れようとする。あんまり意味ないかもしれないけど…。


それでも、私の遅刻の所為と言ってこんな横暴な事をする愛おしい恋人の我儘に、もう少しだけ付き合ってあげようと思う。

 
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