勇敢な戦士に送る花


「は、初めまして!今日からお世話になるエレン・イェーガーです!よろしくお願いします!」
「もしかして…あなたがリヴァイさんの小姓になる男の子!?」


いつもと変わらない穏やかな晴天の日。
その日、屯所で隊士たちの洗濯物を干していた私にリヴァイさんが紹介した男の子。それがエレン君だった。
『鬼』と呼ばれるリヴァイさんの小姓を務めるのだから、もっとごっつくて力士みたいな人を想像していたけど…この子…


「かわいいーっ!!」


想像よりもずっと若くてかわいい男の子の登場に思わずまじまじと見てしまう。15歳ぐらい…?悔しいけれど、肌のハリが20歳の私とは全然違う!

こんなかわいい男の子が仲間になるだなんて、ご飯を作るのにも気合いが入ります!


「えっ?…あの…。」


と戸惑うエレン君を無視して手を伸ばし顔にヒタヒタと触ると、やっぱりツルツル!


「…チッ、止めろ。」


でも、すぐに舌打ちをした険しい表情のリヴァイさんによって引き剥がされてしまう。ちょっと顔を触っただけなのに…。ほんとに嫉妬深いんだから…。

エレン君とのコミュニケーションはこのぐらいにして、真面目に自己紹介をしようと背筋を正す。


「私は名前。ここでは隊士のみんなのご飯を作ったり、身の回りの世話をさせてもらってるの。今日からよろしくね!」
「はい!よろしくお願いします!」
「名前、大事な自己紹介が抜けてんぞ。」
「…えっ?」


リヴァイさんの言葉に私は首をかしげた。大事な自己紹介って…?一体何だろう。
…分かった!あれだ!


「好きな食べ物はこんぺいとうです!」
「…そうじゃねぇだろ。」


…好きな食べ物じゃないとしたら、後は何だろう。大事な自己紹介……あっ!あれかな!?


「嫌いなものは島原ですっ!これはもう本当に嫌い!」
「…まぁ良い。」


リヴァイさんが思っていた大事な自己紹介とはどうやら違ったらしい。エレン君に「次、行くぞ。」と言って2人は私を背に歩き出してしまった。

去っていくエレン君の背中を見て私は思う。
これからすっごく大変なんだろうなぁ。リヴァイさんの大変さは私が1番知ってるはずだから…。

そう考えると、もの凄い仲間意識のようなものを感じて、気付けば走り出していた私はエレン君の肩を掴んだ。


「…?名前さん?」
「…エレン君。これから鬼の副長の相手、本当に頑張ってね!」


そう言って背伸びをした私は、エレン君の頬にちゅっと軽いキスをした。
これは今日から共に闘う戦友へのささやかな贈り物。


「…う…あの…その…。」


頬にキスしただけなのにエレン君の顔は真っ赤で…。まさかそんな反応をされるだなんて思ってなかったから、何だがこっちまで少し照れてしまう。


「お前ら…何してやがる…。」
「…あっ!リヴァイさん…!」


気付けば身体が勝手に動いていて、エレン君のすぐ隣にいたリヴァイさんの存在をすっかり忘れてしまっていた…。これは…まずい…。


「名前…お前は俺が仕事で島原に行くとピーピー泣くくせに、自分はこれか…。今夜俺の部屋に来い。躾直してやる。」
「…えっと…その…。」


反論できず、困り果てた私は両手で頭を抱えた。反論できないのもそのはず。私はリヴァイさんの言葉通り、仕事だと分かっていてもリヴァイさんが島原に行く度に、押し入れに籠ってしくしくと泣いているから。


(もしかして取り返しのつかないことをしちゃった…?)

顔面蒼白の私をよそに、リヴァイさんはエレン君に向かって吐き捨てるように言った。


「エレン…こいつは、名前は俺の女だ。変な勘違いすんじゃねぇ。」
「ええっ!?そうだったんですか!?」


驚くエレン君の声が聞こえる…。そりゃそうですよね。びっくりしますよね。でも、やましい気持ちでしたんじゃなくて、本当に挨拶のようなもので…。


今夜、私は一体どんなお仕置きをされるのでしょう…。
ふと見上げた京の空は、今日もびっくりするぐらいの青空です。


 
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