縁側とほたる


私は夏の夜が大好きだ。
2年前この家を借りるまでは、生温い外の温度も纏わりつくような風もあんまり好きじゃなかった。でも今は違う。
何故なら今は、この家を借りる決め手になった縁側と一緒に過ごす大好きな人がいるから。
まぁ、その人は縁側には全然興味がなさそうだけど。


「あ!リヴァイさんもうお風呂上がったの?」
「ああ。何でそんな格好してんだ名前。祭りでもあんのか?」
「ううん。夏と言えば浴衣だから!さっ、リヴァイさんもお風呂から出てきたことだし縁側で一緒にビール飲もうよ。」
「暇な奴だな。」


何と言われても気にしません!
だって、リヴァイさんと縁側に並んでビールを飲みながら過ごすのが、この季節の一番の幸せな瞬間だから。


「良いから早く早く。」
「ちっ…しょうがねぇな。」


口ではそう言いながらも、いつもちゃんと縁側ビールに付き合ってくれるリヴァイさん。
私はこの人のこういう所が大好きだったりする。


「えへへ。じゃあ今日もかんぱーい!」


うん。今日のビールもやっぱり美味しい。やっぱりリヴァイさんが隣に居なくちゃダメだな。1度だけ1人で縁側ビールをしてみたけど、全然美味しく感じられなかったもんなぁ。

ビールを飲みながらそんなことを考えていると、私の視界にふわ〜っと黄色い光が入ってきた。


「…え?ホタル?」
「そうみたいだな。」


もう夏も半分が過ぎようとしているのにホタルが飛んでいるなんて驚いた。確かホタルのピークは6月ぐらいだったはず。


「季節外れな奴だな。」
「…うん。」


庭に迷い込んできたそのホタルの光は、どこか弱々しく寂しげで私の胸を切なくさせた。
群れで行動するホタルがたった1匹、それに求愛行動であるあの光を他のホタルが1匹も見ていないなんて悲しかった。


「名前もっとこっちに来い。」


リヴァイさんが私の腰に手を回して抱き寄せるから、私はギュっとリヴァイさんに抱きついた。


「どうした?」
「ううん。あのホタル見てたらちょっと寂しくなっただけ。」
「そうか。」


リヴァイさんの顔が見たくなって頭を上げると、少し頭を下げたリヴァイさんの唇が私の唇に触れた。その感触は温かくって心地良くて、悲しい気分を消してくれるようだった。


「その格好悪くねぇな。」
「本当?嬉しい。」
「ああ。どこからでも手が入りそうなのが良いな。」
「えっ!?柄とか色とかじゃなくて?だったらあんまり嬉しくない。」
「冗談だ。半分はな。」


そう言ってリヴァイさんは私の頭を撫でながらクッと笑った。

あのホタルの様に1人で光るのはやっぱり寂しいから、私はまだまだリヴァイさんと一緒に居たいなって思ったんだ。


 
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