報復作戦


「エレン良い?我らスカーフを引きちぎれ団の合言葉はそのまま、スカーフを引きちぎれ!だからね。」
「は、はい。でも名前さん本当にやるんですか?リヴァイ兵長に殺されますよ。」
「くたばりません!引きちぎるまでは!…これがスローガンだから。」


今、俺の目の前で「くたばる」とか、絶対にリヴァイ兵長の口調が移ったんだと思われる言葉を口走っているこの人は名前さん。分隊長であり、あの人類最強のリヴァイ兵長の彼女だ。
昨日、兵長に忙しいことを理由に構ってもらえなかった名前さんはどうやら拗ねているらしい。


「本当に信じられない。リヴァイのやつ真顔でうぜぇって言ってきたんだよ!もう少し言い方ってものがあるよね、エレン!?」
「は、はい…。」


そして俺は何をしているのかと言うと、さっき廊下で偶然出会った名前さんに「リヴァイ班でこき使われて鬱憤溜まってるでし
ょ?」と尋ねられ、否定したかったが半ば無理やり認めさせられてリヴァイ兵長への報復作戦に付き合わされている。

…最悪だ。

この作戦が成功しても失敗に終わっても、俺はリヴァイ兵長に、また半殺しにされるに決まってる。彼女である名前さんはどうか分からないけど、兵長から俺への痛みしか伴わない躾は絶対に避けられないはずだ。


「じゃあエレン、作戦はさっき話した通りだからね。リヴァイの姿を見つけても絶対に来た!とか言っちゃダメだからね!」
「分かりました。」


名前さんの立案した作戦はこうだ。廊下の壁に俺と名前さんが左右に少し距離を置いて隠れて兵長を待ち伏せし、兵長が通りかかるのが見えたら第一発見者が「スカーフを!」と叫びもう1人の「引きちぎれ!」の合図で名前さんが立体機動装置からアンカーを射出し、俺が手に持っている板に刺す。兵長は突然足元に現れたワイヤーに足を引っ掛け顔面から転ぶというおぞましい作戦だ。


「エレン顔色悪いけど大丈夫?…不安なの?」
「少し…不安です。」
「大丈夫だよ!ハンジにも一緒に考えてもらった完璧な作戦だから!」


眩しいほどの笑顔で名前さんは言った。名前さん、俺が不安なのは作戦ではなく、その作戦を実行した後です。
でも、年上だけどいつも優しくて可愛いらしい名前さんとこうやって同じ時間を過ごせるのは正直嬉しかった。


「よし!じゃあ最後にもう1回だけ合言葉の練習しとこ!スカーフを!」
「ひ、引きちぎれ…。」
「だめだめ!そんな小さな声じゃ聞こえないよエレン。もう1回!スカーフを!」
「あ、名前さん後ろ!」
「えっ?」


いきなりその人は現れた。名前さんの背中越しに見える姿は間違いない、リヴァイ兵長だ。


「誰の何を引きちぎるだって。名前、もう1回言ってみろ。」
「リ、リヴァイ!何でそこに!」


リヴァイ兵長の額には深い皺が刻まれていて、機嫌が最悪なのが一目瞭然だった。
我らがスカーフを引きちぎれ団の団長である名前さんに指示を仰ぎたかったが、その名前さんは兵長に逃げられないように腕を掴まれ青い顔をしている。


(団長指示を!)


「くだらねぇことにエレンを巻き込むな。」
「それは…確かにそうだけど…。でも、リヴァイだって悪いんだからね。」
「昨日の事まだ根に持ってんのか。」
「…うん。」


名前さんは俯いてしまった。泣き出しそうな横顔に俺はハラハラした。名前さんのこんな表情は初めて見たからだ。それは紛れもなく、いつも明るく仕事をこなす名前さんの初めて見る一面だった。


「確かに昨日は俺も言い方が悪かったな。」


そう言うと、兵長は名前さんを大事そうに抱きしめた。俺の目の前で。


「私も…ごめんなさい。もうこんな事しない。」
「当たり前だ。」


さっきまで泣き出しそうだった名前さんは、今度は兵長の腕の中で嬉しそうに微笑んでいた。
俺は、また初めて見る分隊長としてではなく、ただの1人の女の子らしい名前さんの表情に今度はドキドキした。


2人の邪魔をしないように静かにその場を離れたが、途中で振り返ると名前さんを抱きしめたまま俺を睨みつける兵長と目が合った。
俺の気持ちは最初から兵長に読まれていたかもしれない。


 
[back to top]